俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第154話


「うおっ?! あ、ああ、ナイティス騎士爵でしたか。無事お戻りになられて安心です」

「ありがとう」

転移した庭には、やはりマリネ女史を連れてきた時と同じく警備のものが守りを固めていた。周りを見渡す限り、大きな被害は見受けられない。今はここには姿が無いが、ルビちゃん達はきちんと守護してくれたようだな。

「あの、そちらの女性は……どうしてまた全裸なのでしょうか」

確かに、二人ともここに連れてきたときはほぼ全裸だったな。変な勘違いするなよ!

「ん、ああ、まあ……この人は、先ほどまで俺が戦っていた魔物なんだ」

「はっ?」

兵士は口をぽかんと空ける。

「詳しいことをまた各国の王達に説明したい。御目通り願えるかな?」

「は、はい、少々お待ち下さい」

兵士は何時間か前の繰り返しのようにそそくさと建物の中に入っていった。

「ううっ……」

「!」

と、その姿が見えなくなって数秒もすると、抱えていた女が少しずつ目を開け身動ぎする。

「おい、生きてるか」

「んんっ、あ、あなた、は? ここ、は、どこ?」

「意識ははっきりしているようだな」

「え? ……っっっ!!!」

途端、髪の長い女は俺の両腕から飛び退き、地面にスッと着地して当たりを見渡しながら警戒の構えをする。

「構えー!」

すると、俺の周りで念のためと詰め寄っていた兵士達が号令で一斉に槍や剣を構える。

「は、辱めるつもりなら、ささささっさと殺してくださいっ」

行動と口調があっていないな? 女はビビりがちにそう言いのける。もし先ほどの戦闘の意識があるとすれば、俺の強さを見にしみて感じているはずだ。それもあるだろうが、いきなり殺せだとか凄い勘違いをしてしまっているようだ。まあ仕方ないか、周りにいるの男ばかりだし。

「なんの騒ぎじゃ?」

「あ、ヴァンさん♪ ……その女は誰ですか? また違う女性を連れ込んだのですか? 貴方はやはりタラシなのですね」

「い、イアちゃん?」

どうしてだろう、ドラゴン姉妹の妹の方が、拗ねた様子だ。
いつも真面目な彼女がこんなふうになるのは初めて見るぞ?

「イア、まだ怒っておるのか?」

「た、タイミングの問題ですっ。お姉ちゃんこそ、さっきまであーだこーだ言ってたくせになんでそんな飄々としていられるの?」

「そそそそうかのお、わはははは」

???
変な二人だなあ。

「まあ良かった。ちょっとお願いがあるのだが、この女性を少しでいいから見ていてくれないか? 少し勘違いしているようなんだ」

「かか、勝手に話を進めないでください。その二人はなんなんですか?!」

女は少し怯えながらも、髪から見える左目を鋭く光らせる。

「ドラゴンだ」

「ドラゴン……?」

当たり前だが、ナニイッテルンダコイツという白けた目で見てくる。

「なんじゃ、信じておらんのか」

「当たり前だよお姉ちゃん。殆どの人は、この姿の私たちどころかドラゴンすら見たことないんだし」

「い、いえ、……するともしや、あのとき最初に戦ったドラゴン達?」

「ん? どういうことじゃ?」

首を傾げるルビちゃんに一連の出来事を簡潔に説明してやる。

「なにっ!? あのタコじゃというのか!?」

「ああ」

「タコって……でで、でも、そっちこそ本当にドラゴンなんですか? だってあの時の姿とは明らかにオーラが違うというか、とてもこんなか弱い少女が戦うところを想像できなくて」

「それはこちらのセリフじゃ。見るからに根暗そうな女が、あの好き放題に暴れ回った怪物も同じというのは到底信じられん」

「いやあ、それは俺が戦ったんだから信じてくれてもいいんじゃない?」

「むう、確かにお主が我らのことを騙そうとこんな作り話をするとは思えんが……というか大体、本当にあの魔物だったすれば、どうして今人間の姿なんじゃ?」

「お姉ちゃん、それはあの浄化の……」

「ん、ああ、なるほど! それなら確かに辻褄が合うの」

「理解できたか、ルビちゃん?」

「うむ。まあ、一応はあのタコ自体はこの目でしっかりと見ていたわけじゃから、あとはあの神官の妙な魔法で真偽の確認でもすれば良いだろう」

彼女のいう通り、マリネ女史の時にしたよう、この髪長女にも聖魔法による厳しい身元確認と尋問が行われることであろう。そのためにもまずは陛下らに捕虜の紹介をしておきたいのだが。

「ねえお姉ちゃん、なんか途中から聞き分けよくない?」

「え? なんの話じゃ?」

「だから、急にヴァンさんの話を信じるようになったの、怪しいなあって」

「そそそ、そんなことはぁ、ないぞぉ?」

「怪しい……怪しすぎますお姉ちゃん!」

イアちゃんが、何やら姉に向かって問いただしているようだ。ここは無視しておいた方が身のためだと危険察知能力が告げている。

「お待たせいたしました!」

「お、きたか」

姉妹が戯れていると、先ほど伝令に行った兵士が戻ってきた。お仕事お疲れ様だな。

「では案内いたします」

「頼んだ」

そうして何時間かぶりに再び屋敷の中へ。今回も、周りを厳重な警備で固めてだ。

「ここここまで警戒しなくても、なななにもしませんよ?」

「は? そんなの信じられるわけがないだろうっ、大人しくしておけ気味の悪い女め!」

「ひいっ」

「こら、私語は慎め」

「はっ、申し訳ございません」

ううむ、この女性がどんな身分か自分からまだ明かそうとしていないため誰かはわからないが、ポーソリアル関係者の可能性もある。というかあんなところで急に出てきたのだから、寧ろその可能性が高い。妄想に過ぎないが、実は魔物の襲来に見せかけたポーソリアルの奥の手切り札だった可能性だってあるのだ。

「着きました」

「ああ、ありがとう」

そして所定の手続きを経て、会議室の中に入る。念のため、ドラゴン姉妹も帯同だ。些細なことで場が荒れるのは良しとしない。

「どうぞ」

「おう」

「ふぅー……」

ビビりながらも女は深呼吸をし、己のこれから決まる運命を受け入れている様子だ。やはり、身体の動きというか、態度と言動がどうも一致しないんだよなあ。

「ヴァンか、また誰か捕まえたと聞いたが、今度はどんな役職の者を持ち帰ってきたのだ? 流石に最高司令官よりも上のものではなかろう?」

「レオナルド陛下。僭越ながら申させていただきますと、こちらの女は身分不詳、魔物に変身してきたところを私の力で人間に戻した所をすぐにこちらまで連れてきました。ですので、まずはポーソリアル関係者かどうかを確認するところから始めていただきとう存じます。何せ、全く身の上を話そうとしないものでして」

ざわざわ、と部屋の中にいる高貴な方々が話を仕出す。
それを陛下は手を挙げて制した。

「そうか? わかった。おい、真偽官を入れよ」

陛下の呼びかけで、神聖教会の者が入室する。

「こちらの女を調べてほしい。まずは、どこの者であるかと、名前、役職からだな」

「なななにをするつもりなのでしょうか、もしや、拷問!?!?」

女は真偽官を前にして己の身体を掻き抱きながらブルブルと震えだす。いちいち過剰演技な気がするぞ。

「そんなことはしないぞ、いいから素直に従ってもらえませんかね?」

「うう、ほんとうですか?」

「うむ。ファストリアの名に誓ってお主に不当な危害を加えることは絶対にないと保障しよう」

「そ、そうですか?」

一応は陛下がそれなりの立場であることは理解しているようで、渋々ながらも従うことにしたようだ。まあ陛下がここまで仰るのだから、本当に身の安全は保障してあげるのであろう。

「こほん、よろしいですかな? では、簡単にですが尋問を始めさせていただきます」


          

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