俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第256話


そんなこんなで一ヶ月以上が経ち。いよいよ9月になろうとしている頃。

学園で催される大きな行事のうちの一つが近づいてきます。今日の座学の時間は、そんな行事のための打ち合わせをしています。

「えー、皆さんも既にご存知の通り、この学園には年間に複数の大掛かりな行事が予定されています。学年限定のものから、この中等院九学年全体を巻き込んだもの。さらには王立学園を挙げて行われるものまで様々な形態があります。そして10月頭には、いよいよ入学してからの最初の行事、『学年別武闘大会』が催されるのです」

この一年魔法学科Aクラス担任のスラミューイ先生が、黒板にスラスラと要項を書き連ねていきます。

「『学年別』の冠の通り、この武闘大会……身もふたもない言い方をすれば力比べ大会は各学年の全生徒がランダムにマッチングして行われるブロック&トーナメント方式の大会となっています。各学科各該当クラスーーここではすなわちAクラス六教室となりますがーーごとにブロックを作り、そこから勝ち上がった上位四名決勝トーナメントで対決することとなります」



黒板に書かれた方式はこうです。

・まず各等級(Aクラス、Bクラス・・・)二百七十人ごとに大ブロックを作る
・さらにそこから九十人ずつ三つの小ブロックを作る
・各小ブロックで三人対戦の勝ち上がりトーナメントを二戦行い十人まで参加者を減らす
・大ブロック勝者計三十人に敗者復活の二人を加えたトーナメントで一対一を四人(すなわち大ブロック準決勝)に絞るまで勝ち上がる
・四等級計十六人による学年最終トーナメントを行い勝ち上がった生徒の優勝
・さらにエキシビションとして、各学年の優勝者九人に特別ゲストの三人を加えた十二人でバトルロイヤルを行う

ここまでが全行程となっています。

なお、敗者復活戦は希望者全員によるバトルロイヤル方式なようですね。不安しかないのですが大丈夫なのでしょうか……

ともかく、優勝するためには五次予戦(八人→四人)まで残り、そこからさらに四回勝たなければならないわけですね。九連勝しなければ頂点に立てない、相手は全員同学年とはいえなかなか大変な道のりに思えます。
そこからさらにエキシビションとして先輩方と一斉にバトルをするというのですから、そこも気を抜くことはできません。手を抜いたりすれば、学園内での評判がどうなるかは想像にたやすいでしょうからね。



「なお、エキシビションの特別ゲストは毎年当日まで非公開となっており、参加者も毎年変わっているので我々も予想ができません。知っているのは学園長とごく一部の重役の方々だけですからね。私みたいな一教師には知らされることのない情報なのですから」

スラミューイ先生は自嘲気味に笑みを浮かべます。

「こほん。そういうわけでして、あなた方には今日くじを引いてもらいます。一、二、三、と番号が書いてある紙がありますので、それぞれ十五人ずつに別れるわけですね。では出席番号一番の子からどうぞ!」

そして、一人ずつ、恐る恐る教卓に置かれた黒い箱から小さな紙を取り出していきます。

「はい、エンデリシェさん」

「は、はいっ」

私はエンデリシェ(学園内では身分の貴賎を持ち出させないために原則名前呼びをすることとなっています)……かなり最初の方の番号なので、ドキドキしているうちに名前を呼ばれてしまうことになります。

そして、笑顔で箱を差し出す先生に促され、迷うよりはと手を突っ込み思い切って一枚の紙を取り出しました。

「!!」

「はい、回収しますね。どうぞ先に戻ってください」

「あ、はい……」

番号が書かれた紙はすぐに回収されてしまいます。

「エンデリシェは何番だったんだ?」

もはや定着しつつある自由席に戻り、隣に座るマリネとミナスに訊ねられます。
「二、でした」

「へえ……」

ミナスはあまり表情を変えませんね

「二か! ならば私もそこに行きたいな!」

「えっ? なんでですか!?」

しかしマリネは何故か好戦的な態度を見せてきます。まさか、今から番外戦術を! ……というわけではないことくらい、ここまで二ヶ月以上彼女と同じ部屋で暮らしてきている私にはわかります。

「だって、学年主席と戦えるチャンスなんだ、誰だって手合わせ願いたいものさ。な?」

「えっ? そういうものなのですかっ??」

クラスメイトたちのほとんどが、ウンウンと首を縦に振っています。こ、困りましたねこれは……

「くだらねえ」

しかし、一人。そんなそぶりは全く見せない生徒が。

モルマさんーーそう、あのトライソードとの模擬戦の一番槍を買って出た三人組のリーダーです。そしてそれに加え、私は彼女に少々……いえ、かなり嫌われているようなのです。何故かと言えば、おそらくはですが、モルマさんが私の次。入学次席の立場だからではないでしょうか?

何かにつけてこちらを敵視している様子なのですが、マリネやミナスからは相手にするなと言われていますし、私自身も要らぬ火種を撒き散らす趣味は持ち合わせていませんので穏便に済ますよう反応しないようにしているのです。しかし、そんな私の態度が気にくわないのか、ここのところさらに剣呑な雰囲気を隠そうともしません、本当に困ったものですねこれは。

「エンデリシェ、相手にするなよ」

「分かっています」

「んだと?」

「ちょっとちょっとモルマちゃん、やめときなよっ、行事の準備とはいえ授業中だよ?」

彼女のバディであるという、トライソードと戦ったときにも三人組を組んでいたうちの一人、ラーラさんが落ち着かせようとしています。正直助かりますね、ラーラさんは私のことを嫌ってはいらっしゃらないようで普通に仲良くしてくださるので、こちらに果たして非があるのかは判然としませんがご迷惑をおかけして申し訳なくは思っています。

「ちっ」

モルマさんは先ほどよりもきつい目つきでこちらをギッと睨みつけたあと、視線を前に向けそれ以上突っかかって着ようとはしませんでした。

ーーーーしかしまさかくじ引きの結果であんなことになるとは、この時の私はまだ知る由もなかったのです。





「三かあ」

「二ですね」

「一だ……くそぅ!」

放課後、三人で話をします。当然まず出る話題は例のトーナメントについてですね。というわけで、見事にバラバラになってしまいました。
まあ、いきなり当たってお互いに敵同士となるよりかは、後で戦う方が心の準備もできていいかもしれません。実戦なんてまだまだ経験不足な私たちなのですから、トーナメントを勝ち上がっていくうちに自信をつけておかないといけませんしね。

とは言いましても、まずは各学科のエースが集まったAクラス集団の中であって勝ち残ることが出来るのかという懸念があります。しかし諦めるつもりは全くありません。この学園に入り、さらには主席入学という名誉を得た以上はそれ相応の成果を見せる義務があると思うからです。それに、王族としての名、また個人的にもやるからには勝ちたいという想いも強くありますから。
まだ少し先の話とは言え、自分の手でくじを引くという最初のステップは既に踏み出してしまったわけなのですから、いやがおうにも大会のことを意識してしまいます。

「はあ、まあいいか! エンデリシェもミナスも生き残ったらいいだけだからな!」

「確かにその通りではありますが」

「うん、頑張るっ」

それでもやはり、この三人の中では武闘派なマリネが気合が入っていますね。彼女も武家の血筋としで負けるわけにはいかないと思っているのでしょう。



「ーーおっ、いたいた」



「え? お、お兄様?!」

と、そこに、思わぬ来訪者が現れました。

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