俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第42話


「カッツ、頼む!」

「任せてくれ!   <正方切断マスカット!>」

「グオ?   オオッ!」

見せしめか、アナスタシアを犯そうとしていたエセスナの足元を斬撃が走る。だが、あの姿になって防御力が上がったのか、硬い皮膚の表面を傷つけるにとどまった。

「グフ、コケオドシカ」

「いまだ、クロン!」

「<ビーム!>」

「ギャアッ!」

しかしその間に後ろへ回り込んでいたクロンがエセスナの後頭部は指を三本使って光の筋を撃ち込む。こちらも貫くことはできないが、頭を攻撃されただけあってエセスナが怯んだ。

「次はこっちだ!   <マスカット!>」

すかさずカッツが追撃する。胸のアレを斬撃が直撃した。

「フオオオオオ!!」

掴む手の力が緩み、アナスタシアが掌からずり落ちる。だが同時にあれから白い液体が飛び出しアナスタシアへ降りかかる。

「いやっ、やめて!」

「アナスタシアさん!   <スラッシュビーム!>」

クロンが横に広がるビームを撃ち液体を吹き飛ばす。そして落下するアナスタシアを受け止めた。

「クロンさん!」

「先生、ここは任せます!」

「わかった!」

クロンは建物の陰へ逃げる。私は入れ替わるように、エセスナへ近づく。

「ナニヲスルオスドモガアァ!」

立ち直ったエセスナは激情し、カッツへ向けて鋭い爪を振り回す。
あたりはしなかったが、風圧でよろけてしまった。

「フン!」

「よっと!」

更に反対の手の爪でも追撃してくる。私はカッツの背中と足を両腕で受け止めすぐさま飛び退いた。

「先生!」

「無茶をする!   終わったらお仕置きだ、馬鹿ども!」

「そ、そんなあ〜〜……でも先生、嬉しそうですね」

「え?」

私はなぜか頬が緩んでしまっていた。

「……自分の生徒の勇姿を見られたからかな、ふふっ」

カッツを地面に下ろす。照れ臭そうに、鼻を指で掻いた。

「さて、ここからはもう一度私が相手だ。今度は確実に倒す!」

「いいえ、違いますよ」

戻ってきたクロンが言う。

「なに?」

俺たちで・・・・、です。な?」

「ああ」

クロンとカッツは私のことを見て笑顔を見せる。

「……そうだな、手伝ってくれ、お前たち!   今の連携は本当に素晴らしかった。その力量を信じようじゃないか!」

「任せてください!」
「おうよ!」

「グヌヌ……フカクヲトッタ……オスザルガキーキートウルサイワ!」

「猿はそっちだろう、万年発情期が!」

「「ははは!」」

学園にいた時から女を取っ替え引っ替え……こんな姿になってまで追い求めるとは、なんという執念か。

エセスナが見失っている間に、私達は再び建物の陰に隠れる。

「クロン、アナスタシアはどうしたんだ」

「怖がっていたので……取り敢えず学園の方に逃げさせました」

「そうか、わかった」

となると、ドレインでこいつがこうなった元を吸い取るというのは難しいか……

「よし、カッツ。まずはお前のスキルを使うんだ!」

「え?   でも、さっきは全然効きませんでしたよ?」

確かに皮膚を削ぐくらいしか出来ていなかった。だが。

「大丈夫だ、見た所あいつの弱点はあの気持ちの悪い二本のアレだ。攻撃を当てれば切り落とすまではいかなくとも隙を与えることができるだろう」

「そうか!   わかりました!」

カッツが頷く。

「クロン、お前はその隙にできるだけ同時に両眼にビームを当てるんだ」

「両眼にですか……頑張ります!   先生はどうするのですか?」

「私は、切り札を使う!   そのためには、準備が必要なのだ」

あの技を使うには少々時間が必要だ。その間を稼いでもらわないといけない。

「なるほど、俺たちがあいつを引きつけて、その間に!」

「うむ、というわけでカッツ、早速だ!」

「はい!」

私達は飛び出した。

「オ?   ハナシハオワッタカ?」

「なんだ、わざわざ待っていてくれたのか?」

「ナニ、スコシキュウケイシテイタダケダ……コノカラダハオモッタヨリタイリョクヲショウヒスル……」

「そいつは良いことを聞いた!」

「ダガ……オマエタチヨリハウゴケルサ!」

エセスナが爪を振るう。私達は飛び退いた。

「バカメ!」

今度は反対の爪だ。

「カッツ!」

「ぐあっ!」

爪の一本がカッツを掠る。

「この!   <ビーム!>」

「マタソレカ!   グオオオオオン!」

「なにっ!?   わっ!」
「くっ」

クロンが放ったビームが、エセスナの咆哮でかき消されてしまった。
私達は圧を受け吹き飛ばされてしまう。ただ叫んだだけなのになんという威力だ。

「まだまだぁ!」

カッツは爪で吹き飛ばされたことで咆哮を受けることがなかった為、傷つきながらもすぐに立ち上がる。
そして掌をエセスナに向けて、左手の親指と人差し指を”_”の形に、右手を” ̄”の形にする。

「<マスカット!>」

縦横三本ずつの斬撃が同時にエセスナのアレへと向かう。

「ギャアーッ!」

叫び声をあげ、先っぽから血が飛び散る。皮で覆われていない為運良く通用したようだな。

「クロン、できるか!」

「はい!   <スラッシュビーム!>」

悶えているエセスナの目元へ光の弧が飛んでいく。そして両眼とも同時に直撃した。

「ギャオゥッ!」

急所である胸に続いて眼にまで攻撃を受けたエセスナは、完全にすくんでしまった。

「今だ--<地獄の業火ヘルファイアに焼かれて消えろブラスト!>」

足元から火柱が立ち上がる。エセスナは本能からか、先ほどと同じように飛び上がってそれを避けた。だが、避けた先にも火柱が上がる。

「!   ア、アツイ!   ドウシテ!」

火柱が次々とエセスナを囲む。

『やった!』

焼かれて絶叫するエセスナを三人で見守る。見えている部分がどんどんと炭化していき黒くなる。

そして数分もすると、火柱が収まり中から完全に黒焦げになったエセスナが現れた。

「……やったか?   <ビーム!>」

クロンが恐らく首元だろう所に向けて光を放つ。と、首が吹き飛び頭だったろう黒い塊が地面へ落下した。

「……や、やった……」

クロンがへなへなと尻餅をつく。

「……やった!   勝った!   やりましたよ先生!」

カッツが飛び上がり喜ぶ。幸い怪我は浅いようだ。

「あ、ああ……よくやった、お前達!」

私はカッツと拳を合わせ、クロンの手を取り立ち上がらせようとする。



「……ォオン……」



「!?」

と、地面に転がったエセスナの目が再び赤く光り始めた。

「なに、まだ倒せていないのか!」

炭化した頭がボロボロと崩れる。するとなんと、エセスナの首元から頭が生えてきた。

「な、なんだ。どうなっているのだ……」

「「そんな……」」

「グオ……ガハハ……ガハハハ!   タオセタトオモッタノカ!」

黒い肌が剥がれ落ちていく……そして一回り小さいエセスナモドキが現れた!

「……ど、どうするんだよ先生、アレ……」

「……そんなのあり?」

二人がエセスナを指差して苦笑いをしながら--いや、顔が引きつっているだけか--私のことを見る。

「いやぁ、そうだな……逃げる?」

「「ええっ!?」」

「フフフ、ニガスモノカ!   グワッ!」

復活した二本のアレから白い液体が吹き出す。

「まっ、不意打ちとか!   それに気持ち悪っ!」

カッツがとっさに飛び退いて避ける。だがスキルを使いすぎた影響か、クロンが逃げ遅れてしまう。私はこの子のことをかばった。


--ベチャッ


服に液体がかかる。

とその瞬間、急に身体が熱くなり始めた。

「うっ!   あ、暑っ!」

動悸が早くなりだんだんと体温が上昇していく。息が荒くなり頭がもやもやとして来た。

「先生!   いてっ」

手に力が入らなくなり、クロンの上に被さってしまう。

「先生!   クロン!」

カッツが叫ぶ声が聞こえるが、それに答える事も出来ない。

と、そのとき--



「<魔よ消え去れホーリーグローリー!>」



「グアアッ!   ナンダ?   カラダガ……チカラガニゲテユク!」

目の前でエセスナが光に包まれ、その身体がぼろぼろと崩れていく。

「オオオッ……オレノテアシガ……ヤメロォオオオオ!」

手を振り回し足を踏みならしながらめちゃくちゃに暴れるせいで、余計と崩れていく。

「もう少し……!」

奥の方、訓練所の入り口で誰かが手をかざしているのが見えた。

あれは……

「先生……大丈夫ですか?」

「ああ……いや、ダメだ……」

未だに身体が熱い。それにクロンの顔を見るだけで、心臓の鼓動ではない、別の何かがドキドキとする。

「ティナリア……オレノオンナ……」

「<ビーム!>……くっ!」

身体がもう殆ど崩れてしまっているエセスナが、私に手を伸ばす。だがクロンが力を振り絞るようにスキルを発動させ、エセスナの顔に直撃してそこからザラザラと音を立てながら砂つぶになり、ついに完全に崩れ去ってしまった。

「……お、終わった……のか?」

霞む視界が最後に捉えたのは、こちらに駆け寄る愛する一組の生徒達の姿だった。









「ここは……?」

目を覚ますと、俺はどこかに横たわっていた。
部屋の中を目だけで見渡すと、瓶や壺が置かれた棚が見え、いくつかのベッドが置かれているのがわかる。

「助かったのか、はあ……」

エセスナ先生だったナニカを倒すためにだいぶスキルを使ってしまった。恐らく気を失った俺を誰かがここに運んでくれたのだろう。

「ん?」

だんだんと体が言うことを聞くようになってきたので、首を動かし横を見る。と、赤い髪の毛が見えた。

「……ティナリア先生?」

俺の寝ているベッドのすぐ横のベッドに、白い服を着たティナリア先生が横たえられていた。というか俺も同じ服を着ているな。

「ううん……あ?   こ、ここは……?」

「先生!   あっ、いてっ!」

俺は起き上がり先生の元へ寄ろうとする。が、足に力を入れ損ね先生に覆いかぶさる形となった。

「……クロン、なのか?」

「は、ははは、どうもティナリア先生。体調、どうですか?」

目の前にある薄っすらと目を開けた先生の顔は真っ赤だ。熱があるのだろうか?

「体調……最悪だな……それに、まさか生徒から痴漢されるとは」

「え?   うわっ、す、すみません!」

転んだ拍子からか、俺の手が先生の胸に当たってしまっていた。

「うわっ、とはなんだ。そんなに嫌がることはなかろう……はあ、腐れ縁からは俺の女になれと怪物の姿で迫られて、教え子には無断で胸を触られて……本当に最悪な日だ」

先生は腕で目を覆う。

「すみません、すみません」

とりあえず、ベッドに腰掛けることに成功した。俺は頭を下げて平謝りだ。

「……クロン」

「はい」

「こっちに来い」

「え?」

「いいから、ここに座るんだ」

先生が反対の手で、自分のベッドの空いているところをポンポンと叩く。

「は、はい」

俺は言われた通りそこに腰かけた。

とその時。

「クロン……!」
「むぐっ」

いきなり両手で抱き寄せられ、先生の胸に顔を埋める形となる。

「馬鹿な教え子だ、お前達は……だがありがとう。おかげで皆を助けることができた」

「でも、教頭やドンダルマ、それにエセスナ先生は……」

「いいんだ。私が守るべきものはお前達一組の生徒だ。他の者は二の次だ。今は無事に生きていられることを喜べばいい」

「……そうですか」

俺は先生を抱き返す。意外と胸があるんだな。安心する……

「ふふっ、甘えん坊なやつだ。ま、九歳でこんな学園に閉じ込められたんだ。親に会えず寂しかろう。幾らでも抱きつくと良い」

「ううっ」

そう言われると恥ずかしくなる。だが不思議と今はこうしていたい気分なのだ。



モジモジ。スリスリ。



ん?

「ティナリア先生?」

俺は顔を上げて先生の顔を見る。

「ん、な、なんだ?」

「如何されたんです?」

「な、何がだ?」

先生がサッと目線をそらす。

「だって……さっきからずっと足を擦り合わせているような」

「そ、そうか?」

「はい」

俺が抱きつき返してから後、足の方から肌を擦り合わせる音が聞こえるのだ。
それに目もウルウルしているような。

「はあ……はあ……気のせいだ」

「うーん、でも……すみません、もしかして暑かったですかね?   顔も赤いですし。もう、離れますね」

「いや、まてっ!」

「うぷっ」

ちょ、ちょっと先生!?   離れようとしたところを先ほどよりも強く抱きしめられ、息苦しい。

ふぇんふぇい先生くふひいでふ苦しいです!」

「はあ、クロン、クロン。あんっ」

なにひてにゅんでふか何してるんですか!」

「あっ、あっ、クロン。いいぞ、そこだ……あっ!」

「ちょ!」

顔面に硬い何かが左右から擦りつけられる。その度に先生が色っぽい声を上げ、俺も変な気持ちになって来た。

「せ、しぇんしぇい……」

「あうんっ……激し、やっ」

「はあっ、はあっ」

今度は俺の息が荒くなる。頭がクラクラとしてくる。得体の知れない気持ち良さが頭の中を駆け巡る。
感触が気持ちよくて、先生の胸を揉む手が止まらない。

「クロ、ひぅ、やめ……ああっ!」

更に先っぽをコリコリといじったところ、先生の身体がビクリと軽く跳ねた。


じょわわわわぁ〜


「ん?   なまあたたかっ!」

「あっ、あっ……ひゃあ……クロンっ……」

足元が濡れてゆく。俺は慌てて跳ね退き床に滑り落ちた。

先生は、お漏らしをしていた。

「や、やりすぎ……た?」

俺は急速に頭が冷えていく。
先生が身体をビクビクと跳ねさせるにつれどんどんと、俺は今とんでも無いことをしでかしてしまったのではないかという気持ちが膨れ上がる。

「あ…………あれ?」

先生も俺が退いたことで、落ち着きを取り戻し始める。

「……あれ、わ、私……何をおおおおおお!?」

「あ、あはは」

先生が違う意味で顔を赤くする。気持ち良いという顔から、恥ずかしさでいっぱいという表情に変わる。

「……や」

「や?」

「やあああああああ!!」

先生が叫びながらベッドの下に隠れてしまった。

だが、俺と視線がかち合ってしまう。

「ひゃあああああ!」

「うわあああああ!」

床を手で這い寄って一気にこちらに近づいて来た。俺は本能的に先生から膝歩きをして必死に逃げ回る。

「みいいいたあああなああああ!!」

「俺は何も見てません!!」

「嘘つけ、私のことを弄り倒した癖に!」

「覚えてるんかいっ!」

「当たり前だ!   その記憶、存在ごと消し去ってくれるわ!」

「いやあ、来ないでー!」


俺たちの追いかけっこは、騒ぎを聞きつけた皆が医務室に突撃するまで続いたのであった。


          

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