俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第259話


「っというわけで……姫様とはいえ手加減しねえぞコラァ!!」

「ひゃっ!」

その残った一人は、槍使い。どうやら私と同じ魔法付与系統が得意なようですね。

「おお? うまい具合に避けんじゃねえか? だがな……『戦技科』のマグダ様といえばこの俺様のことだよ!!」

「バリアっ! きゃあっ」

今度はとっさに魔法障壁を張ります。しかし、俺っ娘マグダさんの一突きは結構な威力で、炎の魔法が付与された槍によって障壁が破られてしまいます。慌てて地面に倒れ伏すようにして回避しますが、肩を少しかすってしまいました。

ーーーーちなみに、この大会では基本いわゆる真剣ベースとなっています。ですが怪我の心配はありません。何故ならばこの障壁の中は幻惑魔法に近いものが充満しており、身体につけられた傷を外に出た瞬間偽物だと認識するようになっているからです。私も詳しい仕組みは知りませんが、とにかく遠慮することなく相手を攻撃できるということです。
さらには国を挙げて集めた腕利きの治療師も待機しているため、万が一があっても生徒に後遺症が残るようなことはありません。

「いっ……!」

しかし当たり前ですが、あくまでも"無かったこと"になるのは怪我の有無だけ。当然戦闘中の痛みは普通に感じますし、場合によっては意識を失うことだってあり得るのです。

とにかく勝てばいいという武闘大会。上に行けば行くほど観客の求めるあれやこれやが増えては行きますが、このような一年生のしかも一回戦に魅せる戦い方を求める人などそうそういません。

「よそ見は致命傷だぜ?!」

「ひっ」

ザクリ。と、地面に槍が突き刺さります。外したのでしょうか?

いいえ、違います!

「オラあぁ!」

ドオオオオン、と耳をつんざく爆音が鳴り響きます。なんと、槍に蓄えられた炎が爆ぜ地面ごと吹き飛ばしながら私に襲い掛かったのです!



ーーーーもう、ダメっっっ……!!



「これで俺様が一番ーーなにっ?」

「かと思いましたか?」

「おいおい、あの爆発の中で生き残りやがったのか!? なかなかの自信策だったのによお……!」

「貴女には申し訳ありませんが。ここで負けるわけには参りません。何故ならば、私はある方とある約束をしているからです! 反故にすることはできないのですから!」







ーーーー数日前。王都オーネにて。

「エン姉様、頑張ってくださいね!」

「ええ、もちろんです。できるところまでは行くつもりですよ」

「そうじゃなくて、優勝とか!」

「ええっ?! いえいえ、高望みをし過ぎてもいけません。程よいところを目指す、それが私には一番合っているとこの前思ったのですから」

今日は休日。少し王城に用事があったので初めての外出届を出し、"我が家"へと帰ってきています。そしてそこでベルが会いたいというので、ついでに顔を見せに来ているわけですね。



自分にあっているのは程よい向上心を持つこと。考え過ぎて緊張してしまっては元も子もありません。そもそもこのエンデリシェ=メーン=ファストリアの人生を歩むようになってから、前世の優等生な私ではなくありのまま、考えたままに生きようと決心しているのですから。
立場に人は流されるとは言いますが、以前までの私は今世でもそうなってしまっていました。この武闘大会をきっかけに、もう一度、赴くままに生きてみようと思うのです。



「ぶー、お姉様ならきっと素で良いところまで行けると思うのに……頑張ったら特別招待客と戦うことができるんでしょ? 何せあの……って、これは秘密にしておいた方がいいのかな?」

「え? ベル、知っているのですか?」

「実はちょろっと耳に挟んで。でもネタバラシも良くないから黙っておきます」

王城では日々様々な噂が飛び交っています。その真偽の程は置いておいても、学園を上げて行われる武闘大会についての話題がなされるのはそうおかしなことではないでしょう。
しかし誰なんでしょうか? 焦らされると気になるのは人の常というものですっ。

「ともかくっ! 私もそのうち観に行きますから、きっと残っておいてくださいね?」

「外に出るのですか? 王族として?」

「ですよ? 王位継承権を放棄しているからといって全ての権利が失われているわけではありませんし。私はほら、可愛いじゃないですか。お姉さま達はみーんな綺麗系ですけども、王城内でも違う需要があるということですよ」

確かに、ベルは私たちと母親が違います。そしてその異母の面影が色濃く出ているのがこの目の前にいる八歳の妹なのです。
義母(とでも言いましょうか)はいわゆるモデルのような美人さんである私たちの母上。つまり王妃陛下とは違い、アイドル系の可愛い顔立ちをしています。ぱっちりとした瞳に、人懐っこそうな瞳と口元。そしてトランジスタグラマー気味なスタイルは、見る人によってはロリコンだと思うかもしれません。

そんな母親の影響をモロに受けているのですから、当然ベルも自らがそういう通り庇護欲を誘う外見な訳です。それにしても女の武器は見た目なところがあるのは事実ですが、まさかまだ八歳のこの娘が既にこんな考え方をしているとは……少々大人びていると思いますね。この当時の私なんてただ単にお姫様最高だ〜程度にしか思っていませんでしたしね。

「ともかく観に行きますから! 勝ち残ってくださいね!」

「ええ…………善処します」

「もうお姉様ったら、そんな役人みたいな言葉遣いを!」

「逆に貴女も何故そんな言い回しを知っているのですか?」

「うっ、そ、それは今は関係ありませんっ」

「うーん」

なんだか怪しい感じもしますが。









「ーーーー観に来てくれるベルのためにも、ここで無残に敗退するわけにはいかないのです!」

「へぇ、でも結構な怪我を負っているようだぜ? まだまともに動けるのが不思議なくらいだ」

「想いは人を強くします。貴女にはそういう経験はないのですか?」

「ッチっ……うるせぇな……さっさと消えなぁ!!」

「そうは参りません!」

「なにっ?! んぐえっ?!」

私はまた爆発を起こそうとするマグダさんの目。そこに向かって、手に持っていた得物である矢を突き刺したのです。

「エンチャント!!」

「んぎぎゃあああああっっ……!!!??」

お返しとばかりに。私は、その突き刺した矢尻に対して魔法を付与します。属性は、氷。一瞬にして、相手の首から上全体が凍りつきます。

「地面に槍を突き刺すと当然大きな隙ができます。相手が油断している時や弱っている時ならまだしも、今のようにまだ戦える相手を前にして反撃のチャンスを与えるのは感心しませんね」

正直、賭けではありましたが。数秒前の私に矢を突き刺すという行動に対する戸惑いがあれば、きっと今頃はこちらが行動不能になっていたことでしょう。

「そこまで! 勝者、一年魔法科Aクラス、エンデリシェ!」

審判の合図により、試合は終了。そして、勝者はこの私となったのでした。

          

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