勇者が世界を滅ぼす日
VS異世界勇者達
今日はルシェの報告を受ける予定だ。
食料も順調、アルマークの町を見ることができたのもよかった。とても刺激を受けた。
そんなことを考えていると、荒々しく執務室のドアが開く。
「アーシュ!! 大変だ!! ベルゼブブのところに王国軍の襲撃があった!!」
小さな小競り合いは何度かあった。その程度のものは警備をしている魔王軍の警備隊が事を収めている。
しかし今回は大規模な襲撃のようだ。
「状況は?」
「現在襲撃中。ベリアルの報告だと先遣隊がやられているから、手練れがいると思う。きっと王国騎士団だけじゃない」
「例の異世界の召喚者だろうか?」
「……たぶん」
「すぐにいこう!!」
すぐさまゲートを使ってC地区へと向かう。先遣隊が全滅するなら、これ以上軍を動かしても、ただでさえ疲弊して数が減っている魔王軍を無駄に減らすだけだ。
魔王軍の異物であるボクだけで行く方が良いだろう。
今回はアイリスにお願いして、全員残ってもらうことにした。それぞれが持ち場をしっかり守ってもらう。
ルシェには終わった後の事後処理に呼ぶと約束した。
王国軍と召喚者が相手だと、ボクはきっと醜態をさらしてしまいそうだったから、一人で行きたかった。
ゲートで飛ぶと周囲には誰もいなかった。
……焼け焦げたようなすえた臭いが周囲に充満している。被害が大きいのだ。
人間領に近い東側の方向へと駆け出す。正面から攻めてきたとなればこの先にいる可能性が高い。
村の中央付近では、すでにこと切れている悪魔が周囲に倒れている。その遺体の傷口を見ると、何度も切り刻まれている。
……遊んだな?
心臓が締め付けられる思いがして、逆に冷静になった。昔一回だけあった心が冷たくなる現象。
ボクはとても冷たく残酷になる。これをアイリスには見られたくなかったから一人で来たのだ。
村の中央からやや東へ走ったところで、騎士の集団を見つけた。輪になって何かを囲んでいる。王国軍だ。
状況を確かめるために、忍び寄る。
「んもっ……んも!」
「いやー!! ブブちゃん、死んじゃうよ!」
ザッ!! ザッ!! グザッ!! ザクッ!! ザクッ!!
「けけけっ! 悪魔殺したんのしぃ!」
「啓介、やめて!! なんでこんなことを!!」
「亜美、悪魔だからいくら刺してもいいんだよ?」
「美紅もたのしんでんじゃ~ん?」
「私達は勇者だ!! 悪魔を八つ裂きにするのは当然だ!!」
騎士団を囲っている中央にはベルゼブブと足を悪くしている少女がいた。そして近くには男二人、女二人、それとリーダーの女性一人がいる。
ベルゼブブは少女をかばい、何度も刺されて切り刻まれて満身創痍だ。
……なんてことを!!
じゃりっ……。
わざと音を立ててこちらに注意を引く。これ以上、彼らに害が及ばないように。
「な、なんだてめぇ!!」
「に、人間か?」
「ちょっとかっこよくな~い?」
「委員長! 聞いてみてよ!」
「……あなた、人間? なぜここに?」
代表で話しかけてきたのは、リーダー格の女。
長くて艶やか黒髪に鋭い目つき。清楚な女性だ。右手で髪をはらい、女性らしい仕草でこちらを微笑んで見ている。
そして見たことが無いような衣装。
……やはり召喚者だ。
心が冷えきっていた。分別無く、いつでも殺してしまいそうだ。
ただこの中で一人だけ手を出していない、周りのやつらを止めている子がいた。できればそいつを残したい。
「ああ……ボクは人間だ。なぜここを襲った?」
「なぜ? ただの訓練よ」
「訓練?」
「戦い慣れていないから。なぜここをということなら悪魔だからよ」
「……」
「あなたは人間でしょ?」
ボクが人間とわかると、警戒をといて仲間であるとでも言わんばかりの視線を向けてくる。
……もうこれに聞くことはないな。
「ふふ……キミは良い目をしている。私たちと一緒に来な――
ズドォゴン!!
……ビクンビクン!!
……ぶぶぶ……しょわわわわ……
「え……?」
「え? 委員長?」
「な、に? これ?」
「う……そ……」
あの美しい清楚な女性だったものは、すでに上半身がつぶれていた。
彼女は生命力が強かったため、残った下半身のみがビクンビクンと跳ねている。やがて尿と糞をまき散らして、動かなくなった。
「うそだろ――
「たすたすけ――
「いや……い――
ズドゥウウン!!
「ひぃぃ……もぅいやだ……」
しょわわわわわ……
他の召喚者も同じようにスタンプでミンチする。一人の子だけを残して。ただ彼女は恐怖で漏らしてしまっている。
その子にマントをかけて、丁重にあつかった。
「ごめんね。話を聞かせてくれないか?」
「……は、はぃ……」
そう言うと彼女は意識を失った。少し刺激が強かったようだ。
「おおおお、おい貴様!! なんてことを!!」
「ヒィイイ! 俺たちも殺される!」
「アアア、アミ様を返せぇ!!」
騎士団はもう用がないので全部潰した。
そうしているうちに魔王軍の第二班がやってきたようだ。彼らに終了したことを報告し、医療班の手配をお願いした。
「ベルゼブブ!! 大丈夫か!!」
「……ん……も……」
「いやー!! ぶぶちゃん!! 死んじゃいやぁ!!」
「……んもも」
瀕死になりながらもパニックを起こしている女の子を撫でてたしなめる。医療班が来るまで、ボクが癒しをかけることにした。
「んも~」
「……おじちゃん、ぶぶちゃんがありがとって」
「おじちゃんじゃない!」
「……じゃあおに……? おじにいちゃん?」
「……ぐ、もうそれでいいよ……」
「……んも~」
ベルゼブブも苦笑している。もう笑う程度の余裕は出てきている。きっと命の危機からは脱したのだろう。
しばらくすると報告を聞いたルシェがサリエルを連れてやって来た。深い傷を負っていると聞いてきたそうだ。
「アーシュ早かったね!」
「さすがルシェだ! たすかったよ」
「えへへ~!」
癒しをかけ続けたので、ベルゼブブの顔色が先ほどより良くなっている。
「サリエル、交代してくれ」
「我、これを危惧す。直ちに癒やしたもう」
かったすぎる!!
硬すぎて何を言っているかわからない。
ボクより堅苦しくて、融通が利かないやつは初めて見た。でもさすが治療が専門なだけあって、彼が癒しをかけ、傷口も治療し始めると、一気に回復へと向かう。
「サリエル、ありがとう! あとは任せるよ」
「我、了承した。汝も休息されよ」
「ああ、わかったよ」
……今回の件で倫理観が裏返った。
魔物や悪魔が死ぬことに抵抗が強くなって、人間が死ぬことになんとも思わなくなっていた。
そういう意味で、心が堪えた。
そんなボクをサリエルは見抜いて、早く安めと気遣ってくれたのだろう。
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