妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第53話 夜、妹と洋間で……


二人はどうにか元の状態に戻ってくれた。そのためには抱きしめてやったり、頭を撫でながらひたすら耳元で可愛いよと連呼したりと色々あったのだがもう思い出したくもない。
女子二人を宥めるだけでこんなに疲れるとは、世の彼氏さんは大変だなあ……

「はあ、ごめんなさい伊導くん〜、まさか先生があんなことをするなんて……」

「お兄ちゃんごめんなさいっっ」

二人が謝ってくる。

「いんや、もういいさ。それよりも真奈、部活体験はうまくいったか?」

「あ、うん。得田先生はちょっと厳しい人だったけど、本当に一流の芸術家なんだなって指導をしてもらえたからよかったよ。でもちょっと変な人だなとは思っちゃったけど」

確かに、授業でもスパルタなところはあるし、独特の空気感というか、良く言えば自分の世界を持っている人だし、悪く言えば気難しい人って感じだ。
それでも、生徒想いのところはあるし、融通が効かないってわけでもない。総合的に評価すると、いい先生ということになるのではなかろうか。

「でも真奈ちゃん、良かったね。先生あなたのこと結構気に入っていたみたいだし」

「え? そうなんですか?」

「うん、指導の仕方が既に部員扱いだったからね。普通はあそこまで厳しくしないよ。きっと伊導くんが想像しているよりもずっときついからね?」

「そうなのか? それは知らなかったな。ちなみに何を描いたんだ?」

「え! えっとそれは……」

と顔を下げチラチラとこちらを見る真奈。も、もしかしてこの反応はまさか、俺の顔とか……?

「伊導くん、芸術に口出しは無用だよ?」

「あ、ああ、そうだな。悪い真奈、今のはなかったことにしてくれ」

「そう……わかった」

なんで残念そうなんだ? よくわからん奴だな。

「じゃあ私はこれで。明日から学校だからね、遅刻したらダメだよ〜?」

「ああ、わかっている」

「あ! よかったら一緒に登校しない? 折角同じ場所に住んでるんだから、別々に行くよりも効率が良くないかな〜? 互いに寝坊しそうになったら起こせるし!」

と流湖はたった今思いついたとばかりに提案する。

「おお、そうだな、確かに。それに流湖もまだ一人で登校しづらいんじゃないか? そんな遠回しに言わなくても、横について一緒に学校まで行ってやるからさ、遠慮するなよ」

先日の暴漢の件は、やはりまだ引きずっているみたいで、時折ビクビクと何かを恐れている彼女の様子を目撃していた。ここは悪者になってでもきちんと提案してやる方が、俺がわかってやっているということが伝わって彼女も安心するだろう。

「そ、そう? ははは、やっぱ伊導くんには敵わないね〜、私の気持ちを読んでくるなんて」

「そうか? 誰でもそれくらい気にすると思うけどな」

「むう、ずるいですよ先輩っ……でも私も同じ女だからわかります、きっと同じ状況になったら、お兄ちゃんに中学までついて来てって言っていたと思うから」

「真奈ちゃんもありがとうね、やっぱり、気持ちを共有してくれる異性が近くにいると助かるかな。霞も勿論理解してくれると思うけど、ずっとそばにいてくれるわけじゃないからね〜」

霞の家はこのアパートから高校を前にすると、ずっと左の方にあるのだ。自転車で20分くらい、歩いてだと45分はかかるだろうか。
とても『ここまで来てよ、一緒に高校行こう!』とは言えないだろう。
ウチの高校は自転車通学は許可制なので、家から高校まではここからと同じ25分程度な霞は自転車は使えないし。
もしここまで乗って来て、それから歩いて行くにしても行き帰りで90分だ。部活がある日だと特にしんどいと思われる。

「いえ、先輩の為でもあり、私の為でもありますから。こんなことで恋のライバルが居なくなってしまうなんて、残念でなりませんよ?」

「あはっ、いうねえ〜このこの〜」

「きゃあっ♪」

と、いちゃつく二人。

「じゃあ、今度こそまた明日ね〜」

「おう」

「さようなら先輩!」

こうして流湖は一階へ降りていき。

「さて、これからどうするか」

「うーん。あ、お兄ちゃん、ゲームしようよ」

「うん? 別にいいが。確かに、最近二人でしてなかったな」

前はよく一緒に遊ぼうとせがんできていたが、依存症が発症してからはそんな余裕もなかった。こうして久々にゆっくり過ごせるんだから、相手をしてやってもいいだろう。

「じゃあー、これ!」

と真奈が持ち出して来たのは、有名な作品のキャラクター達が車に乗って順位を争うレースゲームだ。アイテムで相手の進路を妨害するゲームシステムや、意外と奥の深い操作性などで長年人気なシリーズの最新作である。

「ほいほい、じゃあこれ」

とコントローラを渡し、ゲームを開始する。

「へえ、今日はそいつ使うのか」

「うん、お兄ちゃんはいつものだね」

「そうだぞ、慣れたキャラの方が使いやすいからな」

選ぶキャラクターによって元々持っている能力値が違い、そこから更に乗る車やタイヤの種類などでも変わってくる。コースは後から選ぶ為、談合でもしない限りはコース毎の特長に合わせた性能にするのはなかなか難しい。
なので、結局は一番使い慣れた組み合わせが一番というのが俺の持論だ。

そうしてランダムでコースを選択し、レースの開始だ。

「よっ、そこか!」

アイテムを当て、順位を入れ替える。二人以外は皆CPUであり、強さは十段階あるうちの六だ。強くもなく弱くもなく、誰かと楽しく遊ぶにはこれくらいがちょうどいいんだよなー。

「やんっ、なんで〜?」

妹はキャラと一緒に身体が動くタイプで、リアルでよく俺にぶつかってくる。

「ははっ、やっぱアメジスト甲羅は強いな!」

「お兄ちゃんのいじわる! 折角一位になれたのにーっ!」

などと戯れあいつつも、楽しい時間は過ぎていった。





そうして夜、寝る前。またまたいつもの通りに真奈の俺成分』補充のお時間だ。

因みに今日のスタイルは俺の膝の上、真奈のお気に入りスポットでの抱っこだ。妹は俺の腕を自分のお腹に抱きつかせるように持っていき、背中を胸に預けてくる。

「はあ、秋休み、充実していたね」

「ああ、そうだな。久しぶりにこんな大人数でワイワイした気がする」

中学の頃は仲のいい友達が何人かいたが、そいつらとは違う高校に進んだ為、また最近は連絡も取っておらず疎遠になってしまっている。

高校に入ってからは仲のいいのは専ら泰斗一人で、他の奴らとは浅い付き合いにとどまっているし。こうしてお出かけしたり、共同作業をするというのは久方ぶりの経験だった。

「また、冬休みにでもパーっと遊べたらいいな。真奈は受験勉強があるが……」

「じゃあそれまでに頑張って勉強して、出掛ける間は息抜きのつもりでいられるくらいに慣れば大丈夫じゃない?」

「でも大変じゃないか? 勉強する量を圧縮することになるし、無理に詰め込むといざというときに覚えた知識が使えなかったりするぞ」

「もうお兄ちゃん、私そこまでバカじゃないもんっ。空いた時間で単語を覚えたりとかできるし、そもそも受験勉強自体順調だよ? もっと妹のこと信頼してくれてもいいんじゃないかな〜」

「すまんすまん」

と頭を撫でてやる。

「あっ♡あっ♡それだめっ♡この状態で頭はキちゃうからっ♡♡♡」

「す、すまん!? 大丈夫か?」

まだまだ俺も"補充させ慣れ"ていない所があるからなあ……フェロモンを浴びている時の真奈への無用な接触は避けた方がよさそうだ。

「だ、だいじょ…………ぶっっっ!」

だが、真奈は身体をビクビクと痙攣させ、甘い吐息を漏らす。
俺は鋼、石、銅像、大木なのだ……!

「んんん、お兄ちゃん当たってる……」

「ごごごめん!? すまない、もう降りてくれないか」

「もうっ、えっち!」

真奈がそんな声出すからだろ……なんて言える訳もなく。

「すまない、俺も疲れているのかな。男にはそういう時があるんだよ、本当だぞ?」

本当だぞ? 決して妹に興奮したわけではないからな!

「はあ、着替えてくるね……摂取するときはオムツでも履こうかな……」

などとこれからも同じことをするつもりなのかそんなことを言う。
こんな退廃的な状況になってしまってはいるが、やはり早く真奈の依存症を脱却させる手がかりを集めないと、いつまで経ってもこんなことを続けなければならない。
勿論俺としては不本意であるので、今度病院に行った時に相談してみよう。

と思いつつ、翌日からまたいつもの日常に戻るのであった。

          

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