俺はこの「手」で世界を救う!

ラムダックス

第16話


「やったー!」

俺はフォーナ様に抱っこをされた状態という側から見れば恥ずかしい格好で、拳を握る。

「クロン様、おめでとうございます、ギリギリとはいえ、一番上のクラスに入れたようですね」

「はい!」

しかもまさか、受験番号と同じ順位だとは。こんな偶然もあるもんなのか。まあ、一組ではビリなんだけどさ。

「では、クロン様、そろそろよろしいでしょうか?」

あ。

「あ、はい……」

俺はフォーナ様にゆっくりと地面に降ろしてもらう。周りにいる人も何事かと注目していたため、少し恥ずかしい。

「わ、私も持ち上げてください!」

え?   エレナさんも、フォーナ様に持ち上げて結果を見せてもらいたいのだそうだ。まだ見えてなかったのか。

「いいですよ」

が、意外にも、フォーナ様はすぐに承諾し、エレナさんの腰に手を当てた。

「ひゃうん!   フォ、フォーナ様!」

腰を触られたエレナさんは、色っぽい声をだす。普段のほんわかした雰囲気からは想像できない声色だ。

「我慢してください。クロン様と違って持ちにくいのです」

「え、わたし太ってないよね?  ね!?」

エレナさんは少し泣き顔になりながら、こちらを見る。俺とは違いお腹の前まで腕を回しているので、その、お胸がいつもよりも太っておられます……とか言えねーよ!

「はい、ふ、太ってなんかいませんよ?」

俺は刺激から目をそらしながら答える。

「身体の大きさが違うという話ですよ。太ってるとか太ってないとか、お二人はなんの話をされているのですか?」

フォーナ様がいう。それにエレナさんはホッとした様子で。

「い、いえ、なんでも……最近少し食べ過ぎていたから気になって」

「宿の料理は一流でしたからね。ランガジーノ殿下に感謝しませんと」

後半は小声だったため聴こえなかったが、フォーナ様は耳元で喋られたため聴こえたようだ。そうだな。宿代を肩代わりしてくれたランガジーノ様には会う機会があれば、きちんとお礼を述べておこう。俺の実技試験で見かけて以来、一度も会えていないのだ。



「皆さん、仲がよろしいのですね」



と、後ろから誰かが語りかける声が聞こえた。

「え?」

俺は、声のした方を向く。すると、

「クロン様、私も受かっておりましたわ。どうぞ、よろしくお願いします」

白ドレスの女の子が、顔につけていた布を取り払った。最後を守る護衛の人たちが慌てて近づいてくるが、それを手で制する。

女の子は、顔を見たところ俺より少し上、十二、三歳くらいで、肩で切りそろえられた少し内側に曲がっている金髪と、金色の目をしていた。
そしてその顔立ちは、白い肌に正に美少女と言った、目鼻口どこを取っても整っている。浮かべた笑顔もまた美しい。

そしてどこか、アナに雰囲気が似ていた。

「あ……す、すみません。つい興奮してしまって」

俺は、思わず見惚れてしまう。が、すぐにこの娘を合格発表を見る間、放置してしまっていたことに気づき謝った。

「どうされましたか?」

エレナさんを両腕で抱えたフォーナ様が、俺たちの方を振り向く。と、エレナさんを降ろしてこちらに寄ってきた。

「ああ、さっきの。あなたも、合格されたのですか。どなたかは存じあげませんが、おめでとうございます」

「あっ、その、おめでとうございますっ!」

フォーナ様は女の子に対して貴の礼をする。エレナさんも慌ててこっちに寄ってきて、服を手で整え女の子を祝福する。

「いえいえ、そちらも、クロン様が無事合格されたようで」

女の子は返礼のつもりか、カーテシーをした。続けて、

「ところで」

そう言って、俺の方をじっと見つめてくる。

「……なんでしょうか?」

「私、無事合格致しました」

女の子はお澄まし顔でこちらを見てくる。

「あっ、そうですね。おめでとうございます!」

俺は、まだ祝福の言葉をかけてなかったなと思い、述べる。

「ええ、ありがとうございます。ですので、お教えいたしますね」

すると、女の子は口元を緩め笑顔になり、続けてそう言った。何を教えてくれるというのだろうか。

「何をですか?」

「私の、名前をです」

ああ!   そういえば、後のお楽しみにとか言ってたっけ。そろそろこの娘がどこの誰で、どうして俺の名前を知っていて、何故人混みを掛け分けてまでこの合格発表の場で俺に会いにきたのか、知りたかったところだ。

「こほん。私は、ルコラーデ=ナ=ロンデル王国から参りました、タイタヌス王が娘、ロンデル王国第一王女の、アーナジュタズィーエ・フィン・ロンデルと申します。以後、お見知り置きを」

「お、王女様……?」

今、この娘、自分のことを王女だって言ったよな?
それに、ロンデル王国って、フォーナ様が教えてくれたが、確か神皇国の隣国だったよな。
ランガジーノ様の時は、馬車の紋章や御者の人の証明で神子様だと理解したが、この娘の場合はそういう証拠がないため、いまいち信じきれない。その見た目や護衛を連れていることから、貴族様だろうということは想像がつくのだが。

「これは、王女殿下、大変失礼いたしました」

フォーナ様は自称王女殿下の自己紹介を聞き、直ぐに臣下の礼をとる。俺たちも、それに続いて取り敢えず跪いた。

「いえ、顔をあげてくださいませ。これからはクロン様はご学友となるのです。お二人は付き人ですよね?   でしたら、私のお友達になってくださいませんか?」

アーナジュタズィーエ……言いにくいな……様は、俺たちを見下ろし言う。

「ありがたきお言葉」

フォーナ様はそう言うと、立ち上がり頭を下げた。俺たちも立ち上がる。ここは、フォーナ様に合わせておいた方が良さそうだ。

「えっ、えっと……よろしくお願いします!」

エレナさんはアーナジュタズィーエ様に向かって頭を下げる。

「はい。こちらこそ。ところで、お二人のお名前は?」

「これは、失礼いたしました。私はこのクロン様の学園でのお世話係を務めさせていただくことになっている、アンナファーナ・デュ・フォーナ子爵と申します」

「わ、私は、ただのエレナです。フォーナ様と同じく使用人としてクロン様の学園生活をお手伝いさせていただきますっ」

「フォーナ様に、エレナ様ですね。それに、フォーナ様は貴族様様なのですね。お若いのに子爵とは、凄いです」

「勿体無いお言葉。嬉しく存じます」
「わ、私なんかに様付けだなんて……」

フォーナ様はいつもの真顔で、エレナさんはアーナジュタズィーエ様が王女様だと信じているのか、泣きそうな顔でそういう。

名前といえば、聞いておかなければ。

「あの、よろしいですか?」

「はい?」

俺に話しかけられたアーナジュタズィーエ様は、首を傾げる。いちいち様になっていて、本当に王女様じゃないのかと思えてきた。

「どうして、俺の名前を?   それに、この合格発表という場で、俺たちのところへいらっしゃった理由は?」

「そうですね、当然の疑問だと思います。それは----」

と、アーナジュタズィーエ様が言いかけたところで、人混みが再びザワザワとし始めた。この娘が俺たちに近づいてきたときのように、群衆が割れていく様子が見える。
今度は誰が現れたんだ?

そしてその現象は、俺たちの眼の前で止まった。群衆と群衆の間、開けられた道からは、護衛を伴ったランガジーノ様が歩いてきていた。

「ランガジーノ様!」

「やあ、クロンくん」

そして俺とランガジーノ様は対面し、互いに挨拶を交わす。
と、周りが『いま殿下と親しげに……』とか、『あの子はどこのご子息だ?』などと話し始めた。しまった、ここは人の目があるんだった。勇者候補のことは秘密、俺のような者とランガジーノ様が話をするのはおかしく見えるだろう。

「クロンくん、ここは目立つね。少し場所を変えようか」

「は、はい。そのようですね。すみません、勢いで話しかけてしまって」

「いや、こちらこそ、こんなに注目されるとは思っていなかったよ」

嫌々、神子殿下なんだからそりゃ注目されるでしょ!   しかもこんな貴族様の集まるところ、平民は顔を知らなくても、貴族なら皇族の顔は直ぐに気がつくだろうに。

「では。……おっと、王女殿下・・・・もいらしていたのか。ご一緒にどうぞ」

ランガジーノ様は俺の横に立つアーナジュタズィーエ様を見て、そういった。あれ、王女様っていうのは本当なのか!?   疑っていたの、この娘にはバレてないよね?

「はい。お陰様でクロン様とお話しすることができました」

アーナジュタズィーエ様は、いつの間にかその顔を隠す布を降ろしていた。これだけ耳目が集まれば、当然か。

「そうですか、それは良かった。では」



俺たち四人と護衛達は、発表会場である中庭を後にした。







<一方そのころ、同会場にて>

今日は、待ちに待った合格発表の日だ!
父ちゃんには去年のぶん、そして今年のぶんと散々金を出して貰った。今年で2回めの受験、ここで受からないと!

俺は、受験票を握りしめて発表されるのを今か今かと待つ。
と、急に人混みがさっきまでとは違う雰囲気でザワザワとし始めた。

「な、なんだ?」

見ていると、人の群れが二つに割れ、その間を白いドレスを着た女の子らしき人物が、護衛だろうか武装した人達を連れて歩いているのがわかった。

「……まあ、いいや。俺は、こっちに集中しよう」

なんのイベントかは知らないが、今は結果発表の方が大事だ。


そして少し待つと、高台から何枚もの紙が降ろされた。
途端に、人々が喜怒哀楽様々な感情を見せ始める。

俺も、目を血走らせて自分の受験番号を探した。朝早くから並んで、一番前に陣取っていたため、探しやすい。

「えっと、えっと!」

俺は可能性のある右側、下のクラスの紙から順番に確認していく。が、俺の受験番号がなかなか出てこない。

「な、何故ないんだ?」

紙を移すにつれ、だんだんと焦りが出始める。そしてついに二枚めの紙まで来てしまった。ここに書いてなかったら、もう可能性はほぼゼロだろう。
一組は、他の七組とは隔絶した実力が求められるのだ。一組と二組の間には、その実力に何十倍といっていい差が毎年生まれる。一組だけ別の基準を設けて厳選しているのではないかと噂されるくらいだ。なので、俺はそこに入るのは最初から諦めている。

「ない……ない!」

そして俺は、二組の紙を全部見終わる。が、どこにもおれの受験番号は書いてなかった。

「……どうして……」

あれだけ、頑張ったのに……

「……くそっ、こうなりゃ、一組も!」

俺は、ありえないとわかってはいるが、一組の入学者を確認していく。

一番上、つまり合格者全体の受験成績第一位には、『アーナジュタズィーエ・フィン・ロンデル』と書いてあった。

そして二番三番と確認していく。



----ついに、三十番まで見終わった。

「はあ……はあ……」

動悸がおさまらない。これで受からなかったら、街に帰って来いと言われている。俺の夢は、この学園でしか叶えられないのだ。頼む、ビリでもいいからあってくれっ!!

そして最後の行、三十番代を一つずつ確認する。

……三十六番……三十七番……三十八番……


「……!!!」



【三十九・三十九・カッツ】



「う、うおおおおおお!!!!」

う、嘘だっ!

一組の、国立学園の一組に、入学できたっ!!

「や、やったぜええええ!」

俺は体ごと崩れ落ち、膝を地面につける。目の前が涙で見えない。



俺の、学園生活が始まるのだ!



          

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