俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第161話


「ねえ、要塞の周りの敵はどうなったの? さっきからやけに静かな気がするけど」

俺が安静にしておきなさいと諭したベルが、ベッドに横になりながら訊ねてくる。

「ああ。そいつらは俺たちが片付けたよ。でもその前に、パライバくんがずっと頑張ってくれていたようだ」

「パラくんが? そういえば、全然姿を見かけないわね?」

「あやつは、魔の軍勢が南下していった後、ここに残った魔物たちを必死に相手取っておったようなのじゃ。そのおかげで、要塞は所々破壊されながらも、なんとか全滅せずに持ち堪えたわけじゃな」

ルビちゃんのいうとおり、パライバドラゴンはベルが気を失い、要塞の壁を越えて大軍が奥に雪崩れ込んだ後も必死に戦闘を続けていたという。しかし、相手は何万もの異常な力を持つ集団だ。その全てを相手取るなんてことは当然できず、北部連合軍の兵士たちと共に追撃しながらもかなりの数の魔物や魔族を逃してしまった。

彼はその後、要塞を完全に機能停止に追い込む為だろう残った魔のモノたちから、少しでも被害を受けないようにしようとその大きな体で囮になるかのように攻撃を加えた。おかげで奴らはドラゴンに気を取られ、兵士の治療や障壁魔法の展開、要塞の応急処置などが捗った。と生き残った兵士たちは口々に話していた。
まだまだ子供ながらも、己の務めを立派に果たしたわけだな。

そこに俺たちがやってきて、彼が満身創痍な為一旦休ませ、残った敵は一網打尽にしてやったという経緯だ。

「そうだったの……それで今あの子はどこに?」

「今は、負った傷の手当てを受け、その後眠っているそうです。まだお見舞いに行けていませんが、一緒に行きますか?」

「そうねえ……いや、やめておくわ。起こしたらかわいそうだもの。また後で、しっかりと労わせてもらうわ」

俺はベルを探すことに集中した為、こちらもまだお見舞いに行けていないが。今頃は深い眠りについていることだろう。頑張った分、ゆっくりと休んで欲しいものだ。

「ああ、そうした方がよさそうだな。俺たちも、そろそろ次の行動を起こさないと。ベルに会えたことは嬉しいが、君は今はとにかく休んでおいてくれ。三人で未だ必死に抵抗しているだろう人たちの応援に駆けつけに行くよ」

「うんっ、頼んだわ。あ、そうだ、お父様は? お父様も、私が意識を失う前、だいぶ危ない目にあっていた筈なんだけど……それにアルテも一緒にいたの。司令塔よ、どうなっているか見た?」

「司令塔というと……あの半壊した建物のことか。すまない、そちらはまだ未確認なんだ。俺はとにかく君を探すことと魔物たちを倒すことに必死だったから、そこまで気が回らなかった……本当にごめん。パライバくんのことも、魔物を退治終わった後に近くにいた兵士からたまたま少し話を聞いたから知っているだけだし」

「ううん、いいのよ……大丈夫、お父様たちならきっと生きている筈だわ。私の方で捜索しておく。気にしないで?」

「あ、ああ」

とは言っても、ベルは既に母親を魔王軍のせいで亡くしている。もう二度と辛い思いをしたくないという気持ちは心のどこかにあるはずだ。早く彼女の心が安らぐ結果に繋がるといいが。

「アルテといえば、確か。君の家のメイドだったっけか?」

「そうよ、よく覚えていたわね?」

「まあね、ソプラと仲良かったから、印象に残っていたんだよ。でも、彼女も亡くなったはずじゃ……あ、ご、ごめんっ」

慌てて頭を下げる。今のはいくらなんでも配慮に欠けた言葉だった。嫌なことを思い出させてしまっただろう。

「それが、実は----」

と、ベルから簡潔に再開の経緯を聞く。

「なるほど、そんなことが……この言い方が合ってるかどうかはわからないが、また出会えて良かったな」

「ええ、本当よ。でも、彼女にもまだまだ聞きたいことがいっぱいあるから、どうか無事でいて欲しいわ」

「全くその通りだ」

「んん、こほんっ! そろそろ感傷に浸る時間はおしまいでいいかの? いい加減次の行動を起こさなければ、わざわざ北まで来た意味が無かろう?」

「そうだな。ベル、俺たちはこの後王都方面に少しずつ南下する。敵は戦線どこまで広げているか定かではないが、きっと襲われている街や村が既に出て来ていると思う。少しでも多くの人の命を救う為、一旦お別れにしたいんだが」

「なら、やっぱり私も……!」

ベルはそう言いつつガバリとベッドから上体を起こす。

「いいや、何度も言うが今は安静にしておいてくれ。無理をして身体を傷つけることはないだろう。それにこれは、ただ単に君の体を心配してと言うだけじゃない。指揮官である男爵の娘である君の状態が悪化すれば、それだけ兵士たちの士気も下がってしまう。また、副官にも任命されているらしいじゃないか? ならなおさら、上官が痛む体を押して前線に出るのは避けるべきだ。ここは、感情よりも軍全体の益を広い目で見通すべき場面だろう」

「ううん、そうかな…………悔しいわ」

「仕方ない、それだけ相手が本気だと言うことだ。逆に言えば、その分の勢力をこの戦いで削ぐことができれば、一気に魔王軍残党の殲滅に動くこともできる筈。敵にも余程の大馬鹿じゃなければ、まだ残している兵力があるだろうから」

「そうかもしれないわね。あんな兵器を使うくらいだから、敵軍の内部でも魔王退治後に色々と変わったことがあるのだろうし」

ベルの悔しいと言う気持ちはわかる。しかし、ここは理性的に行動し、マネジメントをしっかりとするべきだ。それが出来るのは、現状貴族家の直系の一人であるベルも含まれている。
また彼女が指摘した通り、今回の魔王軍残党の動きは、色々不審な点が多い。魔王に代わる新たな指揮官が誕生していてもおかしくないくらいの統率具合だ。
ただ単にバラバラに人間を襲うのではなく、要衝を破壊してからのまとまった勢力による南下。この前戦ったばかりだからかポーソリアルの動きとダブるところもあるように思えるのは気のせいか?

「そういうことだから、情報収集も兼ねて三人でいってくる。また、すぐに戻ってくるさ、な?」

「ええ。私も、これ以上無理に言い張るのはやめるわ。わがまま言ってごめんなさい、気をつけてね、ヴァン」

「うん、ベルも早く元気になってくれよな」

「お大事に」

「何かあればあるごとにイチャイチャするのをいい加減やめて欲しいんじゃがのう……この二人には言っても無駄か」

何か聞こえたが聞こえないフリをし、俺たちは軽いキスを交わした。





こうして要塞を後にし、俺やルビちゃんたちは南下した魔族たちの勢力を追撃した。
突然の強敵の襲撃に、魔物や魔族は慌てふためきながらも応戦したが。当然俺の方が遥かに強かったため、街や村を襲っていた奴らは軒並み退治できた。
だが数が数なので、すぐに殲滅することはできない。今俺が向かっているのは、エイティアの近くにある侯爵領だ。

イアちゃん--サファドラの背中に乗せてもらいながら、地や空をゆく敵をなぎ倒し要塞突破後怒涛の進撃を見せた魔の勢力を片付けていく。
そうして先ほどようやく、侯爵領の領都に到着した。

「ねえ、あれ見て!」

「ああ。例の大砲だな」

大きな三つ首の犬にまたがったトロールが、両肩に確かにポーソリアル軍が使っていた大砲に似た砲身を構えているのが伺える。

「くらえ、人間! 無駄な抵抗はやめて大人しく殺されるんだな、ギャハッ!!」

「そうはいくか!」

「なに!?」

その大砲の砲身が紫色に光り、危ない雰囲気を感じとる。
そしてイアちゃんの背中から飛び降りると、俺はその大砲に向かって魔法を発射した。


          

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