妹が『俺依存症』を患った件
第26話 テストが終わり、ホームルームで
あれよあれよと時間は過ぎていき、テスト最終日。
学校中の皆がようやく魔の期間から帰還できた日、そのホームルーム。
「では、学級委員、前へ」
担任の大隈凛子が指示を出す。
以前からの予告通り、今から来たる11月に催される予定の文化祭の出し物決めだ。
男女それぞれ1名ずついる学級委員が、教壇に上がる。
「えー、では、今年の文化祭の出し物を決めたいと思います!」
「私たちである程度考えてきましたので、まずはそれらを書きたいと思います。気に入ったものがあれば、後で投票してくださいね」
そしていくつかの候補が書かれていく。
「なになに?」
○喫茶店
○お化け屋敷
○資料展示
○バルーンアート等のキッズスペース
○休憩所兼案内所
「ふうむ」
おそらくだが、3番目と5番目はバツだろうな。
流石に文化祭でやるとなると、パッとしないし何よりみんな内容的に不満だろう。
「じゃあ、まず意見をもらいたいと思います」
「はーい」
「どうぞ」
「資料展示はなしで」
「「「そうだそうだー!」」」
「ちゃんと考えてきたのかー!」
「二人で早く結婚したらどうだー!」
「俺も彼女欲しー!」
案の定、怒号が飛び交う。
おい、明らかに関係ない罵声を浴びせている奴はなんなんだ、自重しろ!
「みんな落ち着いて、学級委員が困ってるでしょ!」
凛子が宥めたことにより、クラスメイト達はようやく落ち着きを取り戻す。
「休憩所も残念ながら、なしね。それは学校側が用意するし、あなた達もせっかくの初めての機会なんだから、きちんと出し物をしなさい」
と言う鶴の一声? で、おじゃんとなった。
「ほ、ほかに代案がある人は〜……?」
学級委員が恐る恐る訊ねる。ほら、ちょっと怖がってるじゃないか、遠慮しろよなほんと。
「泰斗はどうなんだ?」
と、横にの席の友人に話しかける。
「俺か? そうだなあ。ロック……いや、なんでもねえ」
「ロック?」
なんの話だ?
「ちょっと、昔の出来事を思い出してな。まあ、若気の至りってことよ」
「今も十分若いだろ」
「そりゃ違えねえなあ、ははっ! 伊導の方こそ、何か案はあるのか?」
「そうだな、うーん」
思い思いの提案をするクラスの会話に耳を傾けながら、俺は何か良い案はないかと頭の中で模索する。
「漫画なんかの中だと、ライブ開催とかしてるけど……現実だと難しいよな」
「!」
体育館とか使って演奏し、全校生徒が盛り上がる。みたいなのって、実際は色々と許可が必要だったりするし、何より演奏の練習ってとても大変だ。1ヶ月で終わるのだろうか?
「ライブ、か……」
すると、泰斗は真に受けたのか、手を上げ発言する。
「はいはい、体育館ライブはどうですかー」
「え?」
「ライブ……それはどうなんでしょう?」
と、案の定学級委員は難色を示す。
「でも面白そうじゃない?」
「ばっか、実際にやるとすれば、色々と大変だろ? クラスの出し物の域も超えてるし」
皆の反応は半々、といったところか。
「あら、出来ないこともないわよ?」
と、そこでまさかの援護射撃をしてきたのは、担任の凛子だ。
「先生、ほんとーですか?」
「体育館は今のところ誰も使う予定はないし。それにライブだけじゃなくて、カラオケ大会とか、ちょっと捻って告白大会とか、いいかもしれないわね」
まさか学校側の人からそんな乗り気な提案がなされるとは。
「ううむ、でも著作権とかは……」
「学校って、包括契約してるのよね。あと、授業の一環といえば使用許可が出る場合も多いし。お金さえ取らなければ、なんとかなるかもしれないわ。それに、ちょっとアテもあるし……」
と、先生はぶつぶつと考え込む。
「じゃ、じゃあライブ開催も追加、で……」
○喫茶店
○お化け屋敷
○資料展示×
○バルーンアート等のキッズスペース
○休憩所兼案内所×
○ライブ開催
「では、他には? ……無さそうですね」
「では、多数決を取りたいと思います。クラスの人数は40人なので、もしもの場合は最低21人以上が賛成するまで決選投票ということで」
そして、皆それぞれやりたい出し物を書いた紙を学級委員に渡す。
そして数分後、結果発表。
「えー、結果はこちらとなりました」
○喫茶店……5
○お化け屋敷……4
○バルーンアート等のキッズスペース……0
○ライブ開催……32
「というわけで、圧倒的多数でライブ開催に決定しました」
「いえええええい」
「頑張ろーぜ!」
「先生根回しお願いね〜」
クラスが湧き上がる。
「ま、まじか……」
まさか冗談半分で言った提案が通るとは……こいつら大丈夫か?
因みに俺は現実的に考えた結果お化け屋敷に投票したぞ。
あと、何故40人のクラスで41票……まさか、先生?
「おい泰斗、どう思う? 上手くいくと思うか?」
「ん? いいんじゃねえか、こういうのもの。中々ロックだぜ! 因みに俺もライブにしたぞ」
だからそのロックってなんのことなんだ。今日の泰斗はなんか変だ。
「はい、学級委員の二人はありがとう。もう下がってくれていいわ」
「「はい」」
そして凛子が再び教壇に立つ。
「では、皆さんテストお疲れ様。後は秋休み後の返却を楽しみにね」
「ええ〜楽しみたくなーい」
「俺、既に諦めてるから……」
「くわばらくわばら」
「はいはい、私語しないの。じゃあ、明日から秋休みね。みんな、羽目を外さないように! ライブのことについては、その間にこっちで交渉しておくから。おそらくは大丈夫だと思う」
そうしてその他連絡事項を伝えたあと、号令がかかり、ホームルームが終わる。
「はあ」
「なんだよ伊導、ため息なんかついて。テスト、上手くいかなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃないが。秋休みって単語を聞いて、明日からいよいよ妹と二人暮らしだと思うとな。色々と心配になってきた」
ただでさえ最近の妹は積極的になってきて、俺としてもドギマギするシーンが多い。それに体調のこともまだまだ心配だし。
今からでも、取りやめたほうがいいんじゃなかろうか? 父さん達は何を考えているのか、わからない。
「まあまあ。良かったらさ、俺も行ってみていいか? どうせ秋休みは暇だしさ。引越しパーティ、やろうぜ」
「引越しパーティか。まあ、それくらいならいいかな」
「折原さんも同じようなこと言ってたし、あの二人も誘ってみていいんじゃないか?」
「おい、そっち目当てじゃねえだろうな?」
「バレたか、はっはっは」
と、泰斗はわざとらしく鷹揚に笑う。
「まあ、一応考えておく。可否が決まったら早めに連絡するわ」
後で真奈にも相談しておこう。
「じゃ、RIME《ライム》で連絡してくれ」
「ああ」
ライムというのは、最近流行のメッセージアプリだ。
世界的IT企業のパイナップル社が提供しているもので、この手のアプリとしては世界的なシェアを一番に確立した新世代コミュニケーションツールを代表する製品だ。
因みに製品名は押韻を意味する『rhyme』と一人称の『i』、『me』を掛け合わせたものだ。この企業はどんな製品にも一人称を入れることで有名だ。
基本的な機能は全て無料で、短い文を用い会話するように互いの意思を伝えられるだけではなく、ハンコと呼ばれるイラストを用いたコミュニケーションも特徴的だ。
企業が公式に出しているものから、個人が製作したネタに振り切ったものまでたくさんの種類がある。
「じゃ、そういうことで」
俺は明日からの怒涛の日々に備え、帰宅することにする。
「あ、伊導くんだ」
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