妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第77話 流湖、ちょっと反省する


「おい、やめっ」

真奈と流湖が代わる代わるに銃弾キスの雨を降らせる。
俺の口内は二人の女性によって瞬く間に戦場と化してしまった。

「おに、ぃひゃん♡♡♡」

「いどう、ひゅん、おいひ❤︎❤︎❤︎」

遠慮なく舌を絡ませてくるおかげで、息がし辛くまた歯磨き粉だろうかいい匂いが口内に広がる。

「ぷはっ……いいかげんにっ!?」

ようやく顔から離れたかと思えば、押し倒された状態の俺に向かって、流湖は乳首を舐め、真奈は顔に跨り己の脚の付け根を擦り付けてくる。

「あはあ……♡ お兄ちゃんしゅきっ♡♡」

「むぐぐ!?」

真奈はハイになっているようだ。どかそうとしても頑なに動かず、一人よがっている。

更に流湖はどんどんと足元に下がっていき、遂には……

「ふぉっ!? でかっ!」

「ふぉいっ、そこふぁっ」

「あんっ」

流湖が俺のオレを弄り、それに反応して声を漏らす俺に反応して真奈がビクビクと震えるという悪循環が発生してしまっている。

「伊導くん……改めて見るけどやっぱり大きくない?」

誰と比べてるんだ、誰と!

「ふぁあ、しゅごいフェロモンを感じる……」

俺の顔から退いた真奈も一緒になって鑑賞タイムに入ってしまった。

「る、流湖はともかく真奈はっ、これ以上は体調に影響が……!」

「え、私ならいいの?」

「ダメに決まってるだろう!」

揚げ足取りをする流湖と、忠告を聞かずにますます顔を近づける真奈。

「くんくんっ……パンツの上からでもこんなにお兄ちゃんの匂いがする♡」

「恥ずかしいからやめてくれー!」

なぜ俺は妹にこのような辱めを受けなければならないのか。
そもそも流湖が襲ってこなかったらこんなことになっていなかったのにっ!

「真奈ちゃんもどんどんと積極的になっていくね〜、後は私かこの娘かどちらが先に"初めて"を貰えるかだね!」

「な、なぜ初めてだと決め付ける?」

俺はクンカクンカする真奈を手で押さえつける。
と、その隣で手をワキワキさせる流湖がそんな断定した物言いをするものだからつい反応してしまう。

「え? 初めてじゃないの!?」

「お兄ちゃん……」

二人のからいっぺんにハイライトが消え黒く塗りつぶされる。なんだこの浮気がバレた亭主みたいな立場はっ。

「いやいや、唯の売り言葉に買い言葉だろ。俺だって男の沽券というものがあるんだぞ、確かに初めてなのは否定しないがもうちょっと配慮してくれても……」

「いやいやいや、私の将来像はもう決まってるんだから〜。私の初めてと伊導くんの初めてが重なり合うとき、そこには新たなる二人の記憶の一ページが」

などと少女漫画チックなことを言い出す。

「流湖先輩? お兄ちゃんの初めては私の初めてと重なり合うんですよ? 勝手に将来像を決めないでください!」

「うふふん、でも真奈ちゃんは男の子の楽しませ方、知ってるわけなの? ほぅら、ここがこんなにビクビクと動いているけれど、どうしたら気持ちよくさせられるか知っているのかな〜?」

「おいっ、ぐっ」

先ほどまで仲良く(?)俺を弄っていた筈なのに、今度は俺の初めてをどちらが奪うか争いだす。そして流湖はどさくさ紛れに再び俺のオレにまで近づき、指で先の方をちょんっと突いた。

「これ以上は本当の本当に不味いってば、ここは一応他人の家なんだぞ! 立場というものを考えてくれよっ」

「でもこの部屋、結構防音もいいみたいだし、何も言わなきゃバレないと思うけどな〜」

「そういう問題じゃないだろう。それに俺もこんな形でなし崩し的な関係にはなりたくない。そもそも真奈は妹なんだぞ? 前から何度も言っているが、本当は兄妹でこのようなみだらなことをするのはおかしいんだ。流湖だって、俺の彼女でもなんでもないだろう。このような状況に興奮しているのかもしれないが、まずは落ち着いてくれ!」

俺は二人を宥めるために頭を回転させ、冷静に諭す。

「むむむむむ、お兄ちゃんまたそんなこと言う!」

「何故に怒る!? 当たり前のことを言っただけだ。真奈、やはり俺と接触しすぎてハイになっているんだろう、いったんシャワーでも浴びて落ち着いてきなさい」

「いやっ」

「駄々をこねないの!」

「いやっ」

「なんで流湖まで」

首をプイッと横に振る真奈に合わせて、流湖もその反対に首を振る。目の前に左右対称に拗ねる女の子像が出来上がった。

「私は別に、このままなし崩し的に為ってもいいよ? だってさ伊導くん、どれだけアプローチしても全く相手してくれないし、いくら真奈ちゃんのことがあると雖も私だって女の子なんだから、こんな振られ続けられるような仕打ちは傷つくよ……」

「えっと……」

確かに、流湖の積極さは加速度的に増えているし、それに対して色々とピンチな状況に陥りながらも躱し続けているのは事実だ。
だが、流湖だって女の子だ。俺の態度に傷つくかも知れないとあまり考えてなかったな。そこは悪いことをしたと思う。

「流湖の想いを無視しているわけじゃない。俺だって告白されたり、こうしてベタベタとしてくるのが嬉しくないわけじゃないんだ、それはわかってくれるか?」

「え、う、うん」

「だが、それとTPOを弁えないのは別だろう? 最近はアパートという身近な場所に生活しているから、互いの距離感が近づいているのだと思う。でも、本来の流湖はこんなベッドの上で乱れる奴じゃない、俺はそう信じている。もしかして、未来ちゃんの事もあったから焦っているんじゃないか?」

話しつつ分析していたことを伝えると。

「そう……なのかな。私、今日も一緒に寝てくれるっていうのですごく嬉しかった。幾ら同じアパートだと言っても、中々こういう機会はないし」

まあ初日は大変な目にあったけどな……

「だから、真奈ちゃんも含めて三人で仲良く寝泊まりできたらなったら思った。あの変な奴のせいでブルーな気持ちになっていたのは事実だけど、でも二人と夜を過ごせることはとても嬉しいの。今の私にとっては一番大切な人たちの内だから」

「先輩……」

「流湖……」

「でも、目の前で真奈ちゃんとイチャイチャしているのを見て後悔した。こんなの生殺しだー! ってね。さっきお風呂でも、本当は真奈ちゃんが入ろうとしたのについて行ったんだよ」

「え、そうだったのか?」

真奈の方を見ると、顔を逸らして赤くしている。

「好きな人たち同士が仲良いのと、好きな異性と同性ライバルがいちゃついているのとは全く違うよね。でも私にとってはその両方の状況が同時に起こっているんだよ、これって結構心が消化するの大変なんだよ?」

彼女は真奈と俺の顔を見て、困ったような笑顔を浮かべる。

「だから、私もせめて同じ異性という立場で勝負しようとしているわけ、わかってくれたかな?」

「えっと……まあ、その想いはなんとなく理解はできた」

「はい、私も」

流湖のやつも、めちゃくちゃやっているように見えて自分の気持ちやこの状況と考えて闘っているんだな。

「あはは、なんかシラケさせちゃってごめんね〜」

「嫌、それは正直助かった」

あのままエスカレートさせる訳にはいかなかったからな。

「お兄ちゃん、私も調子に乗りすぎました、ごめんなさい」

「謝ってくれればそれでいい。だがもう少し言葉だけではなく行動で反省を示しなさい」

「はいぃ……」

頭を撫でてやると、妹は申し訳なさそうに小さく返事をした。

「でも伊導くんの言った通り、あの未来ちゃんって娘、相当強敵だと思うな〜」

流湖がポツリと漏らす。

「強敵って、恋のか?」

自分のことを好きだと言っている女の子に対して言及するのは恥ずかしくもあるがそれは今更だ。

「そう。焦っていたのかな、私も。敵地・・でこんな大胆なことをするなんて、冷静になった今考えたらおかしいよね、あはは〜。伊導くんには悪いことしたなって改めて思うよ、ごめんね?」

「ああ、うん。理解してくれたならそれでいいよ」

目の前で申し訳そうに片目を開けて手を合わせる同級生に許しを与える。

「でもさ、真奈ちゃんもウカウカしていられないね。ああいうタイプって、暴走したらきっと私達以上におっかないよ?」

「ですね!」

「そうなのか? お嬢様っぽさは出ていたけど、でも箱入り娘らしいから異性との距離の取り方がわかっていないだけなんじゃないかな」

「さっき廊下であんなに楽しそうに話していたじゃん」

「いや、あれはたまたまあっただけで……」

「ええっ、本当?」

「お兄ちゃん、次から次に女の子をたぶらかして……私たちのこと言えないよね? ね?」

「だから、そのあれはだな」

「むむ、怪しい」

「怪しい〜!」

「勘弁してくれーっ」

そうして怒る二人には風呂上がりにあの娘と廊下で遭遇した後にもこってり絞られたというのに、再び振り返したように絞られる俺であった。

          

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