俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第249話


さて、いざ射撃場に出てみると。楕円形の、陸上競技場のような形をしているそこは至るところに既に的らしきものが整然と配置されていました。そしてそのちょうど中央付近には地面に座る男子生徒や女子生徒と、それに先生と思わしき大人の男女が二人立っています。私たちは先ほどのイチャイチャによって少し時間を消費してしまったため出遅れたようですね、ですが集合時間にはきちんと間に合っています。

「よーし、これで全員揃ったな! 時間ぴったりだ、弓の選択授業を始めるぞ。さて、入学したばかりの君たちに朝の一発目から実習は大変かもしれないが、しかしそれがこの学園のカリキュラムだ。昼間からやると眠くなって集中力を削がれ、怪我をする生徒も出てくる。また逆に、座学の授業においてはその眠気に打ち勝つという試練が与えられるわけだ。あ、後半は一応冗談だからな? 寝たら減点されるから気を付けろよ!」

ハッハッハ、と高らかに笑う長身の褐色の男性。左胸には私たちと同じく己を紹介するプレートが見られます。遠目で確認したところ、やはり私たちの弓矢の指導教諭なようですね。

「さて、そろそろ自己紹介をしようか。先週は選択授業がなかったので、俺たちのことは今日が初見となろう。俺の名前はサンクス。こっちはデイリー。男子生徒は俺、女子生徒はこいつが面倒を見るからな! それと、合同で授業を行うこともあるので気になる奴がいたらアピールするチャンスだぞ?」

と、おふざけで言ってのけるサンクス先生に対して少しばかりの笑い声が漏れます。見た目同様陽気な先生ですね。

「紹介に預かりました、デイリーです。私はこの学園に勤め始めたのが去年からですので、まだまだ貴方達同様に新入りの人間です。しかしこうして貴方達の指導を受け持ったからには、誠心誠意お教えいたしますのでどうぞよろしくお願いします」

一方のデイリー先生は、白い肌に似合う金色の髪を後ろでふんわりと括っています。雰囲気的には、出会ったばかりの頃のミナスと似ていますね。それによく見てみますと、耳がとんがっているように思えるのですが……もしかして。

「そうそう、もう一つ。彼女はいわゆるアゥルヴ族の生まれだ。知っての通り、我が国は近年東大陸との交流を積極的に図ろうとしている。そしてその交流の一環として、彼女を学園中等院の実技講師として招き入れたわけだな。わかっているとは思うが、心ない言葉をかける等の差別は一切禁止だ。もし見かけたら、その時点で問答無用の懲罰だからな? ちなみにこれは王命だ」

一瞬ざわり、とし生徒達が顔を見合わせます。



ーーーーアゥルヴ族はこの世界の東、それに西の大陸を領土とする異人種と呼ばれる者達の中の一種です。とんがった耳、それに輝く太陽のような金色の髪、そして透き通る清流の水を思わせる白い肌が特徴的な種族です。

異人種は見た目も行動も、知能も人間に劣ることなく、それどころか技術によっては人間を遥かに凌ぐものを保有している族も存在するくらいです。我が王国はその異人種と交流を図ることにより、国力の増強及び人類と異人種の融和をなそうと近年の陛下の目玉政策として力を入れているのです。
そして彼女が、アゥルヴ族と異種間交流を持つ上での試金石となりうるのでしょう。アゥルヴ族は基本人間に対しあまりいい印象を抱いていないと聞きます。しかし彼女の態度を見る限り、比較的融和な者を推薦してもらったようですね。
"人嫌い"のアゥルヴ族側に人間と交流してどのようなメリットが存在するかは私にはわかりませんが、こうして学園に所属している以上、それなりの何かを得ようとしているのは確かです。



「知っての通り、選択授業はクラスではなく学年ごとに指導を行う。俺たち二人で六学科を見なければいけないからなかなか大変なわけだが、その上で何か指導の中で見落とすことがあるやもしれん。志高い諸君らに申し訳なくは思うが、一度に全員に目を配りながら教え続けるのにも限度があるのでな。その時は遠慮なしに声をかけ、わからないことがあれば周りに助けを求める、そういう姿勢を持つことも大切だということは心がけておいてくれ。人に頼み事をする、という行為は時にプライドを捨てる必要がある。しかしこの学園では全員平等の精神がモットーであり不文律だ、相手の出生に関係なくお互いに切磋琢磨できるような関係になってくれることを期待している」

この選択授業では各学科の各階級計六教室分の男女生徒が集います。パッと見たところ、比率的には男女が3:7と女子生徒の方が圧倒的に多いように思えますね。やはり弓という武器の特性上、むしろ剣や格闘などの近接距離攻撃に男子生徒が流れているようです。逆に女子は遠距離から攻撃できるここや長物に多いのでしょうね。

「では、いつまでも話をしていてもつまらんだろう、まずは肝腎要の弓の取り扱いからーーーー」











「調律神。何事もなくトントンと進んでいるように見えるけど、これも君の計画の範囲内かい?」

「物事は焦っても何も成し遂げられませんぞ、我が主人様。その時が来るのを座して待つ。心を穏やかに、凪く水面のように」

「なるほどねぇ……だが、内心焦っているのはどちらの方なのかな?」

「ふふっ、揺さぶりですかな? ワシにそのようなものは通用しませんぞ。全て、順調に進んでおります。故に主人様はそこでごゆるりとおくつろぎ下さい」

「寛げといっても、こんな魂を拘束された状態じゃ窮屈で仕方がないんだけど……少しくらい自由にさせてもらえないものかなあ」

「それはなりませぬ。少しでも油断してしまえば、たちまちにこの計画は崩壊するでしょう。もはや世界の理すらも限界にきてしまっている。このワシの魂が擦り切れ消滅してしまう前に、どうしても成し遂げなければなりませんからな」

「君は…………どうして」

「はい?」

「どうしてそこまでして、"繰り返す"んだ? すでに八八七回も失敗してしまっている。わかっているだろう、どんな手を下したところで、世界というものはある一点に収束してしまうのだと」

「そうかもしれませんな」

「ならば!」

「ですが」

「なにっ?」

「それでも諦めきれないのですよ。あの魂には確実に、改変をしてくれる力が宿っていると。そのツボがうまく見つけられないだけであって、すでに最初から成すべきことは決まっておったのですからな」

「君は、小さな小さな穴に糸を通すような気の遠くなる作業を繰り返してきた。それが、この世界のためだということも理解はしているつもりだよ? でもね、時には手を休めることも必要だと、ボクは思うんだけどなあ」

「詭弁ですな。このサイクルを一度でも止めて仕舞えば、もう二度と修正する機会は与えられないでしょう。唸りを上げる渦はモノが海中に沈むのを引き留めてもおるのです。たとえどれほど激しく困難なことだとしても、この渦を止めようという気はさらさらありませんじゃ」

「そうかい、そう、そうなのかい……君は全く、困った子だよ」

「フフフ、我が主人様。父神。貴方様も、困ったお人です。何故ならば、こうしてすでに抜け出してしまっているではありませんか」

「バレてしまったかぁ。ならば仕方ないね。調律神ーー覚悟するんだ!!」

          

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