妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第38話 『ターンスリー』へ


電車に乗り、二駅。駅から出て5分ほど歩くと、『ターンスリー』の建物が見えてきた。

「よし、まずは何から遊ぶ?」

「一先ず中に入って、プランを買ってから遊んだほうが良くない?」

泰斗の問いかけに、流湖がそう言う。

今日の二人の服装は。


泰斗はどこかのメーカーのロゴが入った黒い帽子を被り、赤い半袖にクリーム色の短パン。半袖の上からまた白い上着を羽織っている。そして肩からは最近流行の斜め掛けのショルダーバックを下げている。
休日にそこら辺を歩いてそうな男子高校生だな。

流湖は、いつものふわふわウェーブの茶髪と右耳には珍しくピアス。銀色の装飾が付いたハートの形をしたものだ。
薄くクリーム色のチェック模様の入った白いフレアスカートに黒のブーツ。
白地に黒のボーダーが入った薄手のシャツの上に前を開けたデニムジャケットを羽織っている。
その少し大人びた顔立ちもあって、もしかすると大学生と言っても通じるかも知れんな。


「そうだな、取り敢えずフリープランでいいよな?」

「おっけー」

「大丈夫っ」

「はーい!」

「私も」

「いいよ〜」

五人とも賛成してくれたので、中に入り券売機へ。




ターンスリーには、普通にお金を使って各施設を遊ぶ方法と、時間に応じてお金を払うプランを契約する方法がある。焼肉屋で食べ放題か、単品で頼むかみたいなものだな。

フリープランの値段はその名の通り時間無制限で一人3000円。学生割引で1割引、更に会員がいると8人まで1割引だ。

使える施設は、

○ゲームセンター

○ボーリング&ローラースケート

○遊戯場

○スポーツセンター

○カラオケ

○ネットカフェ&漫画カフェ

の6種類だ。フードコートは入場無料だが、注文するのにはお金がかかる。またその他施設も別途料金支払いが必要だ。
なお、カラオケのドリンクはフリーとなっている。

プランを購入すると、自動的に腕に通せる『パス』と呼ばれるバッヂが出てくる。これを自販機などに当てると、商品が購入できる仕組みだ。ICカードみたいなもんだな。



「会員の人、いる? すまんが俺アカウント登録してないんだ」

「あ、じゃあ私が!」

と、理瑠が言う。

「私もあるけどっ?」

どうやら霞もここの会員らしい。因みに会員費用は無料だが、割引を使えるのが8人ごとの支払いで年12回までと決まっている。
それ以上は有料会員とならないと使えない仕様なのだ。

「ではここは後輩の私が!」

理瑠が手を挙げる。

「じゃあお願いするねっ」

「はーい」

と言うわけで、彼女のアカウントでログインして料金支払いをすることにする。

「すまんな」

「いえいえ、お兄さんポイントゲットということで!」

「え?」

「理瑠……?」

真奈は笑顔で拳を握る。

「い、いいじゃん別にー、これくらいは役得だよーん」

「むうう……」


因みに今日の霞達3人の格好は、

霞は、その髪の毛にいつも通りにカチューシャをつけ、今日はこの前のように眼鏡ではなく、またコンタクトに戻している。
上は夏らしく水色のゆったり目の半袖Tシャツだ。
下はクリーム色の短パンで、サンダルを履いている。
このまま海にでも行けそうだな。


理瑠は、いつものようにポニーテールを下げ、薄めのサングラスをかけている。
上は白のノースリーブカットソーだ。
……その、胸部がとても強調されていますね、ハイ。さっき抱きつかれた時は内心喜んだのは内緒ですよ皆さん?
下は、黒一色のいわゆるワイドパンツだ。そこが少し厚めのサンダルを履いている。
黒と白で映える見栄えながらも、気の強さを感じる。


そして我が妹の真奈は。
今日もお出かけ用のツインテールにし。
上は、黒に銀色でなんかようわからん文字が書いてある半袖シャツの上から半透明の上着を羽織っている。
下は紅のミニスカートに、流湖と似たようなブーツを履いている。そこそこ開放的な格好だ。


俺? 俺はいつもの通りそこら辺にあったやつを適当に着てきただけだ。聞いたところでなんの面白味もないさ。


「じゃあ皆さんこれを。支払いは出る時なので、忘れないでくださいね! 警備員がすっ飛んできますよー」

「わかっている」

店内で飲食した分も全て記録されるため、どれくらい使ったか頭の中で覚えておかないといけない。もしかするとわかりにくくするために店側がこのシステムにしているのかも知れないな。
人とどこかにお出かけして遊んでいると結構そういうの気にしなくなるし。

「泰斗が捕まったら……私は夫の帰りを待つ妻にっ……!」

霞ははわわ、と口を開け口元に掌を当てるフリをする。

「いやいや、まだ付き合ったばかりでしょ、気が早すぎるよ〜」

流湖のツッコミにそんなことないもんと必死に反論する。

「俺ってそんなふうに見える?」

「んや、大丈夫だ、恐らくああいうネタだから気にするな」

「お兄ちゃんが捕まったら、私どうなるんだろうね?」

なんとなしに真奈がそう口にする。

「そうだなあ……禁断症状が出て倒れる可能性は高いし。そのまま摂取できなくなるとどうなるんだろうか? そこらへんも考えておいた方がいいよなあ、人生何が起こるかわからない時代なんだし」

捕まるかどうかは別として(いや犯罪を起こす気はさらさらないが)、俺が身動きを取れない状況になった時、真奈がどう対処するのかというのはきちんと考えておかなくてはならない。また両親や病院の先生とも話し合っておかなければな。

「わたしは、お兄さんが捕まったら一緒に牢屋に入りますよ?」

「なんでやねん」

「理瑠、それだったら私も一緒に入るから。そして一人で別の牢屋に移ってもらうわ」

「ええー!」

「むう、理瑠ったら、本当にお兄ちゃんのこと好きなの? 積極的すぎるし、冗談にしか思われてないよ絶対」

「ええ、そうなんですか?」

と俺のことを目を潤わせながら見てくる。

「まあ、ネタというか。何度も言うようだけど付き合う気はないよ。真奈のことが一番だし、それから改めて断らさせてもらうかな」

「がーん、振られるの前提……」

と四つん這いになり落ち込む。おい、床は汚いぞ。

「おーい、さっさと入ろうぜ、フリーと言っても時間がもったいない!」

「そうだな」

「は〜い」

「いこっ、泰斗っ」

霞が泰斗と腕を組む。こう見ると本当に二人は付き合ってるんだなと微笑ましくなるな。

「お兄ちゃん、私も……」

「ダメだダメだ、接触しすぎるとまたどうなるかわからんからな、我慢しろ」

「ううっ、『依存症』の影響がこんなところにまで……昔はあんなにくっつき合っていたのに」

「その言い方は誤解を生むからやめなさい!」

それにそんなにベタベタしていたっけ? 確かによく真奈が俺と行動を共にしていたのは覚えてるが。何をするにも後ろをついてお兄ちゃんお兄ちゃん。あの時から俺のことを異性として好きだったなんて、本人から言われても考えられんな。やはり身内だからと言う意識が強いのだろうか。

「じゃあ私はー? ほいっ!」

と、理瑠が今度は腰ではなく俺の腕にくっついてきた。

「うおっ!?」

むにぃ〜〜〜〜〜と、中学生のくせに結構な大きさの胸が押しつぶされる。
俺は一瞬顔がにやけそうになったが、慌てて取り繕った。

「うふふー」

「だからそういうことをしないの! 離しなさい」

「ええー」

「理瑠!」

真奈も彼女のことを引っ張るが、意地でも離そうとしない。何がそこまでさせるんだ。

「むむむむむむ」

「仕方ないな、ちょっとすまんが」

と無理やり引き剥がそうと腕を掴むために手をやると。

ぷにんっ

「ひゃあっ」

ぼよんっ

「ひょおっ」

「あっ、すまん!」

掴む指を強引に引き離そうとしたら、なんと胸に手が当たって揉むような形となってしまった。

「おおおおおおにいちゃん!?」

「しぇ、しぇんぱいに触られたー」

と理瑠は顔を真っ赤にし胸を抱き抱える。

「ごめん、この通り」

と急いで頭を下げる。

「い、いえ、私も調子に乗りすぎましたので……いきましょ、あははー」

たたたっ、と『パス』購入者用のゲートを通り過ぎる。

「お兄ちゃん……帰ったらお仕置きです」

真奈は怒った様子でそう言う。

「ハイ」

そうして俺たちもゲートを通り、一先ずは二階のゲームセンターへ向かうこととなった。

          

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