俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第152話


敵は、その太い触手を振り回し強攻撃を仕掛けてくる。
アレに当たれば、一般人ならば一発で木っ端微塵は間違いないだろう。

だが俺は、幸か不幸か"一般人"ではない。

「ふんぬっ!」

「ナニィ!?」

こちらに迫ってくる触手を、むしろ俺の方から迎えにいく形で手掴みする。
そのまま、浮遊した状態を保ちタコの体ごと片手で引っ張る。

一眼の顔を街と反対側に向かせた後、状態を維持したまま空に飛び上がる。

「ナ、ナニヲスルゥッ!」

「これぞ本当のタコ揚げってな!」

触手がちぎれんばかりに天に向かって突き進む。気分はまるでスー○ーマンだ。

「クソ、ニンゲン、フザケルナ!」

「おっと!?」

ステータスにものをいわせた腕力で敵を引っ張っていると、タコは再び口を開き、口腔に赤黒い輝きを放つ光を溜め込む。

「そうはさせるか!」

だが何度も食らわないぞ! 空いている掌に火の球を出現させ、大きく開いた口に向かって投げつけてやる。

「ゴギャゴッ!? キュオオオオン!」

炎は光を打ち破り口腔に収まり、そのまま弾け飛ぶ。
新魔法の『時限火球』だ。投げつけて数秒すると、敵の前で火の粉が勢いよく弾け飛ぶ仕様となっている。本来は範囲攻撃を想定して作ったものなのだが、それが体内で爆発すると。

「ホアッ、ホアーーーッ!」

掴まれていない触手を何本かバタバタと暴れさせる。タコ揚げの次はタコ焼きパーティだ。
いかにもなおどろおどろしい見た目をしているくせに、まさしくタコ踊りをする光景は滑稽の一言。どことなくいい匂いもする気がするぞ、うん。

「もう一発!」

この分なら、体内から丸焼けにした方が効率が良さそうだ。

「クッ!」

「えっ」

と思い火の球を再び投げつけようとしたのだが。
何と相手は、いわゆる自切。俺が持っていた触手を自ら千切ってしまった。しまった、片手で押さえていた為俺の束縛範囲から敵が逃げてしまう!

「待てっ!」

慌てて、時限火球を投げつけようとするが。

「フフフフフッ!」

タコは、突然その白い身体を変化させ、光学迷彩のように景色と同色になって消え去ってしまう。

「なんだと、どこにいるくそっ!」

素早く保護色にカラーチェンジした相手は見つからなくなってしまう。
しかも、その気配すら全く感じられない。アレだけの巨体なら、なんらかの掴み所があって然るべきなのに、本当にこの世から居なくなってしまったように感じる。

「厄介な……よし、こうなったら!」

後で漁師の人たちには謝っておかないと。

俺は、手で持っていた触手を一先ず倉庫にしまい、再び火の球を作り出す。
しかし今度は時限火球ではなく、巨大な普通の火の球だ。そう、敵はあのままだと自然落下して海水に紛れ込んでいるはず。ならば、この一帯の海水を蒸発させてしまおうという考えだ。力任せで汚い戦い方ではあるが、潜んでいる敵はその潜伏場所ごと破壊してしまうのが一番時間の節約にもなるし楽だ。もちろん後のことを考えずにという前提にはなるが。

「……くらえ!」

そして海水に向かって投げつける。
火の球は高速で海面に衝突し、一気に開催を蒸発させていく。だが。

「え!?」

火の球が大きすぎたのか、突然白い煙をぶち上げながら、あたり一帯が大爆発を起こしたのだ。まるでマグマ水蒸気爆発のように、太い水柱と雲が立ち昇り、爆風が当りを巻き込む。
慌てて障壁を張ると、ビリビリと痺れるほどの振動が襲いかかってきた。

「そ、想定外だっ」

青い炎でやったのがダメだったか、あまりに高温すぎて一気に海水が気化してしまい、そこに残った球の残骸が着火の役割を果たしてしまったようだ。

「…………街は大丈夫だろうか、流石にやべえなこれは」

みたところ、空を飛んでいる間に軌道がずれたせいだ、最初飛び立った街の沖合からはだいぶ離れた場所に来ていたようだ。なので直接大きな被害はないとは思うが。

「っと、アイツはどこに行った?」

俺は、この惨事を引き起こしたそもそもの原因を探しだす。まさか、死体になってまでカモフラージュしているのだとすれば、見つけるのは困難だぞ? それにもしかすればもうバラバラ死体になんてこともあり得るし。
ま、まあ、一応魔物だし、倒したらそれでいいよね?

「ココニイルゾ、ニンゲンッッ!!」

「おっ!?」

霧雨のようになったきのこ雲の中を探し回る。そして海面付近まで高度を下げたその瞬間、見覚えのある白い触手が右足に絡んできた!

「なにっ」

「フォフォフォ、ツカマエタゾ!」

そう、アレだけの魔法なのだから倒したと思ったタコの魔物が、光学迷彩を解いて襲ってきたのだ。しぶといなこいつ……!

「くそっ」

記憶を失った代償に防御力もかなり向上しているので、痛いとか折れるなどということはないが、単純に身動きが取れない。

「コンドコソ、シネ!」

触手をさらに全身に渡って絡ませ、絞め殺そうとしてくる。しかし、その攻撃は意味がない。ただ単に苦しいのとベタベタや臭いが気持ち悪い。

「おいタコ、忘れたか? さっき俺は、お前を片手で引っ張ったんだが?」

「!!」

ニヤリと笑みを浮かべた俺は、体のあちこちに絡まった太い触手ごとタコを空高く引き揚げる。本日二回目のタコ揚げ開始だ。

「ア、アリエナイッ! バケモノメエエエエ!」

「そっちにいわれたかないんだが? 俺はあくまでも人間だぞ!」

「コンナイジョウナニンゲンガイルワケナイダロ!」

「現にここにいるが?」

「ダトスレバ、オマエモワレワレトオナジダ! カジョウナチカラヲテニシテモ、マワリカラミレバタダノイタンシャニスギナイ!」

「何が言いたい、辞世の句はそれでいいってことか!?」

「ワタシモ、ヒトビトニハクガイサレテキタ! ダガ、コンナオカシナチカラヲモツオンナデアッテモウケイレテクレルトコロガアッタ!」

「だからどうした? まさか、お前魔族の幹部なのか?」

普通に話してしまっていたが、これほどまでに知性ある会話ができ、更に何やら身の上話まである様子。推測するに、タコの前は人型の存在であることは間違い無いだろう。

「ワタシハ、マモノデモマゾクデモナイ! レッキトシタニンゲンデアル! タダモクテキノタメニ、コノミヲツイヤシタマデッ。ニンゲンノセカイハイチドリセットサレルベキナノダ!」

「何を言っている、お前はどこの誰なんだっ!!」

突然、革命思想を披露し始めたタコ。元は人間? どういうことだ、人間が魔物か魔族になるなんて全く聞いたことがないぞ! それも、かつて操られていたジャステイズのようなパターンならまだしも、自ら望んでなるなんて。

「ナヲナノルヒツヨウハナイ! ニンゲントシテノワタシハ、トウニカコニオキザリダ。イマハ、タダモクテキヲスイコウスルタメノコマニスギナイ!」

「なに? そこまでして、一体何が目的なんだ! こんなことをしてもし本当に人間の世界が滅ぶと思っているなら、お花畑にも程があるぞ!」

「クククッ……ゴポポポポポッ! アンズルナニンゲン、イマニワカルコトダ……」

「はっきりいえ、このっ----」

「----サラバダ!!!」

「なっっっっっ!?」

触手を切り落とそうとしたところ。

唐突に、タコの体が輝きだした。


          

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