妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第15話 新居見学での一幕


「どうした流湖……と、おお、雄導おどうか、待っていたぞ!」

勇二ゆうじ! 今日はすまんな、休日なのに」

「いや、構わないさ。俺とお前の仲じゃないか」

「そうか、そう言ってくれるとうれしいぞ」

ガハハ、と父親同士が笑い合う。あんなに笑顔の父さん、久しぶりに見た気がするな。いつも真面目な父親という雰囲気を崩さずにいるし。

「新しい住人が見学に来るって、伊導くんのことだったんだね」

流湖が近づいてくる。

「ああ、まあな。びっくりしたぞ、まさか折原の家だったなんて」

「正確には、隣の一軒家が実家なんだけどね。今日は予め入居予定の部屋をきれいにしておくように言われたから」

「なるほど、それでここに」

頭の中で地図を広げる。よく考えれば、ここから俺の家を経由して高校に行くルートが最短だな。だから登校時たまに出会うのか。

「どうも、娘さんですな? 伊導の父です。どうやら知り合いのようで」

父さん達もこちらによって話に加わる。

「ええ、友達なんです。ちょっとしたきっかけで話すようになって、今では昼ごはんもご一緒させてもらってます」

「そうですか! 今後も至らない息子のことをよろしくお願いします」

至らないは余計だろう?

「いえいえ、こちらこそ仲良くしてもらえて嬉しいです」

「しっかしまさか、俺の娘とお前の息子が友達だったとはな」

勇二さんは頭を刈り上げにしたムキムキマッチョマンだった。父さんもなかなか体格は良いほうだが、それ以上だ。
一体この遺伝子のどこが流湖に引き継がれているのだろうか、非常に気になる。

「本当だ、驚いたなこりゃ。これも何かの縁かもな、伊導、人間関係は大事にするんだぞ」

「わかってるよ、な、折原」

「うん、そうだね〜! で、そちらがもしかすると、この前話に出ていた娘さん?」

流湖は真奈の方に向き直る。

「は、はい、初めまして! 伊勢川真奈です、真奈って呼んでくださって構いません。それと、折原先輩の作品、いつも拝見させていただいてます。このたびは入賞おめでとうございます!」

今更だが、俺たちの名字は伊勢川いせかわだ。中々珍しい名字らしい。

「あはは、照れるな〜、ありがとう真奈ちゃん! そうだ、美術部の案内の件なんだけど、秋休みの間ならいいって話だけど、どうかな?」

「本当ですか! ありがとうございます、ではまた近々お世話になります」

真奈は流湖に向かって律儀には頭を下げる。

「うんうん、将来の後輩のためならば、一肌脱ぐことくらいわけないって。ねえパパ、早速案内しようよ」

「そうだな。雄導、こっちだ」

六人一緒になって、二階の奥へ進む。

勇二さんが鍵を開け、中に入ると、そこは壁のない1DKという感じの部屋だった。

「ちょっと日陰になっているが、その分安くするからいいだろう?」

勇二さんの言う通り、

「ああ、住めたらどこでも構わないぞ。とりあえず、1年間だけの予定だからな」

「でも二人暮らしだなんて、大胆なこと思い付きやがるなお前」

「まあな……」

あれ、そこら辺の事情も説明してあるのか。こんな話よく理解してくれたな。旧知の間柄だけはある。

「二人暮らし……? 家族でじゃなくて? ねえパパ、ここには誰と誰が暮らすの?」

と、流湖は何かに引っ掛かったようで頭をひねる。

「ありゃ、言って無かったか? ここにいる伊導くんと真奈ちゃんが二人暮らしをするんだよ」

「え、えええええええ!?」

すると次は驚きや表情を隠さず、口をあんぐりと開ける。

「い、伊導くんと真奈ちゃんが!?」

「そうだぞ、まあ、確かに子供同士二人暮らしって聞くとびっくりするよな。俺の家からも近いし、そんなに心配ないとは思うけど、色々とお世話になるかもしれない。よろしく頼む」

と、今度は俺が流湖に向かって頭を下げる。

「いや、ええっ、は、はい……」

流湖は未だに驚きから立ち直れないでいるようだ。

「なんだ流湖、良かったじゃねえか。俺は今ピンと来たぞ、前話してた好きな人って--」

「わああああああ! ここ、住みやすくて良いですよ〜! キッチンに風呂、トイレもありますし、洋室も二人暮らしなら充分過ごしやすい広さもありますよ〜!」

勇二さんが何かを言おうとしたが、いきなり大声を出した流湖によってかき消されてしまった。

「ん? 折原先輩、まさか……」

と、真奈は何かに気付いたようで、流湖のことを真顔で見つめる。

「あら、確かに良いわねー」

と母さんは場を取り持とうとしたのか奥に入って部屋の見分を始める。

「おい、勝手にズカズカと」

「いいさいいさ、愛する子供の住う場所、お前も気になるところがないか見て回っていいぞ。ま、流湖の大袈裟に言うほど広くは無いけどな」

「折原先輩、ちょっといいですか?」

「え、う、うん……」

その隙に、妹と流湖が外へ出て行ってしまった。まあすぐに戻ってくるだろうと思い、俺も自分の住むことになる部屋を見学する。



❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎




「先輩」

「ん、どうしたの真奈ちゃん、急に?」

私は外に連れ出した先輩と、一対一で向かい合う。

「私、お兄ちゃんのことが好きなんです」

「え? ああ、兄妹としてってことか。もしかして、さっきので私の気持ちに気付いちゃった? 心配しないで、もし付き合うことになっても独り占めにしたりはしないからさ〜」

先輩はわかっていてわざとなのか、それとも本当にそう思っているのか、笑顔でそんなことを言う。

「違います、一人の異性として、男性として、お兄ちゃんが好きなんです!」

「ははは、えっ……? そ、それって、ほんと?」

「はい、大真面目です」

「……でもそれって、いわゆる近親相姦になるんじゃないの?」

先輩は恥ずかしげもなく、ちょっと緩めの口調はどこかへなりを潜め、今日一度も見せていないような表情で正論を口にする。

「そうですね。でも、聞いてください。私、あなたと喧嘩するつもりはありません」

「どう言うこと?」

相手は訝しげな顔をするが、私は話を続ける。

「お互いライバルでいましょうって話です。勿論、美術部の先輩として敬っているのは本当ですし、高校に入っても仲良くしていただけると嬉しいです。見学も、喜んで行かせていただきます」

「ふーん、じゃあ、そこまで言うんなら、伊導くんのどこが好きか言ってみてよ」

「そんなの簡単です--」


私は、ありとあらゆるお兄ちゃんの好きなところを述べていく。


「--はあ、はあ、やるわねあなた」

「せ、せんぱいこそ、さすがです」

私たちはいつしか互いに不敵な笑みを浮かべ、ひたすら自分の知っているお兄ちゃんのマニアックな情報を自慢し合う闘いを繰り広げていました。

「それにしても、知り合って数ヶ月でそこまで好きになるだなんて、相当・・ですね」

「そっちこそ、そんなに昔から好きだったなんて筋金入りのブラコンね」

「……」

「………」

「…………」

「……………ぷっ、あははは!」

と、先輩は急に笑い声をあげる。

「わかったわかった、真奈ちゃんの想いはもう充分伝わったよ〜」

また先ほどまでのように喋り方を戻し、手を差し出してくる。

「じゃあ、これからは伊導くんのことに関してはライバルで、美術部としては先輩後輩で、そして一人の女同士としては良き友達で、ってことでどうかな〜?」

「賛成です。よろしくお願いしますね、折原先輩」

「呼び捨て、でいいよ」

「え? いや、流石に急にそれは変に思われるかもしれませんので、じゃあ、流湖先輩でどうですか?」

「うんうん、それでもいいよ〜。じゃ、戻ろっか」

と、こうして私と先輩の間には、半日にして奇妙な関係が出来上がった。

          

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