妹が『俺依存症』を患った件
第11話 登校と約束
--次の日の朝
「はあ……また朝チュンか……」
俺は横に眠る妹の幸せそうな顔を覗き込みながらひとりごちる。
あ、いやいや、そういう意味のシーンじゃないからな?
「あ、お兄ちゃんおふぁよ〜」
「お、おはよう。どうだ、良くなったか?」
「うん、夜中は急にごめんね。我慢したんだけど、でもやっぱり無理だったなー……」
隣に寝転ぶ真奈は、苦笑いをしながら俺は抱きつく。
「苦しかったらいつでも呼んでくれていいんだぞ? まだ、色々とわからないことも多いし、これから治して行こうってところなんだから。いきなり無理をして、もし身体を壊したら大変だ。ただでさえ受験も控えているっていうのに」
「うん、ありがとう」
真奈もこいつなりに、考えているのだろう。だか無理をして治そうとして余計と悪化しては意味がない。適切な対処法を見つける為にも、少しずつ試して行ければいい。
「取り敢えず、起きようか。母さん達と少し話をしておかないと」
「そうだね……っていうことで、出て行って?」
「え? ああ、そうだな」
ここは俺の部屋ではなく妹の部屋なのだ。昨日の夜しかり、女の子には色々とあるだろう、さっさと出て行ってやらないと。
因みにあの後、顔を真っ赤にしたままの真奈に『来て……』と呼ばれた時はちょっとドキッとしてしまった。
まあ流石にそこは妹だからと自分に言いかけせてことなきを得たのだが。
狙ってやってるのか、それとも素であれなのか。将来が末恐ろしい奴だ……
そうして自分の部屋に戻り、登校の準備をして下に降りる。
「おはよう」
「おはよう伊導」
「起きたか」
既に両親とも揃っている。俺は、真奈が降りてくるまでに夜中の出来事を説明した。
「--そうか、じゃあ今は大丈夫なんだな?」
「みたいだな。でも思ったよりも早めに出た気がする。病院の先生も三日くらいは持つかもって言ってたから」
それに昨日も結局ちょくちょく接触していたんだけど、あれももしかすると余り効果がなかったのかもしれないな。
「おはよー」
すると真奈もリビングにやってくる。
「おはよう真奈、禁断症状が出たっていうけど、大丈夫なの? 学校休む?」
「ううん、もう大丈夫。それに元気満タンって感じだし、ジッとしていても逆に気持ち悪いかな」
またか? 『俺成分』を補充したことと真奈の体調が異様に元気になることにはやはり関係性があるのではという気がしてくる。
「真奈、以前伊導に接触したのは何時ごろだったんだ?」
と、父さんが訊ねる。
「えーっと、正確には一昨日の夜中12時ごろだったから、大体24時間経ってから症状が出始めたと思う」
「なるほど、じゃあ今のところは丸一日持つ、という風に考えておけばいいか? それと、もしかしてだけど、俺にちまちま接触していたのは余り効果はなさそうだったか?」
「そうだね、夜中ほどに補充できた感じではなかったよ。もしかすると、接触している時間や方法にも関係しているのかも?」
うーん、そうなると、もっと色々と確かめてみたいとなにが効果があって、どれくらいの頻度でどういう対処法を取ればいいのかわからないな。
「取り敢えず、朝ごはん食べましょう、続きは帰ってきてからにしない?」
母さんの一声で、その場はお開きとなった。
「おはよ〜」
あ、この声は。
「折原さん、おはよう」
学校へ向かっていると、最近よく聞く声色が耳に入ってきた。
「今日もいい天気だね〜」
「そうだな、まさに秋晴れって感じだ」
などと雑談を続ける。
……そういえば妹から頼まれことをされているんだったな。
「あっ、そうだ折原さん」
「ん、なーに?」
「あの実は……」
と、美術部の件について聞いてみると。
「へえ〜、妹さん興味持ってくれてるんだね……なるほど、それは嬉しいな〜!」
と流湖は何故かテンションを上げはしゃぐ。
「そうか? 結構有名なんだろう? ウチの美術部って。妹一人くらいでそこまで喜ぶことかな笑」
「あっ、あはは、まあね」
? 変なやつだな。
「でも残念ながら私一人で判断はできないかな。仲間や先生とも相談してみないとだし。結論が出るまで、待っててね?」
「ああ、頼む。それと、入賞おめでとう。昨日ニュースに折原さんが映ってるのを見て、妹もこんなこと言い出したんだよ」
「そうだったんだ〜〜ありがとう、褒めてくれて嬉しいよ」
と、照れたように頭を掻く。
「ところで、今日も昼ごはんご一緒してよろしいかしら?」
「ん? 別にいいけど? 折原さんはいつも一緒に食べてる人とかいないの?」
なんと無しに訊ねてみる。
「それなんだけど、友達に二人の話をしたら、実は泰斗くんのこと気になっているらしくてさ……中学の同級生だったんだって」
「へえ、そうなのか」
泰斗とは違う中学だった為、勿論初耳だ。
「なので、出来れば二人の仲を取り持って欲しいんだけど……ダメかな?」
と、流湖は手を合わせて頼み込んでくる。
なるほど、なかなか面白そうな提案だ。泰斗の高校生活に春を呼び込んでやるのもいいかも知れないな。
「全然構わないぞ、じゃあまた今日の昼にウチのクラスまで来てくれるか?」
「もちのロンだよ〜、でも購買に行かなきゃだし私は後から合流するね……あっそうだ、どうせなら購買も一緒に行ってみない?」
「ん? 俺とか?」
「そうそう。いつもある程度時間が経ってから適当に買ってるんだよね? たまには早く行って争奪戦に参加してみるのも面白いんじゃないかなと思って」
争奪戦か……一度どんなもんか味わってみるのもいいか?
「わかった。じゃあ授業が終わったらすぐに廊下に出るよ」
「うん、最悪向こうで合流できればいいしね」
「そうだな。お、いつのまにか学校に着いたな」
今日はいつもよりお喋りに夢中になったからか、いつの間にか学校に着いていた。意識しなくても自然と足が向くとは人の身体って不思議だ。
「あ、流湖、おはよっ」
ん、門のところで出会した誰かが流湖に声をかけてきた。
「おはよ〜、そうそう伊導くん。この娘がさっき言ってた友達の増田霞ちゃん。因みに同じ美術部員なんだよ」
「どうも、増田です。いつも流湖がお世話になっておりますっ」
と、学校指定のクリーム色のカーディガンを羽織り、長髪にカチューシャをつけた子がペコリと頭を下げる。
「いやいや、こちらこそ。いつもお世話に? なってます」
互いに頭を下げあう。
そういえばこの子昨日下駄箱で見たな。なるほど、友達の友達だし接点なんてないと思っていたけど、思わぬところに知り合う機会があるもんだな。
「ところで話って?」
「それはね--」
流湖はカクカクシカジカ説明する。
「--ふむふむ、なるほど……いらない気を回してくれちゃって〜」
と霞は流湖の頬をグリグリ撫で回す。
「いひゃいよかひゅみひゃん!」
「あははっ、でもありがとうっ。そういうことならお邪魔しちゃいますねっ?」
「どうぞどうぞ。増田さんは俺たちが帰ってきてから一緒にこっちのクラスに来るってことでいいのかな?」
「うんうんっ、そうしましょ。いきなり二人きりはちょっと恥ずかしいしゴニョゴニョ……」
どうやら泰斗のことが気になっているのは本当のようだ。頬を赤らめ指先同士をツンツン突っつき合う。
「じゃ、そういうことで! また後で〜」
「ばいばいっ、昼休みに!」
「おう」
とそこで二人とは別れ、俺は一人ゆっくりと教室に向かうのであった。
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