俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第243話


ーーーー神界・とある場所???

「調律神、こんなことをして意味があると思っているのかい?」

「はて、ワシは私の理想を追い求めているまで」

「だが、僕を拘束したところで世界は定められた通りに動き続ける。たとえ歯車を外したとしても、新しい歯車が嵌るか、隙間が自然と埋まったいくだけ。君の行為は全く持って無駄だとしか言いようがないが」

「いいえ、ワシにはわかるのです。ある地点を境に世界を違う方向へ導くことができると。まずは、そこまで様子見ですな」

「そこまでして……あの少年と少女たちにこだわるのは何故なんだ。彼らに一体何があるというんだい」

「それは、今はまだ申せませぬ。たとえ我が父神といえども」

「後悔するよ。君のやり方は誰がどう見ても間違っている。間違った方法で変わるほど、世界の修正力と強制力というものは弱い力じゃないんだ」

「いやはや、これ以上お話を続けていても円孔方木。父神はそこで眺めていなされ」

「ま、待つんだ! マキナーーーー」










「いよいよ今日からですね……!」

「おはようございます、姫様」

「おはよう、マリネ。それと姫様はやめてって言ってるでしょ? この学園内では皆身分を持ち出すのは禁止されているのだから。たとえ王族だろうと、貴女みたいに国家元首の娘だろうと、ここの敷地内では机を並べ勉学に励む仲間なのだから」

「そうですが……どうも、エンデリシェを見ているとついつい敬いの心が沸き立ってしまうんだ。こう、神聖な神様を前にしているような」

「なにそれ? やめてよね、私はただの人間っ。それに神様というならば、ドルガ様がいらっしゃるじゃない? 女神様に失礼よ」

「そうだな、この国ではそうだったな」

ここ王立学園の学生寮は男女別。さらに各部屋に『バディ』と呼ばれる相室者が存在します。この風習も例の女勇者様にあやかったもので、お互いに支え合う中で人間性を高めよという方針のもとの施作です。
私の場合は、このマリネ=ワイス=アンダネトさん。同じく十歳で、ポーソリアル共和国という遠くにある国からやってきた留学生なのです。金髪をショートに切りそろえ、凛々しい顔立ちで口調も含めハッキリとモノをいうタイプ。胸や尻はそこまで大きくなく中性的な雰囲気を醸し出しているため、男子だけではなく女子にも人気の娘です。

そして、同じ国家元首の娘であり、さらに不思議と出会ってすぐに気が合ったことから、まだ共に暮らし始めて一週間ちょっとーーーー因みに一ヶ月は『七日X四週の二十八日』、一年で『十三ヶ月分』存在します。六月と七月の間には中月なかつきと呼ばれる年度替わりの時期に当たる二十八日間が挟まれているためーーーーではありますが既に昔からの親友のような関係になれました。
入寮したのは試験が終わってしばらくたった中月の終わり頃。そのほとんどが部屋の整理や入学前の準備で終わってしまいました。

そして今日、七月の一日がこの世界での年度初日、さらに王立学園の入学式および新年度にも当たります。

「ともかく、早く行かないと。一度クラスに集合だから遅れたらみんなに迷惑をかけるわよ?」

「ああ、そうだな。行こうか」

今一度制服がバッチリと決まっていることを確認した私たちは、学科別に別れているクラスに向かいます。
学園はそこそこな広さがあり、さらに中等などの学制段階ごとに敷地が分かれています。しかし分かれていると言っても壁で遮られているわけではなく、各等級の学生が利用しやすいようにただ単に同じ区画に建物が密集しているということですが。また等級に関係なく利用できる施設も複数存在しておりそこでは幅のある年齢層の方々が日夜詰めているのです。

その中の一つ、中等生用の大ホール。ここでは入学生及び関係者による入学式が行われます。しかしその前にクラスで一度出席をとるため振り分けられたクラスの確認をしに行きます。学園では一日にならないと自分がどのクラスに配属されたかを知ることができません。ここは日本にいた頃と変わりませんね。

「ほう、よかったな、エンデリシェ!」

「はい、流石はマリネです」

「いや、君の方こそ。それにその言い方だと同じクラスになった自分を自画自賛しているように聴こえるぞ?」

「え? そうでしょうか」

人混みをかき分け、大きな張り紙を確認します。メイドなどを使わないのは、この学園内は自分のことは自分でというモットーのようなものがあるからです。一応、ミレーラ含め各学生のお付きや護衛は学園内の一施設に留まることができますが、それはよっぽどの場合のみ主人に会うための待合所のようなところ。学生はこの敷地に足を踏み入れ寮生活を始めるともう頼るものは自分一人となるのです。
もちろん、友人を作ればまた別ですが。むしろそのためにバディ制度が取られていると言っても過言ではありません。支え合うことの大切さ、人をアゴで使うだけが貴族・上流階級ではないということを身をもって体感するわけです。

話が長くなりましたね。私たちのクラスは、と言いますと…………Aクラスでした! 各学科の最上位にあたる振り分け先です。

「それでは行きましょう、いつまでもここにいると人酔いをしてしまいそうですし」

「そうだな、でもなんでそんなに敬語なんだ?」

「あっ、人前だとつい……そうね、敬語はやめましょう」

「うんうん、エンデリシェがそんなかしこまっていると、他の貴族たちもいつまで経っても場慣れしないだろう? 姫様が率先して同等な立場、という学園精神を体現しなきゃ」

「ええ、わかっているわ」

王族は入学するたびに、その学年のリーダーのように見られるのが常です。お兄様もお姉様も皆通ってきた道です。そして学園の側もまた、それを望んでいる。求められる側も貴族を前面に押し出そうとする者たちを態度で牽制し、模範となる行動を見せることによって責任感を養っていけという趣旨です。
この国は王政。歴代陛下から爵位を授された貴族により地方自治が執られてはいますが、やはり国の中心にあるのは私たち王族。国体を維持するためにも若い時からリーダーシップを発揮することが求められるのは当然といえましょう。そうでなければ、わざわざ貴族たちを集めて王立学園なんてを作る必要はないのですから。

トコトコ、と一定のペースで教室棟内にある我がクラスに向かいます。あちらこちらから視線を感じますが、流石と言ったところでしょう、マリネには動じる様子は見られません。むしろ私の方が王宮に篭っていた分まだ人見知り体質が治りきっていません……まだ一週間なのですから、多目に見てもらいたいと思うのはワガママでしょうか?

「着きました……着いたわ」

「あ、ああ」

流石のマリネも、緊張しているようです。寮に入ってからも隣の部屋の者とすらほぼ話をしなかったくらいですから、このドキドキは入学生全員が共有しているものでしょう。

「おはようございます」

「おはよう諸君」

「「「「!!」」」」

引き戸をガラガラと開けるとーー視線が一気にこちらに向かいます。見たところほとんどの生徒が既に集まっているようでした。そんなに遅くしたつもりは無かったのですが、優等生ならではなのか、それともみんなただ単に後から入るのが嫌だったのか。

「ええと、席は自由だったわよね?」

「ああ。あそこでいいんじゃないか?」

「えっ? う、うん」

マリネが指を刺したのは、三列づつ段々に計五行になっている机(一クラス四十五人ですね)の、ちょうど三行目。つまりは真ん中も真ん中の席でした。そこだけポッカリと空いていて、最初から私達の分が用意されていたようにも見えます。

視線を浴びつつ、その席に座ります。三人がけのマリネが左、私が真ん中、右が空席となりました。ということは当然、もう一人誰か隣に座るということです。今更席を変わってとも言い辛く、せめて変な方でないことを祈るばかりです。




ーーガラガラッ



そして、私たちが席に着くと同時に、教室の扉が開けられ、最後の一人でしょう生徒が入室してきました。

          

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