妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第79話 昨日出会ったはずの奴が今日はお縄になっていた。何を言っているか(ry


「おお、伊導くん、おはよう」

「どうもおはようございます」

「「おはようございます!」」

「やあ伊導くん、昨日はお楽しみだったようだね?」

広間に集まっていた皆に挨拶をし、勧められた席に座ると、叔父さんがいきなり爆弾発言をする。

「ええっ!? ど、どういう意味ですか?」

「いやいや、女性二人と相部屋なんて何も起こらないはずもなく……」

「ちょっとやめてくださいよもう!」

冗談だというふうにニヤリと笑う叔父さんを見て思わずため息を吐く。

「お楽しみってなんのことですの?」

すると、その隣に座る未来が本気でわかっていない様子で周りに訊ねる。

「むむっ?」

「えっと……」

「あらあら〜……」

「えっ」

「未来ちゃん意外と初心だったのね」

「こら、有導やめんか! 未来にはまだ早いだろう」

皆が返答に困っていると、豪さんが怒りつつ義息子を諫める。
母さんや、初心というよりも単純にその手のネタを知らないだけだと思うけど。

続いて豪さんは使用人に命じテレビを付けさせる。と--



<速報です! 大手テレビ局社長の息子が脅迫容疑と強制猥褻の容疑で逮捕されました!>

<あっ、今出てきました! 影松容疑者っ、未婚の女性に関係を迫ったって本当なんですか!>

<………………>

<女性の親族を脅したとの証言もありますが!?>

<………………>

<えー、影松容疑者は我々の問いかけに対し終始無言で車に乗り込み、そのまま移送されて行きました。現場からは-->



テレビに映っているのは、なんと未来に結婚を迫っていたあの影松次英その人であった。

「え? どうしてこいつが捕まってるんだ?」

「あの人、昨日の感じ悪い男の人だよね? そういえば『明日を楽しみにしていろ』みたいなこと言ってたと思うけど……まさか自分が捕まる様子を楽しめって意味?」

「そんな訳はないと思うが……」

俺は豪さん会長の顔を伺う。

「ふふふ、ふはははははっ!!」

すると突然大声で笑い出した。

「か、会長?」

「えっ」

「神川さん一体どうされて……」

「あらあらっ」

「いやあ、すまんすまん、此奴が余りにも小物過ぎて思わず笑ってしもうたわ。やはり所詮は一メディアのせがれ、広告代理店の恐ろしさを理解していなかったようだな」

「それはどういう?」

真奈が訊ねる。

「ふむ、簡単なことだ。此奴との昨日の会話は演技よ。こちらが少し下手に出れば、必ず動きを見せるはず。なので敢えて苦々しげな顔をしてやったのだ。するとまんまと引っかかりよってのお、こちらから和解しようと持ちかけて指定した場所に現れたそやつを、予め隠れておった警察が逮捕した訳だ。未来にも少し手伝ってもらってな、怖い思いをさせてしまったのは大変申し訳なく思うが、お陰で婚約話は完全解消だ」

豪さんはしてやったりと豪胆な態度だ。

「え? じゃあ昨日のアイツの発言は、逆に自らの首を絞めたと?」

「そういうことじゃな。そもそも、未来との結婚に乗り気じゃ無かったのも、女をキープして使い回すとんでもない奴だったからじゃ。ワシはそのことを知っておったので婚約に否定的じゃったんだが、取締り達はその肩書だけを見て話を推し進めようとしておったようじゃな。使えない奴らの多いことだ……」

会長は一瞬ゾクリ、とする視線を部屋に横切らせたあと、再び先程の調子に戻る。
今の発言から推測するに、取締役の人達もタダじゃ済まないんじゃなかろうか。きちんと調べずに孫を危険に晒されかけたのだから、会長の怒る気持ちはごもっともだが。

「私もまさかそこまで酷い人だとは知らなかったので……その逸話を聞いた時には正直にゲスという言葉が出てきてしまいましたわ」

未来ちゃんは嫌そうな顔でそう言ってのける。

「未来ちゃんもこの件に一枚噛んで?」

その彼女に訊ねると。

「ええ、私もこのような家の生まれ、ある程度の護身術は習っておりますし、殿方に対する演技も指導されております故。昨晩は皆さんが寝静まったあと、私と逢引の形を取って強制猥褻行為で逮捕されるように仕向けたのですわ」

未来もやはり上流階級の娘、ただの女子高生じゃなかったわけか……

「勿論あんな奴には指一本触れさせておりませんので安心してくださいな? それと私のこの気持ちも演技ではなく、紛れもない恋心です。貴方様に対しては誠実であることをお約束致しますわ」

「は、はあ」

上目遣いで俺の顔をみる彼女に生返事をしてしまう。

「ともかく、昨日奴がこの屋敷へノコノコと来てくれたお陰で、あっさり問題が解決してしまった。会社の上層部も流石に犯罪者と結婚しろとは言えないみたく、朝一で連絡を取ってきおったわ」

「それじゃあ」

「うむ、これから暫くは未来の身を案じる必要も無くなったという訳じゃな。呼びつけておいてすまんが、ワシとてあやつがまさかこんなベタな行動をとるような間抜けだとは思っておらんかったんじゃ」

じゃあ、偽の婚約者も、しなくていいってことだよな?

「あの、俺はやはり……」

「うむ、そうじゃな」

「お爺様!」

豪さんが頷くのを見て、未来が声を出す。その顔は数年付き合った恋人に振られたかのような悲壮さだ。

「まあ待ちなさい。まだ何も明言はしておらんだろう。伊導くん」

「はい」

「色々と迷惑をかけるかもしれんが、孫のことをこれからも・・・・・よろしく頼む」

「はい。ってえええええ!?」

よろしく!? これからも未来と何らかの関係を続けろと!?

「あの、お義父さん会長?」

叔父さん有導が何も聞いていないという素っ頓狂な顔で慌てて義父に訊ねる。

「なんじゃ? ワシは一言も、偽の婚約関係を解消するとは言っておらんぞ? あやつとの婚約話は無かった事にはなったが、第二第三の不届き者が現れぬとも限らん。やはり予定通り、暫くは表向きこちらで選んだ婚約者が出来たことにしておくべきだ」

「まじですか……?」

「や、やった! お爺様ありがとう!」

「ふぉっふぉっふぉっ、可愛いいとこの為じゃ、ここはどうか、引き受けてくれんかのう?」

抱きついてきた孫をあやしながら、俺に向かって提案という体の確認を取る豪さん。

「えっと……」

「伊導、すまんがここは引き受けてくれないか」

すると父さんが近づいてきて、耳元で説得してくる。

「え?」

「俺にも立場ってものがあるんだ。それに昨日の話にあった通り、真奈の通院費も出して貰えるし、他にも色々と援助してもらえることになっていたんだ。家族を助けると思ってどうか……勿論小遣いも増やしてやるし、時が来たら偽婚約関係は辞めさせて、きちんとその時のお前の好きな人と結婚できるように説得する」

「ううーん、まあ元々俺が受ける前提で話が進んでいたから……そういう話をされると、期間によるけれど絶対に駄目って訳じゃなくなるな」

「すまんな、色々と負担を掛けさせて。頼もしい息子で助かる」

「なんだよ父さん、恥ずかしいな」

いつもは絶対に言わないような台詞を吐かれて、なんだかもどかしく感じる。

「相談はおわったかな?」

父さんが離れると、豪さんが再び問いかけてくる。

「はい、大丈夫です……その話、引き受けさせていただきます」

「ほうほう! そうかそうか、それは良かった。なあ、未来や」

「はい! ありがとうございます、伊導様! これからよろしくお願いしますね」

彼女はお嬢様らしい優雅さを感じる綺麗なお辞儀をしてから、こちらに近づき腕を取って組んでくる。

「未来っ、そういうことをするんじゃないと何度言えば」

「まあまあ、良いではないか」

「会長?」

「恋というものは幾らしても良いものだ。心が豊かになり、人間としても成長できる。少し行き過ぎた部分もあるかもしれんが、それだけ伊導くんのことを好きだという証拠じゃろう。多少は目を瞑っても良いのではないかね?」

「はあ、そう仰るのであれば……伊導くんすまないが、むすめのことをよろしく頼む」

そうして叔父さんは立ち上がった中途半端な姿勢を改め、俺に頭を下げる。

「やめてください、俺なんかで良ければ何でもしますから」

「そうか、恩に着る」

俺の言葉に頭を上げてくれて、内心ホッとする。このようなやりとりをいつまでも続けていたら、こっちの心が持たなさそうだ。

「むむむむむ、お兄ちゃんのバカ……」

「伊導くんのムッツリスケベっ」

他の女子二人から黒いオーラを感じ取るが、敢えて無視をしておく。言いたいこともあるのかもしれないが、後にしてくれ……というかムッツリスケベってどういうことだよ!

「ふぉっふぉ、モテる男は大変じゃぞ?」

「モテ方にもよりますけどね……はあ」

俺は身の回りにまた一人、花が増えたことに疲れた態度を隠しきれないのであった。

          

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