俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第254話

(先日は申し訳ございませんでした(ペコリ)ということでお待たせいたしました、最新話の更新です!)




「ファストリア王国の王子、ヴァン殿下とお見受けする」

「お、おう、どうも。俺のことをご存知で?」

「まあな、貴方は色々と有名だ」

「そうなんですか? んまあ、母親のこととかそういう話でしたら否定はしませんが」

「確かに王位継承争いに関するあれやこれやも伝え聞くが、それだけではないはずだ。その身に宿す能力、私の目はごまかされんぞ?」

「そう……ですか、はあ……」

トライソードのリーダー様は、何やら意味深な言い方をする。が、俺的には特に何かを隠しているつもりはないのだが?

「ですがそちらこそ、他国の王太子殿下・・・・・・・・が我が国のダンジョンなんかで油を売っていてもよろしいのですか?」

「その質問にはもう答え飽きたがあえて断言しておこう、よろしいのだ」

「へえ」

それ以上は語るつもりはないと言う雰囲気の彼に俺はそう一言返してから、妹の華奢な身体をゆっくりと持ち上げ背負う。

「ああそうだそうだ、一つその娘に伝えておいてほしいことがあるんだったな」

「なんでしょうか?」

俺は早く彼女を看病してあげたいがため、急かし気味に問いかける。

「今度は是非、サシで手合わせを願いたい、とな」

「???」

今をときめくトライソードのリーダー様が、この学園中等部入りたての妹とサシーーつまりは一対一で模擬戦をやってほしいと言うのか? 一体なんの目的で? まさか、今更鍛錬のためなんてわけじゃあないだろう。ひよっこの一年生を相手にして何が得られると言うのか、それこそダンジョンに潜って魔物たちを相手にしていた方がよっぽど効率的なはずだ。

「何故エンデリシェなのかはわかりませんが……まあ伝えておきますよ、先輩どの。それでは」

俺は彼の横をすれ違いそのまま練習場を後にした。

……その時の俺は、トライソードの残りの二人が不満げな様子でこちらの会話を遠巻きに眺めていたのにはついぞ気がつかなかったのだった。






「うう、ん……?」

「エンデリシェっ、大丈夫か?」

ベッドに寝かせてから一時間ほどして。まるで白雪姫のように美しい姿勢で横になっていた妹が、ゆっくりと目を開けつつ声を漏らす。

「あれ、ヴァンお兄様、どうしてここに? というよりもここは一体?」

「医務室だよ、さっきまでやっていた模擬戦のことは覚えているか?」

「模擬戦……あっ! そうです、私はトライソードの皆様に負けてしまったのでしたね。それで気を失ってしまいここに運ばれたわけですか」

「ああ、でも充分に健闘していたと思う。恥じることはない。実際あれほどまでの連携を入りたての一年生が取れることには驚きだ。あっ、軽かったからお礼は別に大丈夫だぞ」

「えっ!?」

俺が余計な一言を付け足すと、エンデリシェは顔を赤らめ、布団で顔の目の辺りまでを覆い隠してしまう。

「まさかお兄様が私をここまで……やんっ」

「おい?」

ついには頭まで被ってしまい、その姿が完全に見えなくなってしまう。今眼前にあるのは、モゾモゾと動く布団と一体化した物体のみだ。

「せっかくの機会でしたのに気を失っていただなんて私のバカバカバカっっ」

「え、なんだって??」

何やら小さな声でモゴモゴと叫んでいる? ようだが、布団によって声が遮られてしまいその内容まではわからない。しかし通常の精神状態ではないのは確かだ。

「それよりもエンデリシェ、まだ疲れているだろう? もう少し休んだらどうだ?」

「うぅ……はあ。そうですね」

ポコっ、と顔だけ布団から覗かせ亀のような姿になる十歳の妹様は、一時的に失神していたのに加え短時間ではあるが激しい戦闘を行なっている。もう少しここで寝かせてもらっても誰も文句は言わないはずだ。

「ともかくもう少し安静にしておいてくれ。俺は他の二人の様子を見てきてあげるからさ」

「はい、ありがとうございます。果たしてマリネとミナスは大丈夫なのでしょうか」

「先生達が頑張って運んだから、今この医務室の別室に寝かされているんだ、きっと無事さ」

「……あの、お兄様はもしかしてなのですが、その口ぶりですとずっと私につきっきりだったのでしょうか……?」

「ん? そうだが?」

あの二人が運び込まれたことだけは知っているが、その後はずっと彼女の様子を眺めていた。なので俺が二人の様子をまだ知らないような言い方をしたために気になったのだろう。

「そ、そんなっ、恥ずかしいにも余りありますっっ!」

「急に何を怒っているんだよ? よくわからん」

今度はかろうじて顔が見えるくらいに布団を被り、巣に隠れる小動物のようになってしまう。怒っているその姿も、身内贔屓ながら可愛いと思ってしまうな。まあ一番は当然ベルなわけだが? だから今度会った時にはエスパーじみた糾弾はよしてもらえませんかねベル様……

「乙女には、乙女の事情というものがあるんです!!」

「そ、そうか、うん、なんか悪かったよ、ごめん」

「いえ……ですが、とりあえずあの二人のことをよろしくお願いします。私はヴァンお兄様の言いつけ通りにおとなしく横になろうと思いますので」

「おう、そうしとけそうしとけ。んじゃ見てくるわ」

「はい、また後で」

エンデリシェを再び仰向けに寝かせつけた後、俺は一目笑顔を見せると、扉続きになっている別部屋を除く。

「あら、ヴァンくん。もう入学主席ちゃんの具合は大丈夫なのかしら? 『俺が面倒見るんで大丈夫!』って言っていたはずだけれど?」

ウフフフ、と人の悪い笑みを浮かべるのは、この部屋の主人ーーつまりは医務室の責任者である、保険医のモヨギ先生だ。黒髪に目尻が下がったおっとり目、そして何よりもその豊満にも程がある大きな胸が主に男子生徒から絶賛大人気な方だ。母性溢れるのは見た目だけではなくその性格もであり、わざと怪我をして介抱してもらおうとする生徒まで出る始末。恐ろしき魔性である。



……しかしそれは表の・・性格、俺の前では裏の・・性格ーーーーつまりは本性のまま話をしてくるのだ。

マザーテレサも顔負けか、と思われるその性格は実は、猫を被りさらにコスプレをした上でその上から着ぐるみを被ったくらいの、ぷりっぷりなエビも尻尾を巻いて逃げるであろう超表向きな『作られたモヨギさん』であるのだ。そんな彼女の本性といえば、真反対も真反対、他人をおちょくるのが大好きな"良い性格"をしているわけだ。



「はい、先ほど目を覚まして、記憶も確かで話し方も明瞭だったので特に内部的なダメージは大きくないかと。ただもう少し安静にさせていただけたら助かります」

「はいはい、了解よ。でも貴方が送り狼にならないくらいの時間には出て行ってもらうわよ」

「そんなことしませんっっ! 妹ですよ妹、血の繋がった兄妹なんですから?!」

「あらあら、そんなに真っ向から否定して、逆に怪しいんじゃないかしら?」

「うぐ、いや、そういうことでなくてですねぇ……! 否定するのは当たり前でしょう、俺にも男の尊厳というものがあるんですから!」

「あー、はいはい、そうね。ドーテーくんにそんな度胸あるわけなかったか」

「先生さっきからなんなんですか本当っ!?」

「別に? ただ私は可愛い可愛い後輩くんを可愛がってあげようというだけよ」

モヨギ先生はこの学園のOG、年齢は俺のちょうど倍の三十二歳だ。しかし独身であり、今は彼氏もいないという。なおこの情報は聞いてもいないのにペラペラとこの人が俺に勝手に教えてきたものである。

「まあそれはともかく」

「いや勝手に流さないでくださいっ!」

「まあそれはともかく」

「……もういいです」

「ともかく。あの二人も無事よ。しかし、一年生の、それも入りたての彼女らがいきなりあのトライソードと模擬戦をして、しかもルナミースのあの技を使わせるだなんてなかなかやるじゃないの」

「え?」

「あら、知らなかったのね。んじゃあお姉さんが手・取・り・足・取・り♡、教えてあげましょうか?」

モヨギさんはそのタイトなミニスカートの奥を見せつけるように足を組み替えて、さらにわざとらしく前屈みになる。いつの間にかボタンがいくつか開いていたよく仕立てられた白いシャツからは、その保護対象であるはずの中にある肌色の物体が半分ほど見えてしまっている。

「いいいいえ、遠慮しておきます! それじゃ確認だけして行きますんで!!」

俺はこれ以上の被害に遭わないようそそくさと二人の様子を確認しさっさと退室した後、隣のエンデリシェの部屋に戻って状況を伝えに戻ったのだった。なお『お兄様、やたらと顔が赤いのは何故なのですか?』と怖い目で問い詰められてしまったのだが、何故あんなに怒っていたのだろうか?



「……ふぅ、ヴァンくんも本当に可愛い子。はやく食べてみたいわあ……♡」

          

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