俺はこの「手」で世界を救う!
第47話
「遠征に?」
「ああ。あれ、あまり驚かないんだね?」
「ええ。だって、ガルムエルハルト様から戦争に行くことは聞いていましたし……」
「そうだったか。もっと驚くかと思ったのだが。肝が座っているな」
ランガジーノ様がフッと笑う。
「そういう訳でも……唯、わかっていたことなので。ですが、遠征隊は期末試験の結果で選ばれるのでは?」
「その通りだ。だが遠征隊そのものに加わってもらう訳ではない」
「ではどうするのですか?」
「この学園には、君以外にも勇者候補がいることは知っているね?」
「勿論。アナスタシア……アーナジュタズィーエ様はそうだと聞いていますし、他にも入学試験前の鍛錬の時に見かけた人が、新入生の中に何人かいましたから」
「その通りだ。勇者候補自体は一年生だけではなく、六年生まで、そして他の学校に通っている生徒や既に卒業した者もいる。今回は、この国立学園にいる勇者候補によって隊を組むこととなった」
「そうですか、勇者候補たちで」
「今のところ、六学年で十二人いるんだ。丁度各学年に二人ずつだね。因みにこれは選んだ訳じゃなく偶然なんだよ」
「十二人……それは軍隊としては多いんですか、少ないんですか?」
「明らかに少ないね。この前の帝国軍は十二万人もいたんだよ?」
「そ、そうですね」
一万倍……いくらスキルホルダーといえども叶うわけないか。
「別に君達にそれだけを相手にしろと言っているわけじゃない。唯、学園から選ばれる討伐隊とは別働隊として動いてもらいたいんだよ」
「具体的には?」
「我が国の間者が帝国に侵入しているんだ。そこからもたらされた情報によると、帝国は何やら新兵器を用意しているみたいなんだ」
「新兵器?」
「大砲のようだが、その長さが妙に細長いらしいんだよ。君が十人以上入るくらいの長さがあるらしいんだ」
「そんなに!」
大砲といえば、俺が一人入れば大きい方のはずだ。そんな大きな大砲、何に使うんだ?   しかも細長いなんて、扱い辛そうだ。放っておいてもぽっきりと折れるんじゃないか?
「その新兵器が仮に戦場に投入されるとなるとどういう事態になるかわからない。ということで、君達には工作員としてその兵器を見つけ次第破壊して欲しいんだ。これは戦闘中に限った話ではない。もしかすると夜、敵陣に忍び込んで貰うかもしれないし、戦闘開始前にあぶり出しをしてもらうかも知れない」
つまりはそのぶん危険があるぞ、と仰りたいのだろう。
ランガジーノ様は一度間を置く。
「……やってくれるかい?」
「はい!   覚悟は出来ています。その任務、承ります」
「……はははは!   流石だね、難しい言葉を知っている」
ランガジーノ様は堰を切ったように笑い出す。
「父さんからいくつか教えられたので。知らない言葉もありますが」
「嫌々、その歳で大したものだよ。その心構えもね。実は今この時まで断られるかとおもっていたんだ。出会った頃は本当にただの少年だったが、今は大人にも引けを取らない立派な勇者候補だよ。僕は断言するね」
「ありがとうございます!」
「うん、というわけで話は以上だ。ごめんね、時間を取らせてしまった」
時計を見ると、もう後十分もない。
「いいえ、勇者候補の人達とはいつ会えるんでしょうか?」
「そこらへんは、フォーナを通じて教えるよ。彼女は本来僕の秘書だからね」
「そうでしたね」
「この件を受けてくれるかどうかは、僕が直接聞きたかったんだ。後のやり取りは間接的なものになると思う、すまない」
「いえ、久し振りに会えたので嬉しかったです!」
「うん、僕も君の元気な姿を見られて良かったよ。じゃ、僕はここに残るから、君は実技の授業だろう?」
「はい、失礼します」
一度臣下の礼を取ってから、学園長の部屋を退室した。
「来週の週末ですか?」
「はい、鍛錬場に集まるようにと」
「わかりました、ありがとうございます」
夜、食事後、自室でフォーナさんと勇者候補についてのやり取りをしていた。
「勇者候補については、当日まで極秘ということで、私も教えられていませんので」
「そうなのですか」
勇者候補に対してまで他の勇者候補は秘密なんだな。でもアナスタシアについてはランガジーノ様が教えてくれたような。
「ああ、アーナジュタズィーエ様については、特例とのことです。同じ組の勇者候補は教えても問題ないだろうということでした」
「そうですか」
最近のフォーナさんはよく俺の考えていることを察するような気がするな。
「それも使用人として必要な技術ですので」
「!?」
い、今のもわかったのか。
「まあ、半分くらいは勘ですが」
「勘?」
「女の、勘です」
フォーナさんの目がキラリと光った気がした。
「女といえば」
「はい?」
フォーナさんが椅子から立ち上がり近づく。
「最近のクロンは、やけに女性に囲まれていますよね?」
「そ、そうですかね?」
しゃがみこんで目線を合わせてきたフォーナさんから目をそらす。
「誰か気になる娘でも?」
「嫌々、そんな余裕ないですって」
「では、私やエレナは?」
「それは……同じ部屋に住んでいるという点では、少し恥ずかしい気もしますが」
「そ、それだけですか?」
「え?」
「じ、女性としてき、気になったり……しませんか?」
今度はフォーナさんが目を逸らす。少し顔が赤くなる。
「……まあ、綺麗な女性だとは、出会った時から思っていましたけど?」
嘘ではない、美人という言葉が似合う人だと思う。
「っ!   そ、そうですか……きょ、今日はもう寝ましょう!   お休みなさいませ!」
フォーナさんはバタバタと隣の使用人室に帰って行った。
「え?   はい、お休みなさい」
今のは何だったんだ?
にしても、来週末か。一体どんな人達なのだろうか?
春の三月十四日、予定通り勇者候補達が一度集まることとなった。
誰が呼ばれているかはわからない。アナスタシアも別々に集合するように言われている。
「鍛錬場だったな」
「クロン、おはようございます」
「おはようございまふ〜」
リビングに出ると、丁度フォーナさんとエレナさんも使用人室から出てくるところだった。
「おはようございます。あれ、エレナさん、目の下にクマが出来てますよ?」
「あふぅ、さ、先に顔を洗ってきますっ!」
エレナさんは反対側の風呂場へビュッと風切り音がなりそうな速さで駆け込んだ。
「?   そんなに急がなくてもいいのに」
「乙女には色々とあるのですよ」
と、フォーナさんが言う。乙女……うん、乙女だな。扉の奥からドス黒い気が流れてきているけど……
そしてまたすごい速さでリビングへ戻ってきた。
「ふう……改めておはようございますっ、クロン!」
エレナさんの顔はつるつるピカピカになっていた。
「はあ、おはようございます……」
「……なにか?」
顔は笑っているのに目が怖い。
「いっ、いえっ」
「そうですかぁ?   では私は、朝ごはんの用意をしてきますね」
そう言うとエレナさんは台所兼食卓であるダイニングキッチンへ向かった。
「……ところで」
「はい?」
俺が話しかけると、フォーナさんがこちらを見る。
「その格好……いつまでしているんですか?」
ここ暫く着ていなかったが、珍しくあのベイビードールを身につけていた。
「えっ?   っっっっっ!   き、着替えてまいりますっ!!」
フォーナさんもエレナさんに負けないくらいの速さで使用人室へ戻る。
「……眼福」
朝からいいものが見られた。
「どうしたんですか?」
と、ダイニングキッチンの扉からからエレナさんが顔を出す。
「いえ、何でもありませんよ」
「?   そうですか、もう少し待っていてくださいね〜」
「はい、ありがとうございます」
リビングのソファへ腰を下ろす。
勇者候補……世界を救う者達。やはりそのぶん凄い力を持った人達なのだろう。俺はそんな人たちについていけるだろうか?
今回は国立学園の生徒達だけという話だが、勇者候補自体はこの学園だけじゃなく、他にも何人もいるという話だ。
勇者候補に選ばれるのは、スキル持ちだけじゃないということだよな?   じゃあ、すごい剣技を使えたり、とんでもない魔法を唱えられたりするんだろうか、それは楽しみだ。
俺がそんな不安と期待の狭間で心を揺れ動かしていると、使用人室からフォーナさんが戻ってきた。
「お、お待たせいたしました。先ほどは痴態をお見せし申し訳ありませんでした」
いつものように男性用の青い執事服を身につけたフォーナさんが頭を下げる。
因みにこの執事服は上着のボタンが金色という点以外は日によって色が違う。昨日は真っ黒だった。
「いえ、そんな。俺たちの仲じゃないですか、変にかしこまらないでくださいよ」
「……そういうことでしたら」
フォーナさんは頭を上げ、そして一瞬ふっと笑顔を見せた。
「?」
「あ、いえ。まさかクロンからそんなことを言われる日が来るとは、と。出会った当初は半ば怯えているような態度をでしたからね。心の余裕が出来てきたのでしょう」
「余裕ですか。今でも毎日大変ですけどね」
苦笑いで言葉を返す。
「余計な気を使わなくて済む、という点では同じでは?」
「そうかもしれませんね」
フォーナさんはまた、少しだけ口角を上げた。
「出来ましたよ〜!」
と、エレナさんの声が聞こえた。
「はい!」
「今行きます」
「----さて、貴殿らに集まって貰った理由については既に理解しているものとして話を進める。私は栄えある神皇国の第八騎士団副団長の、ガルムエルハルト・ディ・ボンバルディウスだ!   伯爵の位を授かっている」
伯爵様!?   前は男爵様だったのに!   凄いなあ。
「今回の帝国軍討伐遠征隊の別働隊指揮官を務める。よろしく頼むぞ」
『はい!』
場に集まった十二人が一斉に返事をする。
「ではまず始めに自己紹介から始めよう。一番目は六年一組一番、マリアネット・グリムグラスからだ」
「はい」
一番右端に立つ、黒の蝶ネクタイを付けた長い金髪を頭の両横でくるくるさせた頭の女性が前に出る。俺は左端なので、自己紹介は一番最後になるだろうか。
ん、グリムグラス……?
「これから自己紹介をしますが、もしかしたら私のことをご存じない方がいらっしゃるかもしれません。驚かないでくださいまし」
女性は一呼吸置く。
「私の名は、マリアネット・フーツ・フィン・グリムグラスでございます。この栄えある神皇国が第二神女、ですが今はただの学園生ですので悪しからず。年齢は十五歳、スキル名は<操り人形>。よろしくお願い致しますわ」
「!!」
俺は驚きで一瞬身体が強張る。
ってあれ、他のみんなからはそんな空気は伝わってこないぞ?
「ご存じないのはクロンさんだけですわ」
「えっ」
横のアナスタシアがぼそりと呟く。
「グリムグラスの者がこの学園に入るのは初めてのことで、たいそう騒がれた筈ですが……まあクロンさんは当時三歳のはずですから、ご存じないのもうなずけますね」
さいですか……まあ、その通りだ。しかもど田舎の開拓村だしな。
マリアネットさんはそれだけ言うと元の位置へ下がった。
「うむ、次!」
「六年一組十二番、ローソ・ハァミです。スキルは<全てを見通す目>です。よろしく」
二人目はメガネをかけた賢そうな男子だ。前髪を五分分けにしている。
「五年一組一番、テーズラ。スキルは<鉄の雷>」
三人目は、なんだかプッチーナに雰囲気が似ている小柄な女子だ。ショートカットのつり目。
「五年一組二番、ギャザラク・ピエラーである。<この指とまれ>というスキルを使う」
四人目は大柄な長身の男子生徒だ。茶色の頭をオールバックにしている。
「四年一組三番、パフルですぅ、よろしくねっ!   スキルはぁ、<魔の谷間>って言うんだよ!」
五人目。十二、三歳にしては少し小柄な身体だと思うが、胸が、その、ボンッな女子だ。右の頬に桃色の模様を描いている。
デストラップ……強そうな名前のスキルだな。
「よ、四年一組十六番……が、ガルーチョです。すすスキルは<球は友達>……よろしくっ!」
六人目は、おかっぱ頭の目がぱっちりした男の子だ。身長も低めで物腰も低めだ。少し頼りない気もするが。
「三年一組一番、ヴェナテリス・プロスクキシタシスです。スキルは<花畑>。よろしくお願いします」
七人目、落ち着いた雰囲気の女子だ。黒っぽい青色の長髪で、前髪を花びらをかたどった髪留めで留めている。
「三年一組二十九番、モア・ルアンゴでしゅっ、あっ、ですっ!   ……スキルは<破壊の鉄槌>ですよろしくおねがいします……」
八人目は歳にしては少し背の高い女の子だ。髪は顔の両脇で紐を×型に斜めに巻きつけている。最初に噛んでしまったせいか、顔を赤くしてさっさと自己紹介を終わらせてしまった。
可愛い。
「二年一組一番、フィエです。スキルは<太陽の雫>です。どうぞよろしく」
九人目はこれぞ町娘といった女子だ。茶髪の茶眼で顔も普通。勇者候補だと知らなかったら声もかけずに通り過ごしてしまいそうな普通がある。
「二年一組二番、トルツカである。スキルは<鋼の牙>。よろしく頼むっ!」
十人目は堅苦しさのある男の子だ。髪は短髪、目はつり目というわけではないがキリッとしている。前のフォーナさんとガルムエルハルト様を合わせたような子だ。
そしていよいよ俺たちの番だ。
「次、一年一組一番、アーナジュタズィーエ・フィン・ロンデル!」
「はい」
アナスタシアが前へ出て、腰に手を当て俺たちのことを見るガルムエルハルト様の横に並ぶ。
「一年一組一番の、アーナジュタズィーエ・フィン・ロンデルと申します。名前の通り、ロンデル王国の第一王女です。ですが、同じ学園生として気軽に接していただけるとありがたいです!   スキル名は<吸収>、相手の生命力を吸い取る力があります。どうぞ、よろしくお願い致します」
やはりアナスタシアの笑顔は良いな。見ていて心が洗われるようだ。それくらい美しい顔ということだな。
「うむ、では最後に、一年一組四十番、クロン!」
「っ、はい!」
き、緊張するなあ……俺は皆の前へと歩み出る。
「……一年一組、四十番の、クロンです!   北の開拓村からこの学園へ来ました」
『!!』
皆の顔つきが変わる。な、何か変なことでも言ったかなあ?
「えっと、スキルは<光あれ>、手から光の筋を発射できます。仲良くしてくれると、嬉しいです。よろしくお願いします!」
そして頭を下げた。
「うむ、これで全員だな!   これで勇者候補のことを互いに確認できたということで、まずは隊長を決めてもらう!」
隊長?
「隊長は、その名の通り別働隊を指揮する人間だ。俺は指揮官ではあるが、実際に動くのは勇者候補を主体としてもらう。あくまで補佐として俺がいると思ってくれ。敵との戦闘は勿論、そこに至るまでの従軍、野営、警備や斥候など誰が何をやるのかも同時に決めてもらう。いいな?」
『はい!』
「うむ、では昼までに決めてくれ、あと二時間くらいだな」
そう言うとガルムエルハルト様は一度どこかへと消えた。
「……まず始めに聞かせてくれ。クロンくん、君は本当に開拓村の出身なのか?」
六年生のローソ君が聞いてくる。
「はい。特に名前もない村、畑と木造の家しかないところでしたが」
「それで、その村は今?」
「え?」
「その……どうなっているか知っているのか?」
「んん??   何の話をされているんです?」
さっきからどうもおかしい。何を焦っているのか?
「クロン君、恐らく彼は先日の帝国軍の侵略について心配されているのだと思いますわ」
と同じく六年一組のマリアネットさんが言う。
「侵略……ああ、山脈周辺の村が襲われたと言う話ですか?   それなら大丈夫ですよ。幸いにも、俺の住んでいた村は襲われなかったそうですから」
ガルムエルハルト様は確かにそう仰っていた、うん。間違いないはずだ。
でも、皆の顔が気まずい感じに暗くなる。え、なんで?
「……あのね、クロンさん」
アナスタシアが俺の前へ来る。
「な、なんだよ」
嫌な予感がするぞ……
「その、あのね?「何をうじうじしているのだ!」
と、二年のトルツカ君が叫んだ。
「俺が教えてやろう。北の開拓村は、一つ残らず全滅した!」
          
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