俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第169話


「ヴァン! どうだった?!」

「ベル。うん、ひとまず俺たちは遊軍として好きにやってくれってさそっちは?」

「まだまだって感じ。思ったよりもずっと数が多くて、いくら攻撃しても全然減らないのよ。王都は魔王軍残党にとってかなり大きな意味を持つ街のようね。というよりも、私が生まれたファストリアだから滅ぼそうと中枢を狙っているのかしら?」

「敵の思惑はまだわからないが、それもあの捉えた魔族への尋問で多少は判明するだろうな。最も、まずは俺たちの勝利で納めることが絶対条件ではあるが」

「その通りね。だったら尚更、もっと攻勢を仕掛けないと」

「ならば、私ももっと暴れさせていただきますね」

「え?」

空を飛ぶ俺にパライバくんごと近づいてきたベルとアルテさんと話をしていると、アルテさんが急にそんなことを言い始め、続いて魔力を溜め込むのを感じる。

「あの、なにを?」

「これ、一度使ってみたかったんですよね〜」

「あの、本当になにをってうぇえええ!?」

「はあああっ!!!」

「あ、アルテしゅごい!?」

パライバくん--パラドラの、背中で立ち上がった彼女は、スカートの裾をたくし上げ太腿あたりでギュッと結んだ後、掌に掌を重ねるようなポーズを胸のあたりで取る。
そしてそのまま頭の上まで持っていくと、そこに眩いばかりの膨大な光を溜め込み始め、一メートルほどの球になったかと思うと。そこから触手が伸びるように光の柱が楕円形を描きながら地上に降り注いだのだ!

まるで、光の隕石のように、それか打ち上がった花火が散り散りになるかのように、太く長い光の線が三百六十度無尽に降り注ぐ。そして空中や地上にいた魔物や魔族に直撃すると、その相手の身体を一瞬にして蒸発させてしまった!

「ああああああァっ! ……ふぅ、少し力み過ぎましたかね?」

「えぇっ、こんなんチートやん……」

「ヴァン、素が出てるよ、素がっ。でも確かに、アルテがここまで出来るだなんて。侯爵領でも結構な活躍をしていたけれど、これは明らかにみんなの想像以上の活躍だわよ?」

「お褒めの言葉を預かり恐悦です。ご覧の通りに、十分の一程度は殲滅できたのではないかと」

「ああ、確かにこりゃ相手からすればたまったもんじゃない被害だろうな。魔物たちに状況を分析する知能があればの話だが」

それでも、魔族の何体かは狼狽している。指揮官を失った状態での半ば特攻に近い強襲だったろうに、純粋な戦力差で勝つつもりだったのがたった数人の兵力でひっくり返されそうなのだから。仮に俺が魔族だったら、翼をもいで人間側に寝返っているだろうな。

「すみませんが、この攻撃には余韻と申しますか、身体にかかる余波がありまして。しばらく休ませていただきます」

「どうぞどうぞ。十分な活躍でしたよ」

汗を拭うアルテさんに、無限倉庫から布と水分を渡してやる。

「あっちょっと、私にも何かちょうだい!」

「え? ああ、じゃあこれで」

急に催促してきたベルにも軽食を差し出してやる。念のため二人分だ。

「むふふ、さんきゅー」

「<ぐぬぬ……! イチャイチャ禁止!>」

「きゃっ」

今度は何故かパラドラが急に叫ぶと、なんの八つ当たりなのか火の球を魔物の軍団に向けて何発も放ち始める。

「こら、パラくん、動くなら先にそう言ってよ!?」

「<ふんっ、きちんと仕事をまっとうしているのに怒るなんておかしなの!>」

「そういう問題じゃないでしょ」

「パライバさんは嫉妬していらっしゃるのですね。ベル様も随分と男タラシに成長なされてしまわれたようで、私悲しゅうございますわ?」

アルテさんが泣き真似をする。嫉妬って、つまりこの行動は好きな女の子が振り向いてくれない故の癇癪ってことかいな? 確かにパライバくんは俺のことをやたらと目の敵にしているが、もう少し落ち着いてほしいものだ。おかしいなあ、最初に聞いた話では、構ってくれる人(竜)も少なく内向的な少年だってことだったはずだが? 何が彼をそこまで掻き立てるのか。一ヶ月一緒に暮らした程度の人間にここまで懸想するなんてあんまり正常な感情とは思えないけどなぁ……

「な、なに言ってんのよ。わかったわよ、私も戦うから!」

「おい、無理するなよ」

残ったパンを口に頬張った彼女は、立ち上がると空から電撃をふらし始める。当然今までとは比べ物にならないほど弱い攻撃にはなってしまっているが、それでもそこらへんの兵士よりは強いためきちんと戦力にはなっているのだ。

「わーわー!」

「ぎゃーぎゃー!」

「おおおおおお!」

ちょっと遠過ぎて具体的な会話は聞こえないが、地上の王国軍も呼応して活を入れたようで動きが激しくなる。弓や魔法、槍などの中遠距離攻撃だけでなく、危険を顧みず身を乗り出して剣で敵をなぎ倒す勇敢な兵士もいる。

「俺たちもそろそろ本気で敵を片付けないと。アルテさんに負けていられないぞ」

「ルビちゃんなんて嬉々として飛び回っているわよ。あの娘、妹の監視がなかったらほんとじゃじゃ馬なのね」

「いいじゃないか。それに、魔族の見張りを任せていたからストレスが溜まっているのかもしれない」

「なるほどね。って、その妹も暴れているわね……」

「ああ、確かに……」

よく見れば竜の姉妹は、好戦的な姉だけではなく、どちらかと言えば冷静な性格であるはずの妹も一緒になって炎を吐いたり、バクバク食べたり、引き裂いたりとやりたい放題だ。
ここまで色んなことがあったから、最終戦だと思って伸び伸びと楽しんでいるのだろう。
イアちゃんも、目に見えないだけで内では結構ストレスを溜め込んでいたのかもしれない。というか姉がアレだから上下が逆転してしまっているからな、心痛も多いのだろう、うん……

「あの二人は放っておいて。俺たちはできるだけ簡易防壁が破壊されないよう気を付けて戦闘をしよう。兵士の消耗を減らさなければだし、それに見知った顔が傷つくのを平気で見てはいられないからな」

「その通りね。最後まで、勇者として人々の安寧を守るのが私の使命でしょうし」

一時期は相当塞ぎ込んでいたように見受けられた彼女も、数ヶ月たった今では少しは気が晴れたのだろうか? 以前のように明るく振る舞うことが多くなってきた。
俺もそれに呼応して、最近のように下手に気を使わずに、彼女の好きなようにさせるようにと考えている。周りが気を使いすぎると、本人も萎縮してしまうだろうし、それにいつまで経っても落ち込んでいるベルを見続けるのは俺としても辛いものがある。
やはり、婚約者として、夫としてはきちんと支えていってあげたいし、そのためには当然、申し訳なくは思うが俺だけではなく向こうの協力も必要になってくる。

「そうだな。俺も、サポートするからさ。勇者様、いっちょ暴れてくだせえや」

「なにその言い方、ふふっ、変なの」

「ふざけてみた、反省していない」

「いやしていないの!? ヴァンったら」

「あはは」

「<聞こえてるよ二人とも! イチャイチャしないでよねっ!?>」

「<全くじゃ。少しは真面目に戦わんかい>」

「<ヴァンさん……あんなに私のことめちゃくちゃに弄ったのに……>」

「え? ヴァン、どういうこと?」

「えっ?」

「えっ?」

最後のイアちゃんの余計な一言で、俺はしばらく魔物と一緒にベルから逃げる羽目になったのであった。







「ふざけるなよ、人間……! 俺様のことを舐めてかかったのが運の尽きだ!」

「ぎゃああああっ!?」






「「「「!?」」」」

突如、大量の叫び声が聞こえたかと思うと、城の方面から何やら複数の物体が打ち上げられ、それが中空で静止すると破裂した。

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