俺の幼馴染が勇者様だった件
第255話
お兄様にあれやこれやと介抱してもらった後、私は自室、つまりは寮の相部屋に戻りました。当然、同じパーティメンバーとしてトライソードのみなさんにあえなくコテンパンにされてしまったマリネとミナスも一緒です。そしていつものように私たちの部屋で女子会を開くこととなりました。
「いやあ、改めて今日は悔しかったな!」
「そうですね。勝てるとは思っていませんでしたが、まさかあんな剣の一撃のみで昏倒してしまうとは思ってもみませんでしたし」
「それだけ、トライソードが名に負けない実力を有していることの表れ。むしろ一年生の私たちがあの技を使わせたことには逆に驚きの声もあったかもしれないよ?」
「あの、ルナミースさんの技ですよね……」
ルナミースさん。トライソードの中では分析及び戦術戦略の任を担っており、冷静沈着かつその立ち振る舞いから女性ファンも多い方らしいですね。前衛というポジション通り、私たち以外のクラスメイトとの戦闘を見ていても反撃は大体彼女から始まっていました。
ですので私たちも気をつけてはいたのですが……
「しかし、あの攻撃は予想外でした。初めて見る技、しかもほとんど一瞬で気絶させられてしまい対応方法も何もあったもんじゃあありませんよね本当」
「エンデリシェもそんな言葉遣いするんだな」
「しますよ? 私をなんだと思っているのですか? 城に囚われた深窓のお姫様ってわけじゃないんですからね」
「ごめんごめん。でもその通りだ。初見であの技の対応は、今の私たちどころかベテランの冒険者パーティでも難しいだろう」
「そうよねえ」
ミナスもしょんぼりした様子で顔を下に向け、小さくため息を吐き出しています。
「んまあ、でもあの技を出させたってことは結構すごいことじゃないのかな」
「「え?」」
しかし、急に顔を上げたミナスは、今度は何かに気が付いた顔でそう言い出します。
「多分、あの技が噂に聞く『ノイズソード』だと思う。ほら、トライソードの三人ってさ、それぞれに切り札となる技を持っているのは知ってるでしょ? 当然一つじゃなくて複数持っているとは思うけど、でもあの低周波音を聞いたとき、もしや! とは一瞬思ったのよね」
「そうなんですか、知りませんでした」
「エンデリシェは彼らの名前を聞いてなんとか理解したくらいの興味しかなかったんだろう」
「その通りです。ですがあれだけお強い方々がいることをよく認識していなかったのは、この学園で魔法を学んでいるものとして恥ずかしい限りでありますよね……」
先輩方、それも世間に多大なる功績を残している立派なパーティなのですから、その存在に興味を持っておくのは当然なのかもしれません。ミーハー、というだけではなく、将来自分もああなりたいという目標として憧れの眼差しを向けている生徒は沢山いるのでしょう。私も、そのような向上心の糧となる人を見つけなければと思うのです。
「そう卑下する必要は全くないと思うけど、でも強い冒険者や戦士の名前を知ることは将来像を固める上でも大事。ただ単に適当に勉強をしていたらいいや、ってなったらこの学園にいる意味がないじゃない。こんな話前にもしたと思うけど、今日改めてそう感じさせられたわ」
ミナスは神妙な顔つきでそう述べます。私だけではなく、己自身にも言い聞かせるように。
「私もこれからもっと頑張らなきゃいけないな! 今日は疲れた、もう寝ようか」
「そうね」
「はい」
そうして女子会ならぬ反省会もほどほどに、ミナスは自分の部屋に。マリネと私は寝床に入る準備をし、そしてベッドに横になって身体を休めさせます。結局午後の授業は受けられなかった上に、医務室のベッドで横になっていたので、今日は戦う以外はずっと寝てしまっていますね。
一応、トライソードのみなさんも気絶させてしまったことを謝られていました……まさか院長室をもう二回も訪れることになるとは。あの部屋は本来学生が訪れることはない部屋なのですから。地球にいた頃でも、校長室なんてまず行く機会はありませんでしたし、そこらへんはこの世界に来ても変わりません。ですので親族とはいえ偉い人の部屋に呼び出されるのは慣れるものではなくやはり相応に緊張するものでした。
しかし、現状最強と謳われるダンジョン冒険者のお三方に頭を下げられるなんて経験、普通の学生なら絶対にしないでしょうね。私的には別に"謝ってもらえて満足だ"などとは思いませんでしたし、むしろ手合わせを願えたのに申し訳なくすら感じています。
「ふう」
「エンデリシェ?」
「あ、すみません、ついため息が」
「いいや、疲れているのだろう? 今日はもう目を瞑って寝たほうがいいんじゃないか」
「ええ、それはわかっているのですが……」
「トライソードか」
「はい」
マリネとも少しずつ同棲期間を経てきつつあるので、こちらの考えていることを察してくれているのを感じ取れます。逆に、私からしても向こうがこちらを気にしてくれているのがひしひしと伝わってきます。
「悔しい? それとも、戦えて興奮している……って性格じゃないか、エンデリシェは」
「そうですね。どちらかといえば前者に近くはありますが……この学園に入る前に想像していた場所よりも、何倍も濃密な時を過ごせるところだなと思いまして」
「ははは、それは間違いない。しかし、これから九年間をここで過ごすんだ。こんなんじゃ野外授業に出かけたときに足元を掬われてしまうぞ?」
「ふふ、そうかもしれませんね。これくらいで驚かされていたら心も身体も持たない、それがこのファストリア王国最高峰の学舎と呼ばれている学園が存在する理由の一つなのかも?」
「うん。そんな場所で置いていかれないようにするためにも、さっさと寝よう、な?」
「はい、お気遣いありがとうございます。マリネもお大事に」
「どうも」
そしてそれ以降、会話をしないように心がけながら目を瞑り続けていると、次第に二人とも夢の世界へと旅立って行きました。
★
「こんばんは、院長」
「久しぶりやなあ、トライソードの皆皆様方?」
「そんな大層な呼び方をなさらないでください先生。私たちは今でもここの生徒であったときのことを片時も忘れたことはありません」
「その喋り方、なんか違和感あるわあ。ステーラ?」
「先生もご存知でしょう? あの人前でも喋り方は私のキャラ付け。強い人間にはそれなりの日常的なインパクトが求められるのです。"力持ち"なだけの人間は探せばこの世の中にはごまんといる。ですがその中の一握りに入るためには、人々に顔と名前を覚えてもらう必要があるのですから」
「まあ確かにその通りかもしれんなぁ。だって、あの真面目ちゃんな優等生だったステーラが今やこんなキャピキャピした天真爛漫なお姉さんになってしもたんやもん」
「真面目ちゃん……確かにあの当時の自分はそうだったかもしれませんが」
「それだけやないで。ルナミース」
「なに?」
「そうそう、その生意気な感じが本来のアンタなはずやろう。なんやねんあの無表情かつ怜悧な雰囲気は?
数年前はそれはもう先生たちも手を焼くほどのやんちゃっ娘やったくせに」
「昔の話だっちゅーの! いちいち持ち出すな先公!」
「あぁ怖っ! …………ただ、唯一変わらんのはノクタル。本当に今も昔も、すべてにおいてモテそうな完璧人間やなあ」
「そんなことはありませんよ先生。今だって修行中の身に変わりはありません。それに今日だって大変驚かされましたから」
「あいつらか?」
「はい、そうです」
「はあ〜本当そうそう! まさかこのアタシがあの技を使うことになるとは思ってなかったし!」
「それだけ、この学園のレベルが高いという証左でしょう」
「なに? ステーラは悔しくないわけっ? あんなひよっこ達に少しとはいえ本気を出させられたこと!」
「それは悔しいに決まっています。ですが、ノクタルのいう通り驚きの方が優っている。将来有望な学生をこんな早くに発見できたのは行幸という他ないでしょう」
「ということは?」
「はい、先生。『野外』の時は是非に私どもに」
「りょーかいりょーかい、了解したで。ほなそういうことでよろしゅうたのんます、トライソードさん」
          
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