妹が『俺依存症』を患った件

ラムダックス

第9話 放課後


「お、やっと来たか」

美術室で先生や後輩たちと雑談していると、真奈がやってきた。

「お、お兄ちゃんなにしてるの!?」

「ああ、実はな。何やら三連休でやらかした生徒がいたらしく、緊急の全校集会があって。そのまま今日はお流れ下校ってことになったんだ。全く何やってるんだか……」

学生としての本分を〜とか、自覚を持って〜とか。
うちの学校、時々意味不明な全校集会を開くのが好きなんだよなあ。いや、どこの高校も同じなのかもしれないが。

「そ、そうなんだ……って、ここにいる理由になってなくない?」

「いやあ、せっかくだからちょっと真奈の様子を見に来ようかなと思って。それに久々に母校の見学もしたかったしさ」

真奈は大丈夫と言っていたが、やはり家族としてはまだまだ心配は尽きない。本当はダメなんだろうが、ちょっとだけど様子を見に来てしまったのだ。

それに何を隠そう、俺もこの中学の出身なのだ。まあ地元の中学って位置づけだから、同じ家に住んでいる真奈と同じ中学に通っていたというのは当たり前の話なのだが。

「うふふ、久しぶりにお話できて楽しかったわ」

と、目の前の先生が口元に人差し指を当て妖艶に笑う。
俺がいた時から美術部の顧問をやっている、佐久間蓮美さくまはすみ先生だ。その色っぽい雰囲気から男子に大人気だった。かくいう俺もかつてそのオーラに当てられ済みだ。

「もう先生、何勝手にお話ししちゃってるんですか! お兄ちゃんもデレデレしちゃって」

「はあ? 別にそんなことないが……」

「なあに、真奈ちゃん? もしかして嫉妬?」

クスクス、と周りの生徒と一緒に笑う。

「もうみんな、いじるのやめてよ。そんなんじゃないからっ」

「はいはい、じゃあ二人で積もる話もあるでしょうから、行ってらっしゃい。私たちは先に部活始めておくからね」

「わ、わかりました。ありがとうございます。お兄ちゃんいこっ」

「ああ」

そして真奈に連れられて、廊下に出る。

「……もう、来るなら来るって言ってくれたら良かったのに」

「いや、すまんすまん、思いつきの行動だったからさ。まさか俺も今日に限ってこんな時間に下校する羽目になるとは思ってなかったんだ」

「まあ、一緒にいる時間が増えたから、私としては嬉しいけど……」

「それよりか、そっちはどうだったんだ?」

学校への説明は上手くいっただろうか?

「あ、うん。大丈夫、クラスのみんなも理解してくれたみたいだし、安心した」

「そうか、それは良かった」

物わかりのいい奴らなんだな、普通ならふざけたり茶化す奴がいると思うんだが。よくできた生徒たちなのだろう。

「で、どうなんだ? 肝心の体調の方は。禁断症状は現れてないか?」

「今のところそれも大丈夫。元気一杯だよ!」

と、真奈は力こぶを作ってみせる。

「なんだか朝からやけに元気だよな、本当に大丈夫なのか?」

「平気平気、ほら、もういいでしょ? あんまり長い時間一緒にいたら、病気の診断に影響が出るよ。私としてはいつまでもいてくれていいんだけど、きちんとしておかないとね」

「ああ、そうだな。じゃあウチ帰るわ。部活頑張れよ」

「うん、またねお兄ちゃん」


そして学校をで、帰宅する。


「ただいまー」

「あらおかえり、早かったわね?」

リビングに入ると、母さんが家事をしていた。

「ああ、うん。ちょっとな。全校集会があって、そのまま下校になったんだ」

「あらそうなの、じゃあちょっと家事でも手伝ってもらおうかしら?」

「いいぞ、ちょっと待ってて、着替えてくるから」

適当な格好に着替える。私服のセンスなんてないから大抵は目に入った服を着るだけだ。

「戻ったぞ。そういえば、中学校に行ってきたわ」

「え? 真奈には会ってきたの?」

「ああ。次いでに佐久間先生にもあったから少し話をしてきた。もう教員の間では依存症のこと、共有されているみたいだな」

「そうなの……あまりご迷惑をかけないようにしなきゃね」

「だな。まあ、でも、真奈にも無理をさせちゃいけないだろう、もう暫くは様子見をして、もっと症状について詳しいことがわかれば、本格的に治療に入ることもできるだろうし」

「だわね〜、私たちとしては、真奈の伊導に対する気持ちも、元に戻って欲しいとは思うのだけれど……こればっかりは、二人に任せるしかないわね、親からいくら言っても、心の中まで変えることはできないもの……あ、洗濯機が鳴ってるわ! 伊導、ちょっとこっちまで持ってきてくれる?」

「ん、わかった」

そうして数時間ほど、家事を手伝い。

「ただいま〜」

玄関のドアが開き、真奈が帰ってくる声がした。

「おかえりなさい」

「ただいま、お母さん、お兄ちゃん。あれ? お兄ちゃん何してるの?」

「ああ、たまには料理でも手伝おうかなと思って」

「えっ、お兄ちゃんが!?」

「なんだよ、俺だってこれくらいはできるぞ」

と、サラダを作りながらいう。

「今日は色々と手伝ってくれて助かったわ、ありがとうね伊導」

「いいよ、そんな。それよりも真奈、突っ立ってないで早く着替えてきたらどうだ?」

「あ、うん。お兄ちゃんのエプロン姿もいいな〜って思って」

「なんだそりゃ?」

「じゃちょっと行ってくるね!」

そうして真奈は二階へ上がっていく。だがその姿は見た限り、朝とほとんど変わらずやはりテンションは高いままだ。まさかとは思うが、これも何かの症状じゃなかろうな?

「母さん、真奈のやつやっぱちょっと変じゃないか?」

「何がかしら? 確かに少し元気が余っているように見えるけど、三日間ほとんど検査のほかは寝たきりだったからじゃない?」

「そうかなあ?」

それに昨日の夜はそこまではしゃいでいる感じでもなかった。思えば、病院で俺成分を摂取した後に似ている気がするが……やはり、もう一度病院で診てもらった方がいいんじゃなかろうか?

「よいしょっと」

考え事をしながら調理していると、真奈が戻ってきた。そしてリビングやソファに腰を下ろす。

「何かやってるかな」

と、テレビのチャンネルを回し、何かの番組に目を留めた。

「ん? これ……」

「どうした、真奈?」

「いや、これテレビに出てるのって、お兄ちゃんの学校の生徒さんじゃない?」

「ん?」

と、一旦手を止め画面に目を移す。住んでいる地方の客がやっている夕方のニュース番組だ。
そこには、確かに俺の高校の美術部の作品が入賞したというニューズが流れていた。

「本当だ……って。折原さん?」

「え? お兄ちゃん、知り合い? 美術部の人と?」

「美術部……そうか、折原さんって美術部だったのか」

彼女とはそこまで突っ込んだ話をしているわけではなく、主に世間話が主題のため、彼女の生活についてあまり知る機会はなかった。
まさか、折原さんが正に妹が狙っている高校の美術部員だったとは。

「へえ〜美人さんだね〜……まさか、この人と付き合っていたり!?」

なぜか驚愕の表情を浮かべる妹。

「えっ、伊導、お母さんそんな話聞いてないけど!?」

次いで母さんも。

「はあ!? 違う違う、そんなんじゃないって。ただの知り合い、隣のクラスってだけだよ」

俺は慌てて否定する。なぜ急にそういう発想をするのか。実は俺の妹って恋愛脳なのか?

「えー、ほんとー? 怪しいなあ〜」

「いやいや、なんで疑うんだよ。別に好きでもなんでもないし、向こうも同じだろ。好きなひといるらしいしな」

「なんだそうなんだ、じゃあ安心だねっ」

と、妹は笑顔を浮かべる。

「お前なあ……何度も言うが、お前と付き合うかはないし、むしろ諦めて欲しいんだからな? わかっているんだろうな」

「しーりーまーせーんー」

と、真奈は足をバタバタさせながら受け答えをする。

「全く……」

と、調理に戻り、母さんとともに頑張って作った結果ようやく夕食ができた。

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