俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第55話 ばぶー♪


「よ、よちよち、いいこでちゅね〜」

「ば、ばぶー?」

「やーん!   か・わ・い・い〜!」



ドウシテコウナッタ……



話は数時間前にさかのぼる----




「クロン、気にしてはいけませんよ。ガルムエルハルト様もあなたのことが嫌いでそのようなことを仰っているのではありません」

「そうですよぉ!   元気出しましょ、ね?」

寮に戻るや、先程の出来事を二人に話した。すると両側から俺を囲んで励まし始めた。

「でも、俺が混乱するのはわかっていたはずなのに……」

指揮官としてこれ以上見過ごすわけにはいかないから、喧嘩を止めるために”真実”は俺が話す!   ということなのだから。でもその喧嘩が起こった原因は、トルツカ君が俺の村を含め開拓村が帝国軍の侵略によって全滅した、という戯言からだった。
同じことを真のことだ、受け入れろ、なんて言われたら俺がさらに怒ることくらいわかる筈だ。

「ガルムエルハルト様にも立場というものがお有りなのです。戦争に行くのですよ?   クロンにとっては許しがたい発言だったでしょうが、指揮官としては隊の連携や士気を保つことを考えるのは当たり前なのです」

「クロンと、そのトルツカ君には同じ勇者候補として仲良くして欲しいということだと思いますっ!」

「むぅ……」

理屈はわからんでもないが、でもそれならトルツカ君が謝って発言を撤回すればいい話だ。ガルムエルハルト様があっちを擁護するような発言をされる必要がどこにあるというのか?

「トルツカ君もぉ、自分の発言を気にしていると思いますよ?」

「でも、まだ一度も謝られていませんが」

学年が違うということもあるが、この二週間顔も合わせていない。他の勇者候補達にもだ。唯一、同じクラスのアナスタシアだけが俺の味方ということもあり普通に話をしているが。

「きっと機会がないだけですよ。明日には、仲直りできる筈です」

「そう……ですかね」

別に、トルツカ君のことが元から嫌いなわけではない。少し堅苦しい雰囲気はあるが、真面目な子なのだと思える。向こうが自分の過ちを認めるというのであれば、俺も素直に仲良くできるのだが。

「とにかく今ウジウジしていても仕方ありません、晩御飯にしましょう」

「そうですね!   私、今日は頑張って料理しますからね!」

フォーナさんとエレナさんは二人して台所へと向かった。

「……はあ」

まさか二週間も引きずることになるだなんて思っていなかった。でも俺は認められない、自分の住んでいた村が、家族がめちゃくちゃにされたなんてことを。



「クロン」
「クロンっ!」

「はい?」

食事が終わり、風呂にも入り。
眠くなるまでとリビングのソファに座ってぼーっとしていると、二人が机の右に置かれているソファに腰掛けた。

「ここに来てください」

二人は間を開けて座り、フォーナさんがその隙間をポンポンと手で叩く。

「はい」

言われた通りソファから立ち上がり、二人の間に座り直す。
と、頭をぐいっと横に押され、エレナさんの膝へ押し付けられた。

「えっ!?」

「暴れないでください、大丈夫ですよ、何もしませんから」

フォーナさんの顔が逆さに見える。

「は、はあ……あの、これは一体?」

「私たちは二人で話し合ったのです、クロンのことを慰めてあげようと!」

フォーナさんがぐっと拳を握り、口角を上げる。

「そうですか……俺の、ために」

本当に村が滅んでいたらどうしようとか、勇者候補なのにもう仲違いをしてしまったこととか、ガルムエルハルト様の話とか。口には出さずとも、色々と悩んでいたことを見抜かれたのかもしれない……

「寝心地はどうですかぁ?」

上を向き、エレナさんに返答しようとする。

「うぉっ」

が、目の前の大きな双子山に視界を支配された。驚いて声を出してしまう。

「どうしましたぁ?」
「なにか、問題が?」

「い、いえ……なんでもありません」

その山を出来るだけ意識しないようすっと目を逸らす。
でも、下はムチムチ、上はモチモチ。目のやり場ならぬ意識のやり場に困る……

「寝心地は、とても良くていいです……ここのベッドも高級品な感じがしますが、それとは違う安らぎがあります」

「あら、そう?   私も、こうしていると子供ができた気分になりますねぇ〜。そうだ、フォーナもどうですか?」

「え?   膝枕をですか?」

「ええ、折角ですので」

「あ、うう……」

フォーナさんが顔を赤くし膝を擦り合わせる。

「いやいや、そんな!   十分安らぎましたから!」

今この状態でさえ恥ずかしさがあるのに二人ともにだなんて耐えられる気がしない。

「……わ、私ではクロンのお役に立てないでしょうか?」

だが、口を尖らせなぜか残念そうな顔をするフォーナさんを見ると……

「いえ、お願いしますっ!」

断れるわけがないよね、うん。

「で、ではどうぞ」

太ももをポンポンと叩く。俺はエレナさんの太ももからフォーナさんの太ももへと頭を移し替えた。

おお、エレナさんのムチムチした柔らかさとはまた違う、弾力のあるすべすべ感が頬で感じられる。

「ど、どうでしょうか?」

「はい、すごく良いです、ありがとうございます」

今度は視界を塞ぐものがないため、フォーナさんの顔を見上げることができる。

「そ、そうですか。ご満足いただけているようでなによりです……」

「うふふ、フォーナも満更じゃなさそうですねぇ?」

エレナさんはニヤニヤと俺たちのことを眺めている。

「そ、それは……」

言葉につまり更に顔を赤くするフォーナさん。膝枕は、する方も嬉しいものなのだろうか?

「それにこうして見るとやはり親子みたいですね!   フォーナ、頭を撫でてみてくださいよぉ!」

「えっ!?   そ、それは流石に」

「えぇ〜、何を恥ずかしがっているのですか?   クロンの為ですよぉ、クロンの!」

「クロンの、為。クロンの……そう、ですか」

フォーナさんはぶつぶつと何度も同じことをつぶやく。そして覚悟を決めたという顔になった。いや、そこまでされなくてもとは思う。まあ美人な女性二人がここまでしてくれるだなんて、悪い気はしないが。

俺の頭を手を添える。そしてゆっくりと撫で始めた。

「…………よ、よちよち、いいこでちゅね〜」

え?   何故に赤ちゃん言葉!?

「ば、ばぶー?」

俺は何故か咄嗟に赤ちゃんの真似をしてしまう。

「やーん!   か・わ・い・い〜!」

エレナさんは俺たちの様子を体を横に揺らしながら見て黄色い声を上げる。

「くっ!   だ、大丈夫でちゅか?   ママがついていまちゅからねー!」

フォーナさんは顔から湯気が出そうなほど真っ赤で、更に完全に目が据わってしまっている。もう自分でも止められないといった様子だ。

「ば、ばぶー!」

「でへへぇ、クロンの貴重なデレ……この目に焼き付けないと!」

エレナさんは止めるどころかこの状況を一人楽しんでいる。あなたが言い出したことでしょうに!   いや、赤ちゃんの真似をした俺も悪いですけどね!


結局、一時間ほど経ってフォーナさんが我を取り戻すまで、親子ごっこは続いたのであった。











<昨日、クロンを癒す前>

「わ、私もですか?」

「ええ、きっとクロンも喜びますよ!」

私とエレナは、クロンが風呂に入っている間、二人で彼を慰める方法を考えていました。
すると彼女は、私と二人で膝枕をしてあげよう、と言い出したのです。

「でも……私の膝なんかで」

別にクロンにそうしてあげることが嫌という訳ではありません。ですが、この鍛えられたせいで柔らかさのない、年頃の乙女のものとは言い難い脚を使っても良いものか悩んでいるのです。

「大丈夫ですよぅ、柔らかさと弾みの良さ、それぞれの良さでクロンを楽しませてあげればいいのです!   私も、柔らかさゆえに弾力がイマイチですから」

「うーん……」

「そんなに悩まなくても、物は試しに、ですよ!   フォーナは美人さんなんですから、そんな人にしてもらえるというだけで、男は喜ぶものです」

「ですが、クロンはまだ九歳なのですよ?」

男といっても、子供なのだ。”女を楽しむ”という感情は少ないのでな?

「でもあの子、結構おませさんなんですよね」

「え?」

「たまに私の胸を眺めていたりしますし、顔を近づけると赤くなりますし、年相応、それ以上の情欲は持ち合わせていると思います」

「クロンが……」

と、ということは、好きな人がいたりも……?

「こういう話題になると、あなたが何を考えているのか、私にはすぐにわかっちゃいますねぇ」

「え?」

「顔が女の顔になっていますよ?   もしかしてフォーナ……」

エレナの口角がさらに上がる。目も痴話喧嘩を見た野次馬のようになっている。

「いやいや、それはありませんっ!!  わ、私とクロンは、あくまで学園生とその使用人という立場なのですから!」

そうです、そのような感情を抱いてしまうことはご法度なのです!

「でもデートの申し込みはしましたよね?   ね!」

エレナがズイズイと攻めてくる。

「うぅ……それは、エレナが……」

「私がなんですか?」

「いや、その……」

確かに、エレナがクロンをデートに誘ったからといって、それだけで私が対抗する理由の説明はつかない……

「まあ、この話はまた今度で」

はぁ……エレナったら、こういう話題がとても好きなようで、すきあらば私の顔を赤くさせようとしてくるのですから。

「あ、クロンが戻ってきたようですよ!   行きましょう!」

「ちょっと、エレナ----」









「では行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。気をつけてくださいね〜」

エレナさんが笑顔で手を振ってくれる。俺は振り返し気をシャキッと引き締め直す。

「はい!」

5018号室の扉を開け部屋を出る。

「……はあ」

昨日のあの事件・・から一夜が明け、フォーナさんは俺が出発する時間になっても一度も顔を出さず、逆にエレナさんは妙にツヤツヤした肌で見送ってくれていた。

あの膝枕事件は、俺も途中から訳が分からなくなっており悪ノリしてしまったのが悪かった。
フォーナさんも普段はそんなはしゃぐような人ではないはずなのに、俺の母親になりきっていた。
さぞ恥ずかしかろう……俺も未だに恥ずかしい。

それはともかく、さあ、二回目の集まりだ。トルツカ君と仲直りしないとなあ……まあ、向こうが謝るのが筋だと思うが。




「じゃあ、今度こそ隊長その他役割を決めてもらうぞ!   昼までに決めて、午後からはここでそれぞれのスキルを確認しあってもらう!」

ガルムエルハルト様が、俺たちの前に立ち話をする。
だから模擬戦場なのか。それぞれのスキルがどのようなものか、実際に確認しないと戦略センリャク戦術センジュツも組み立てられないからな。

ガルムエルハルト様は客席へ向かい俺たちのことを眺め始めた。
俺たちも、十二人で輪を作り相談を始める。

何の偶然か、トルツカ君と俺が隣り合わせとなった。左にトルツカ君、右にアナスタシアだ。

気まずい空気が流れる。皆、どう話を切り出し始めたらいいか迷っているようだ。俺も、いざここに来て、トルツカ君に対してこの前の件に触れようか触れまいか決めかねている。

「あの……クロン君」

「は、はい?」

と、トルツカ君の方から話しかけて来た。皆の視線が俺たちに集中する。

「この前は……その……すまなかった!」

「え?」

立ち上がり、頭を直角になるほど下げる。

「もともと俺はうじうじした態度や空気が嫌いなのだ。アナスタシアさんや他の皆の言うか言わまいか迷うような空気がいつまでも変わらないことにいら立ちを覚え、君の心を抉るような発言をしてしまった。前言は撤回させてもらう、申し訳なかった」

「トルツカ君……」

「開拓村の発言は、聞かなかったことにしてくれ。この通りだ」

「いや、その……わかりました……」

ちょっと拍子抜けだ。また言い合いになってしまうのかと覚悟もしていたが、まさか向こうからこんなにあっさり謝ってくるとは。

「トルツカ君、ちゃんと言えましたね!」

と、頭を下げ続けるトルツカ君の肩をアナスタシアがポンと叩いた。そして俺を見て舌をペロッと出す。

もしかして、アナスタシアが説得してくれたのか?   彼女にも色々と迷惑をかけてしまったな。

「あ、アナスタシアさん」

トルツカ君が顔を赤くする。んん?
まあ、前言撤回してくれると言うことだ、俺も謝っておくか。

「ごめん、トルツカ君。俺もムキになってしまった……これからは仲良くしてほしい」

笑顔を心がけ、片手を差し出す。

「ああ……クロン君も同じ勇者候補なのだ、俺がこのような空気にしてしまったことを、今は恥じている。アナスタシアさんに色々とさとされて気づいたよ。他のみんなも、すまなかった」

他の九人は大丈夫だ、と、それぞれに返す。

アナスタシアが俺の隣へ戻ってきた。

「ごめん、君がトルツカ君に何か言ってくれたんだな」

「見ていて心苦しかったから……私も、ちょっと怒っていましたからね、時間のあるときに二年生の教室へ行って話をしたのです。最初は主張を譲ってくれなかったけど、最後にはきちんと理解してもらえたようで良かったわ」

そうだったのか、わざわざ本人を説得しに行ってくれて……

「うん、ありがとう」

「いいえ、お礼なら……身体で払ってもらいましょうか」

「えっ!?」

「冗談ですよっ」

アナスタシアはうふふと笑う。
賢くて、スキルも強いし、友達想い。いい女の子だよ、本当。

「じゃあ、丸く収まったところで、役割決めを始めようか」

ローソ君が眼鏡をクィッとあげ宣言した。



          

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