俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第28話


「おいおい、なんだこれは!」

俺とアントは揃って帝国軍の上空に来た。今は既に夜のため、警戒用の明かりを灯しているとはいえこんな上空までは視認できないだろう。

例の技術者につくらせた夜間用の双眼鏡を覗くと、山脈麓の帝国側には、何百何千どころではない、恐らく十万に届くのではないのかと言う大軍勢が待機していた。
こんなに多くの兵を見るのは昔出席した我が国の大規模演習以来だ。
いくら帝国が巨大な国家とはいえ、これほどの兵を投入してくるとは想像もしていなかった。余程神皇国のことが憎いと見える。ま、それはこっちも同じだがな。

そもそも数十年前の戦争は、この帝国が神皇国に対して言い掛かりを付けて来たことから始まったのだ。結局はこちら側が押し返したためこうして膠着状態が続いているが、今度は完全に滅して欲しいらしい。その願い、この俺様が叶えてしんぜよう!

「アウズ、こんな大量の人間、一度に倒せるのか?」

「さあ?   やって見なきゃわかんねえよ、俺だって自分のスキルを本気で使ったことなんてねえんだからよ」

俺の保有するスキルは強力すぎて生まれてこのかた本気を出したことは一度もない。だが、この軍勢相手なら大丈夫だろう。魔力消費量とそれに伴うスキル使用後の体調が心配だが、そこはたとえ失神してもアントが背負うとかなんとかしてくれるはずだ。

「話していても仕方ねえ。やるぞ!」

「わかったよ、俺は念のため離れておくな。心配するな、お前が地面に落下したから、墓くらい建ててやるよ」

「ふん、その時はアンデッドになってお前を食ってやる……やっぱ不味そうだからいいわ。あー、早くロゼと会いてえ」

ロゼはもう逃げ仰せられたろうか?   巻き込まれでもしたら大変だ。
でも今通信機を繋げたとしても、通話に出る可能性は低い。あいつの体質・・のせいだ。まあ、万が一巻き込まれても死にはしないと思うが……

「じゃな、第一神子殿下様!」

アントは憎たらしい笑顔を浮かべ後方へ飛んで行った。あまり離れられるとアイツのスキルの効果範囲から外れてしまうだが?

「……よし!」

俺は両手を下、休息を取っているらしい帝国軍に向ける。万を超える兵士が一度に休息を取っているためか、こんな上空までも微かに話し声が聞こえるほどだ。

「そのまま永遠にお休みしとけ!   <衝撃弾ショックカノン!>」

発動句を唱えると、かざした両手から目に見えない空気の塊が飛んでいく。


----ドォーン!


「初弾命中!」

兵士達が着弾地点を中心に同心円状に吹き飛ぶ。

衝撃弾はまっすぐ飛んでいくため命中するのは当たり前だが、気分を高めるためそう叫ぶ。どうせ下には聞こえやないし、どこから襲われたのかもわからないだろう。

「まだまだぁ!   衝撃弾!   衝撃弾!   衝撃弾!」

俺は着弾地点をずらしながら、次々とスキルを発動する。その度に兵士が宙を舞い体の部位がバラバラに吹き飛ぶ様子が暗視双眼鏡越しに見える。この双眼鏡は拡大機能も付いているのだ。

「……ふう」

10発ほど撃っただろうか?   いつもより魔力を籠め威力を高めたが、まだまだ力が有り余っている。流石俺様だ。

少し様子を見ていると、兵士たちもそこまで馬鹿ではないようで列を整え始めた。だがそんなことをしても無駄だ、こんな上空にまで攻撃する手段はさすがに持ち合わせてはいまい。

「よし、次の段階だ。<衝撃波ショックウェーブ!>」

今度は空気の弾ではなく、空気の濁流だ。
一瞬だけ直撃する衝撃弾とは違い、衝撃が俺が止めない限りいつまでも続く。洪水に巻き込まれるかのように、俺が手を動かすに連れ兵士達が次々と吹き飛んでいく。面白いな、これ。

「おお、どんどん吹き飛べ!」

これはなかなかの快感だ。魔力と一緒に普段積もり積もった鬱憤が身体から抜け落ちていくようだ。クソ貴族どもの相手をするのも無駄ではなかったのだな。

兵士達はまさに阿鼻叫喚といった様子で、隊列を立て直そうとするもの、必死に逃げ惑うもの、その間でおろおろと戸惑うものが入り混じっている。もはや指揮系統も存在しないのではないだろうか?

「ん?」

空を飛び回っていると、帝国軍の後方に建物がたっているのが見えた。あれはもしや、軍司令部なのか?

「よし、ついでに破壊しておこう。指揮官がいなくなれば、帝国も暫くは神皇国に刃向かおうなどという愚かな行為は慎むだろうからな!」

俺は高揚した気分そのままに衝撃弾を撃ち込む。

「衝撃弾!   衝撃弾!   衝撃弾!   わはははは!   死ね死ね〜!」

石造だろう帝国軍司令部も、俺様のスキルにかかれば砂よりも脆い。あっという間に全壊してしまった。

「……さすがにちょっと疲れてきたか」

ほんの少しだが、俺は体にだるさを感じ始めた。

「最後に、最近思いついたアレでも使ってみるか」

俺は開発した最新のスキル応用法を試してみることにする。その為には地面に降りなければ。

「おい、アント!」

俺は近くにいるはずの親友の名を通信機を使って呼ぶ。

「ーーなんだ、もう終わりなのか?」

と、すぐさま飛んできた。

「最後に、新しいスキルを使いたい。一度下に降りたいのだが、大丈夫か?」

「わかった、気をつけろよ」

「ああ」

そういった俺たちは未だ大量に残っている蛆虫共帝国兵の野営地の中心付近に降り立つ。

「だ、誰だ貴様は!?」

と、当然のように軍勢に囲まれた。そりゃ空から人が降ってくれば警戒もするか。

「あ?」

が、俺に答えてやる義理はない。どうせ死ぬのだ、覚えても仕方なかろう。

「誰何している!   どこの誰だ、所属を言え!」

「うるせぇ!   <衝撃弾!>」

訊ねてきた兵士に衝撃弾を打ち込む。すると周りの兵士を巻き込みながら遠くへ吹き飛んでいった。おお、よく飛んだなあ。

「て、てきしゅー!   てきしゅー!」

鐘がカンカンと鳴らされ帝国兵達がどんどんと集まってくる。今更戦闘態勢とは、奇襲に加え司令部を破壊したのが功を奏したようだ。

「邪魔だてめぇら!   今から使うスキルは集中しなきゃ使えねえんだよ!   <衝撃鞭ブルーゴム!>」

俺はとっておきのスキルを使う前に人払いをする。空気でできた鞭を回転しながら振るうと、兵士の首と胴がさよならした。

「ひっ!」

帝国兵達は俺のスキルに怯えたのか、剣や槍を構えたまま固まってしまう。

「それでいいんだ、目を見開いてよーくみとけよ、未来の神様、アウズクートス様の新技を見られるんだからな!」

新技を使う為意識を手のひらに集中させる。魔力が高まったのを感じると、両腕を広げ両手を左右に向けた。

そして。



「<破壊バースト!>」



瞬間、けたたましい音を立てながら、空気の壁が半球状に地面を駆け巡る。兵士達は周りの兵をどんどんと巻き込み後方へ転がっていく。


…………振動と音が収まった後は、抉れた地面と血、肉片、鎧や武器などが散らばっているだけで、立っている者は一人もいなかった。










「はっ、はっ……どうだ!」

俺は汗を拭い辺りを見渡す。正しく死屍累々、何万のも兵士の死体が遠くまで目に見える限りに転がっている。

「おお、すげーな……」

アントが空から降りてき、俺と同様周囲の惨状を確認してそう言った。

「どうだ、これが新しいスキル、破壊バーストだ!   今まで構想はあったのだが、その想定される威力の高さから実用までは至らなかった。それが今、初めて使用して一回で成功したのだ。さすが俺様、第一神子様だろ!」

息切れをしながらも、達成感を抑えられない俺はアントに向かって偉そうに言う。

「はいはい、そうですね。まあ、昔から神童だの天才だの言われ続けてきただけはあると思うわ」

「そうだろ?   何たってパ……神皇帝である親父の血が、神の血が流れているんだからな」

「神の力か……これほどまでなら、神までも殺せたりしてな」

アントは冗談だとは思うが、ぼそりとそう呟く。

「神?   神は現人神であらせられる神皇帝ただ一柱だろうが。それともなんだ、俺に親父を殺せと?」

アントのことを睨みつける。今の発言は到底認められない、本来ならば即打ち首ものだ。

「そ、そういうわけじゃねえが……なんか、この死体の山を見ていると現実離れした光景で……」

アントは頭の後ろに手をやる。

「なんだよ、まさか気分が悪くなったのか?   これから何回も同じ光景を見ることになるんだぞ?   しかもこれよりももっと多くの兵士を殺すんだ。そして帝国を親父に献上する!   お前も着いてきてくれるだろ?」

と、その時、通信機から音が鳴った。

「ん?   誰だ、これからって時に」

俺は通信機を耳に当て通話に応じる。まさかロゼか?

「こちらアウズ、一体誰だ?」



>アウズ!   余計なことをするな!<



「えっ、お、親父!?」

「なっ、アウズ、神皇帝陛下なのか?」

通信機から聞こえてきた声は、間違いなく親父であるバルフェルンハルト神皇帝その人のものだった。

「い、いきなりどうしたんだ親父?」

>親父と呼ぶな、今は神皇帝として話をしている!<

「は、はっ!」

俺は通信機を外部音声にして外しても聴こえるようにしたあと、土下座をする。アントも同じくだ。

>いいか、アント。既に終わったものは仕方がない。だがお前は俺の考案した行程を引っ掻き回した!   今すぐ宮殿で帰ってこい。勿論、アントヌス親衛隊長も、一緒にだ!   必ずアウズグートス第一神子を連れて帰るように!<

「御意!」

「え、おいアントヌス?」

俺が反論をする前にアントヌスが返事をしてしまった。

「おい親父、いや陛下!   今から面白いところなのに帰ってこいって、そりゃ幾ら何でも」

>『俺の言うことをきけ』<

「……ぐっ、御意……」

しかし、親父の”力”に逆らえる訳もなく、俺は口答えが出来なくなってしまう。

>帝国の兵を倒したことは誉めてやろう。だがそれとこれとは別の話だ。お前には謹慎を言い渡す。皇都に帰り次第、別命あるまで自室にて待機すること。いいな!<

「「御意」」

親父はそう言うと通信機を切断してしまった。

「ふう……一体どこからバレたんだ?」

誰にも言わずに出てきたはずなのにおかしい。

「恐らくは大老かと」

アントが言う。

「くそっ、あのクソジジイか!   余計なことをしやがって!   仕方ない、何か漁って帰るか。少しは親父の機嫌を取れるかもしれない」

「そうだな……俺もまだ死にたくない」

そうして二人して、自体が散らばる山の麓を散策し始めた。



「ここが、確か司令部があったあたりだな」

一回り見て回った後、最後に帝国軍の司令部の建物があった辺りに降り立つ。アントの魔力保有量を考えても、ここら辺が最後だろう。

「……ん?」

崩れた石材を衝撃弾で壊しながら戦利品を探して回ると、瓦礫の下に人がいるのが見えた。

「……首でも持って帰ったら、少しはマシになるか?」

バーストの威力が強すぎたためか、武器防具は使い物にならないものばかりで、兵士たちも飾り物を付けているものは一人もいなかった。そもそも死体がバラバラになっているため、身につけていたとしても一緒にどこかに吹っ飛んでしまっているだろう。

と、瓦礫に埋もれた人が僅かに蠢いた。

「お?   まさか、生きているのか!?   おい、アント。回復薬はあるから」

「あるが……敵のために使うのか、アウズ?」

「親父の命令でもう帝国に侵攻はできなくなった。どうせなら捕虜を連れて帰りたい」

首一つ持って帰るよりもよっぽど有意義だろう。その前にまずはこの帝国兵の命を助けなければ。

「そういうなら、わかった」

そういってアントは荷物から薬を取り出す。そして俺が瓦礫の下から引きずり出した帝国兵に無理やり飲ませた。

「こりゃひでーな。足が一本ねえや」

帝国兵は左足が千切れてしまってきた。圧迫されていたためか出血はそれほどなく、即効性のある薬を飲ましたためもう血が溢れることはないだろう。

「……大丈夫みたいだな」

息はあるようだ。後はどうやって連れて帰るかだが……

「おーい!」

と、遠方から誰かが叫びつつ走ってきた。

「お?」

俺は立ち上がり双眼鏡を構える。

「アウズ、アント!」

走っているのは、ロゼだった!

「ロゼ、無事だったか!」

「うん!   アウズ達こそ、大丈夫?   ここら辺血塗れなんだけど?」

ロゼは俺たちのいるところまで着き、走ったにもかかわらず笑顔でそう言った。相変わらずの元気さだ。
一度戻って・・・いたため、口調も同時に戻ってしまっているようだ。俺はあの大人の女な感じの方が好きなんだが。

「ああ、俺のスキルのおかげさ」

「へっ、これ全部アウズがやったの!?」

ロゼはびっくりした様子で、そう叫ぶ。

「ああ、凄いだろ」

「凄いけど……こんなに沢山の兵士を殺せるほどのスキルだなんて、魔力は大丈夫なの?」

ロゼは今度は心配そうな顔をする。うむ、やはりこっちのロゼも表情豊かでいいかもな。

「ああ、まあなんとかな。それよりもここから皇都まで帰れるかの方が心配だ。アント、どうだ?」

「そうだな……ロゼ、魔力は分けられるかな?」

「うん、大丈夫だよー」

ロゼは指を一つちぎる。そのままアントに渡した。ちぎった指からは半透明の青い液体が垂れている。

「うぇっ、気持ち悪……」

「そんなこと言わないでよ……ほら、あーん」

「わ、わかった、俺が自分で食べるから!!」

アントは一度息を飲んだ後、そのまま一気に指を口に含んだ。

「ぐっ……ふぬぬぬっ……うぇえ」

アントが苦しそうにえずく。だがどうにか飲み込んだようだ。

「うへえ……アウズっていつもこんなことしてるのか?」

アントは心底嫌そうな表情だ。

「いや、俺たちは、その……」

「こうしてるんだよー」

と言い、ロゼが唇を重ねてきた。

「へえっ!?   嘘だろおい!」

アントが煩い。が俺たちはそれを無視してキスし続ける。

「……ふう、ありがとう、ロゼ」

「んーん、気持ちよかったからいいよ!   アウズとするとね、心がとってもポカポカするんだあ!」

ロゼは唇を舌で舐める。
おいまだダメだ俺、宮殿に帰るまで我慢するんだぞ、俺。

「そ、そうか。アント、これでスキルは大丈夫か?」

「あ、ああ……皇都までは帰れそうだ。ロゼはどうする?」

「私は……この人捕虜なんでしょ?」

ロゼは生えてきた指で帝国兵を指差す。そしてしゃがんだ。こら、頭を指でつつくな。

「ああ、そうだ。どうやって連れて帰ろうかという話をしていたんだが」

「じゃあわたしがおぶって帰るよ」

ロゼは立ち上がり自分の背中を指す。

「そうか、そういうことなら、任せた」

「うん。取り敢えず、また皇都で」

「ああ。アント、頼む」

「わかった。<浮遊フライ!>」

そして俺たち二人はロゼを見下ろした後、皇都に向かって飛び始めた。



          

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