俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第48話


「--それじゃお父さん、私は木の実を取りに行ってくるね」

「ああ。気をつけて行くんだよ」

「大丈夫だよ!」

我が愛しのアナは今日も元気に家を飛び出して行く。
お友達・・・のクロンくんがいなくなったにも関わらず、それは変わらない。無理をしている風でもないし、少し不思議なのだが。

まあそのクロンくんが皇都へ向かったことによって、約束通り金貨一千万枚が支払われた。と言っても全てを一気に貰える訳ではない。まずは我が村の予算として数字上でつけておいて、三十二年間と二ヶ月に渡って少しずつ支払われるのだ。

一月に二万五千枚ずつが、ついこの間村に作られた銀行に支払われる。三十二年間毎月欠かさず払われるとしたら、九百六十万枚。残りの四十万枚は前払い金として先の冬の二月、三月に分けて二十万枚ずつ既に支払われている。
今月一日に支払われたぶんも合わせると、四十二万五千枚だ。

勿論、こんな貧しい村においてはとんでもない大金だ。
そのため銀行は最重要施設として厳重な警備の元に管理されるという。今も何人もの騎士様たちが警備をしている。騎士様たちはそれだけでなく村の開拓も手伝って下さっているのでとてもありがたい。

なお、今日はその春の一月一日、新しい年の始まりだ。だがこの村では昨日と変わらず開拓作業が行われている。祝いとして蓄えを少し放出したくらいか。
私も新しい設計図案を確認しながら、今後の開拓について調整しなければならない。

何せ大金が手に入ったのだ。今までは金がなくて造りたくても造れなかったあれやこれやが実現するかもしれないのだ。
私の親友であった男は、その頭脳を見込まれ新たな開拓村を指揮している。その村は今やこの周辺で一番の発展を遂げている。開拓村を統治する街の領主様にも一目置かれているらしい。

別にやっかみなどではないが、この歳になっても少しの刺激は心地よいものなのだ。あいつと畑を耕す速さを競った日々を思い出すな……

だが金が手に入ったとしても、それを使い切る日が来ないかもしれない。クロンくんが皇都へ呼ばれた理由もそれだが、後数十年でこの世界が滅びるかもしれないのだ。

先の狼型の魔物が大量発生した事件、あれは村人たちに恐怖を植え付けた。また同じようなことがあれば皆村を見捨てて逃げてしまうかもしれない。

だが私は村長なのだ、この開拓村の責任者なのだ。例え世界が滅びようとも、最後の瞬間まで村の発展を見届ける義務があるし、その心意気もある。なので今は目先のことを精一杯こなすのみだ。

「村長、先月の報告書ができました」

「おお、もうか」

机に向かって目を凝らしている私の元へ、秘書の一人が書類を持ってきた。秘書といえば大層なものに聞こえるかもしれないが、頭のいい村人を金を払って雇っているだけだ。そう、クロンくんの父親であるアエオンをだ。

アエオンは元は行商人だったが、この村に住むサティに惚れそのまま居着いたのだ。結果、クロンくんが生まれ、今はこうして私の右腕として働いてくれている。
書類仕事だけではなく、元行商人としてこの村に来る商人と値引きのを交渉してくれるし、国のお役人を言い負かして一千万枚に利息をつけさせてもくれた。

あの銀行は名目上は国が管理する建物らしく、この村は国にお金を預けていることとなる。国は普通の銀行と同様、預かったお金に利息をつけるのだ。なんだか騙しているような気もしてくるが、それが経済なのだとアエオンは言っていた。

「村長、アナちゃんは?」

アエオンが書類を机の上にどさっと置きながら聞く。
こ、こんなにあるのか……優秀なのも困りものだな。

「ああ、今日も木の実を取りに行ったよ」

「まだ友達は?」

「いないな」

別に私が作るなと言っているわけでもない。だがアナはなぜか、他の子供達と交流を持とうとしないのだ。唯一の友達が男の子であるクロンくんいうのだからどうしたものか。

「あの歳ごろの女の子が遊びもせず木の実をとるばかり……心配ですね」

「だが前は、週に一回の君の息子との”逢瀬”以外は家から出もしなかったのだぞ。外に出て何かをしているだけマシだ」

「お、逢瀬……村長、クロンとアナちゃんは別にそんな関係じゃ」

「どうだかな」

仕事で忙しい私でも気付くくらいだ。相当入れ込んでいたはずだ。
そんな子が急にいなくなったというのに、元気さは変わらない愛娘をみて気にならない方がおかしい。

「まあ、その話は置いといて、計画は順調なのですか?」

「大丈夫だ。今は村の外れの森を切り開いている最中だ、夏までには平地が出来上がるだろう」

「それは良かった!   でも、せっかく資金があるのですから、もっと大規模なものを作っていいと思います」

「金があっても人手が足りぬ。変な奴が村に紛れ込んでも困るし、入植者の受け入れは慎重にやらなければならない。何事もそう簡単に進むわけではないのだ」

「すみません、商人ですから、せっかちなもので」

「書類仕事はもう少しゆっくりしてもいいんだぞ」

「ははは、ご冗談を」

アエオンが笑う。冗談ではないのだが。


--ズンッ


「ん?」
「なんだ?」

急に、地面が揺れた。


--ドンッ、ドンッ!


今度は続けてだ。しかも音がどんどんと大きくなっている。

「……ちょっと様子を見てきます」

「ああ、頼む」

アエオンが執務室を出て行く。

「一体なんなんだ?」

まさか、また何か襲ってきたんじゃなかろうな。


--ドーン!


私は嫌な予感がし、椅子から立ち上がり部屋を出る。
そして開拓事務所の玄関を出たその瞬間。



最後に私が目にしたものは、こちらに飛んでくる黒い塊であった。












「やっ、来ないで!」

鎧を着た兵士たちが私を追いかける。

「げへへ、そういうなヨォ、俺たちと楽しもうぜぇ?」

その数は五人、皆血走った目で舌なめずりをしている。気持ち悪い。

「いやあっ!」

頑張って逃げていた私だが、木の根っこに足を引っ掛けて転んでしまった。

「お遊びはここまでだぜ、嬢ちゃん?」

兵士の一人に両腕両脚を掴まれる。

「痛っ、やめ、離してっ!」

抵抗するが、力の差は圧倒的だ。

「離して、って言われてもなあ?」

『グヘヘェ』

「ひぅ」

服の胸に手をかけ破られてしまった。

「うむ、この歳頃はいいねぇ」
「思ったよりあるじゃねえか」
「本当に子供か?」

男たちはジロジロと、剥き出しになった私の胸を見る。

「まあまあ、入れてみればわかることだ」

場を取り仕切っているハゲ頭の男は視線を下に移す。私は八分丈のズボンを擦り合わせ股を閉じようとする。だが力叶わず広げられてしまう。

「むふふ」

男が、ナイフで股を突く。

……じょろろろっ

私は恐怖で漏らしてしまった。

「ウッヒョ、幼女のおもらしキタァ!   この場面を切り取りたいくらいだぜ」

「煩いぞ!」

「へ、へえ、すみません」

後ろに立つ痩せ顔兵士がハゲ頭にペコペコと頭を下げ謝る。

「……気を取り直して。そらっ」

「きゃっ」

ナイフでズボンの前を切り裂かれてしまう。下着まで一気にだ。
更にその刃が勢い余って私の頬を擦った。痛みが走る。

「おおっとぉ、興奮して力が入り過ぎちまったか?」

ハゲ頭は血のついたナイフを舌でペロリと舐め上げた。

「隊長、傷物はまぜぇですぜ?」

太った兵士が言う。

「なに、これくらいなら構わねえよ。女をおもちゃにする貴族様もいるからな、顔の傷なんて目立たなくなるだろうよ」

「隊長も人が悪い」

『がははは!』

なに、私はどこかへ連れ去られるの?   じゃあ、逃げるチャンスがある?

「でもその前に、姦通させておかないとな。バレやしねえ、村の風習とかなんとか言わせればいい」

カンツウ?

「その為には、調教も必要ですぜ」

「楽しみが増えていいじゃねえか」

「ぎひひひ」
「幼女を調教!」
「足の指くらいなら貰っていいかな?」

男たちの目つきがさらに悪くなる。私はついに、我慢していた涙まで溢れてきてしまった。痛いのはやだ……痛いのはやだっ!

「ふ、ふぇぇぇ……ぐすっ、うえええん」

「おいおい、泣いちまったぜ」

「ママァ、助けて〜〜」

『ギャハハハ!』

男たちが笑い声を上げるが、私は泣き続ける。

「ではまず俺様からだ!   文句言うなよ!」

「どうぞどうぞ」
「勿論ですぜ」
「……中出しは勘弁で」
「なに、掻き出せばいいだけだろ」
「その粗末なものでか?」
「なにっ!?」

「お前ら黙れ!」

あれこれと言い合っていた兵士たちをハゲ頭が怒鳴り黙らせる。
森は一気に静かになり、村の方から聞こえる鈍い音が微かに響くだけとなった。

「おらよっ!」

ハゲ頭の股から棒が飛び出す。えっ、大きい……

「……ぐすっ、こ、これを、どうするの?」

「どう?   こうするのさ!」

ニヤリと歯を見せ笑い、私の股に棒を押し当てる。

「えっ?」

「痛いだろうけど、我慢しろよ。すぐに気持ちよくしてやるからな!」

「や、やめっ--」

その瞬間私は、無意識にある名前を思い浮かべた。


--ラビュファト様、助けて!!



----その願い聞き届けよう。愛は偉大なり、我は慈愛の神ラビュファト。



すると、頭の中に不思議な声が響いた。


--ら、ラビュファト様なんですか!?


----そうだ、久しぶりだな。


や、やった!   通じたんだ!


----ん、何やら大変そうだな?


--た、助けてください!   死ぬのはいやっ!


----助けて欲しいと?


--はいっ!


----なるほど、確かに危ない状況だ。しかし、無条件でと言うのも……


--な、何でもしますからっ!


----ん?   今なんと。


--助かったら、なんでもします。だからお願い!


----ふむ、わかった。その言葉、忘れるではないぞ----


「!!!」

声が聞こえなくなったかと思うと、すぐさま目の前が白い光に包まれた。

「まぶ、しっ」

私はとっさに目を瞑る。
そして段々と光が収まり、恐る恐る薄っすらと目を開けた。すると


「ようこそ、我が神殿へ」


目の前には、巨大な人が立っていた。









「うおっ、なんだ!?」

女の子が目を瞑ったその時、いきなり強烈な光が俺様の目を襲った。

『ぎゃあーーっ!』

部下たちの悲鳴が聞こえる。

「な、なんだ、何が起こったんだ!」

顔を手で覆うが、光は目の中に入れられたかのように輝き続ける。

「目が、目がーっ!」

しかし十秒もすると、光が収まり僅かに視界が開けてきた。

俺様は少ない視界ですぐさまあたりを確認する。何故か、部下達が全員消えており、その地面には暖炉のように灰が積もっていた。
あの上物少女も消えている。

「ん?」

股間に違和感を感じ、下を見る。

と、俺様のオレサマが先っぽから灰になっているのが見えた。

「うわああああああ!?   なんじゃこりゃああああ!」

サラサラと砂山が崩れるように、地面に灰が溢れる。同時に激しい痛みが襲った。

「うぎゃあああぉぉあぁぉあ!   た、たすけて、ダズゲデええええ」

身体がどんどんと灰に変わっていく。


やがて意識が闇へと飲み込まれた。


          

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