俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第172話


「くそっ、やはり無理なのか? どうしてなんだ……!」

その後も隙を見つけては『浄化の光』をぶっ刺したものの、やはり効果は見られなかった。というよりも、俺自身も手応えがなかったので薄々わかっていた。しかし現状、彼女を必要以上に傷つけずに元に戻すには、コレしかない。他の方法を探すにも魔物になった人間を元に戻すなんて聞いたことがない。

「ヴァン、大丈夫?」

「な、なんとかな」

王国軍も魔物の死体やらの後片付けを済ませ、こちらに参戦している。ドラゴンズもずっと出ずっぱりなので適度に休憩を取らせなければならないし、そのためにはかわりに隙を作ってくれる戦略が必要だからだ。

「アルテ、どうして元に戻ってくれないの……!」

ベルも結局戻ってきて兵士たちに混じって士気をあげつつ暴走アルテさんの牽制をしているが、やはり身内だからだろう、その焦り具合は俺たちよりも一段と高い。何度も退避するように言いはしたが、最後まで見届けるの一点張りで融通が効かない状態なのでやむなくこの場にいることを受け入れることにしたのだ。もしかするとわざと遠ざけようとしたことを感づかれたのかもしれない。

「せっかく出会えたと思ったのに、どうしてこうなってしまうの? ヴァンとの時も忙しなかったのに、わたしって呪われているのかしら!?」

「何バカなこと言ってんだ、諦めたらそこで終わりだぞ!」

「わかってるわよ、だからこうして一生懸命元のアルテに戻れるようしてるんでしょ。それよりもどこでもいいから光を刺して、手応えがあったら教えてよ?」

「ああ、任せておけって」

ベルは怒ったら口調が刺々しくなる傾向にあるが、その原因が親しい人であるほど尚更だ。彼女も、俺に託すしかないと分かっているからこそ叱咤しているのだ。けっして尻に敷かれているわけではないぞ?





「ううん、やっぱりダメだ、くそぅ」

ステータスは余るほどの数値なので、ぶっちゃけ殺してしまうのは簡単なのだ。戦ってみたところ、あの犬やスラミューイのように切っても切っても復活する、なんてことはないし。普通の魔物や魔族と同じく本腰入れて攻撃し続ければいつかは死ぬ。ただそれができないのは当然、ベルの大切な人の一人だからであり、俺としても見知った方だからだ。
要は不要な情を戦いに持ち込んでいるからなのだが、俺もベルもこれを切って捨てるほどドライな性格ではない。



「!! これはどういうことなんだ!? ベル、ヴァン、大丈夫か!」



お? 聞き覚えのある大きな声が聞こえてきたぞ?

「ジャステイズさん、待ってください」

「先走るのは危険なのである!」

「ちょ、ちょっと置いてかないでよ」

「何やら大変なご様子ですねぇ」

そう、勇者パーティの仲間たちである。

「みんな、どうしてここに?!」

ベルが一度後退し、四人のいる場所へ向かう。
空から見える限り、そこには彼ら彼女らの他にも数千人に上る軍団がいるのがわかる。

「細かい話は後でだけど、王都が魔物たちに襲われているって伝令が入ったから、急いでこっちに向かってきたのよ。私たちはとりあえずの先槍で来て、ファストリアの国王陛下達は後から合流するわ」

なるほど、そうなのか。

「グアード! あの軍をまとめて王国軍を再編成できるか!」

「もちろんだ、任せておけ!」

一瞬俺も退避して、元帥に指示を出す。



グアードはあの指揮官魔族による復讐の数少ない生き残りで、殆ど無傷で助かったためベルが呼びに行った増援の指揮を取っているのだ。側近二人も助かりはしたが、結構な傷を負ったらしく今は治療中なのだという。
その場にいた他の将校や官僚は殆ど全てが死んでしまい、かなりの大惨事らしいが。この話も簡潔にしか聴けていないので細かい被害がどうなっているかはまだ知らない。
どちらにせよ、グアードが指揮を取る余裕くらいは残っているようだ。



そして彼は俺の戦っている後方。丁度南側へと向かう。俺が意識を取り戻してからは最初は東側で戦闘をしていたはずだが、いつのまにかこっちまで移動してきてしまっていたようだ。だから丁度、ジャステイズ達が戻ってくるところに出会したわけだな。

「それで魔物達はどうなったんだ? というかあの女性? は一体……まさか、ヴァンでも手こずるような魔族なのか!?」

ジャステイズがみんなを代表するように驚く。そうか、みんなアルテさんのこと知らないもんな。会ったこともないはずだ。

「魔族たちはもう俺たちで片付けた。少し遅かったようだな。あとは詳しい説明をしている暇はないけど、あの女性は少なくとも魔族ではない。あの人はベルの親しい使用人で、どういうわけか今は正気を失って暴走状態なんだよ」

俺はグアードの次にみんなのところに向かって軽く話をする。

「なに? もう倒してしまったのか」

「やっぱりあの騎士、伝令だったのね。だから引き止めようって言ったじゃないの」

エメディアが怒りだす。

「し、しかたないだろう。僕たちも急いでいたんだから。それにここで話を聞けたのだからいいじゃないか? 引き留めたらその分、レオナルド陛下達に伝えるのが遅くなるってことなんだから。為政者にとって情報というのはとても大切な政財なんだ」

「むぅ」

二人の言い合いを見ていると、既視感を覚えるな……将来の様子がなんとなく察せられるぞ。

「こ、こほん。すまない。それで、そのアルテさんには呪いなんかの力が関係していたりは?」

彼は恐らく自分がそうなったときのことを思い出しているのだろう。が、残念ながら外れだ。

「ないみたいだ。一応神官に急いで分析してもらったが、それらしき魔術等の気配は全く感じられなかったのだと」

「そうなのね……じゃ、じゃあヴァンの『浄化の光』はどうなの?」

続いてエメディアが訊ねてくるが。

「そのことなんだが……いくら刺しても全く通用しないんだよ。だから魔族なんかが操っていたり、あのスラミューイの時のように擬態しているわけでも無いみたいなんだ」

「ええっ、じゃあどのようにして元に戻すおつもりなのですか? まさかヴァンさんのあの光すら通用しないだなんて……」

ミュリーが驚きを強くする。高位の神官であるから尚更、聖魔法と同じような力を持つ俺の能力が通用しないことにびっくりしているのだろう。

「それがわからないから困っているんでしょうね。ですよね?」

「ああ。でも殺してしまうのも……」

「だが、情を取るか実を取るか、いい加減決めるべきである。兵士たちも傷ついているのが見てわかる故に」

「確かにそれはそうだが」

デンネルの言う通り、"アルテさん"を助ける道を選ぶか。それとも"敵"を討伐する道に進むか。そろそろ限界だろう。兵士たちだけではなく、ルビちゃん達だってもうかなり消耗してしまっているし。



「ガアッ!?」



「「「「!!??」」」

考え込んでいると、突然、叫び声が聞こえてきた。振り向くと、アルテさんが苦しんでいるのがわかる。

「な、なんだ?」

「ヤメ、ロ! ワタシカラ、デテ、イケ……!」

「アルテっ!」

「おい、ベル!」

ベルが暴走アルテに近づこうとするので、慌てて止めに入る。

「べ、ベル、サマ?」

「えっ」

「アルテ? 私のことがわかるの?!」

「ア、アタリ、マエ、ジャナイ、デス、カ。ソレヨリモモモモモモガアアァァッ!」

「ちょっと、大丈夫なの!?」

「ベル、離れるんだ、危険だ!」

彼女の体を押さえ、引き離そうとする。

「でもっ」

だが言うことを聞いてくれない。どうも周りが見えていないようだ、これはかなりキツイな。気絶させるか?

と、暴走アルテ--アルテさんの苦しみ方が激しくなる。

そして、突然、姿形が変わり始めた。


          

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