俺の幼馴染が勇者様だった件
第149話
----いっぽうその頃、シルクライン沖、ポーソリアル共和国軍艦隊上空にて
「お姉ちゃん、そろそろいいんじゃない?」
「うん? まだまだ暴れ足りないのじゃが」
「もうっ、私たちは別に、はしゃぎにきたわけじゃないんだよ! しっかりしてよね!」
「すまんすまん、そうじゃな」
ドラゴンの姉妹が見下ろす先には、あちらこちらから煙や火を吹き上げ行動不能になっている沢山の戦艦が浮かんでいる。その中には、兵士が船から飛び降り助けを求めている光景も見える。
「一応助けた方がいいのかな?」
「え、なんでじゃ? 皆殺しにしたらいいではないか! 敵なのじゃぞ、生かしておいてもなんの意味もないじゃろう」
「お姉ちゃん、中々物騒なことを言うんだね……私、少し勉強したんだけど、人間の戦争ってやったらそれで終わりじゃなくて、最後にはきちんと交渉を行うんだって。そこで、どれくらいお金をもらうかとか、今後の国家間の力関係とか決めるの。その時に、生かしておいた兵士を人質代わりに使って、返す代わりにお金や物資を要求するらしいよ」
「ううむ? よくそんなこと調べたの。つまり、生かしておいた方がヴァン達にとっては都合がいいと言うことでいいのかの?」
「そう言うことだよ。だから、ひとまず助けて、武装解除は人間の兵士に任せればいいんだよ」
「うむ、わかった」
そうして姉妹は、海に浮かぶ者や船から助けを求める兵士を拾い上げ、陸に降ろす。そこに待機していた兵士たちが集結し、もみくちゃになりながらも沢山の捕虜が出来上がっていく。
拘束する時に少々手荒になってしまい不具合が発生することもあったが、仲間や家族、大切な人々を亡くしたものは沢山いる。我慢しろと言っても限度があるのは仕方がないことだ。
「これで大体いいかな?」
「そうじゃの、我らもそろそろ一旦引き上げようかの?」
「うん、そうしよっ。あ、でもその前にもう一仕事しておこうよ」
「ん? 何をするつもりなのか言ってみるのじゃ」
「残っている船を陸に寄せておくの。多分、人間たちはあの船の技術に興味津々だと思うから」
「そこまでしておく必要あるかのお。おいサファイア、御主どんな目的でそんな提案をしておるのじゃ? 何か個人的な事情があるんじゃなかろうな?」
と、姉は妹をみてそう勘ぐる。姉妹だからこそわかる微妙な態度の変化などがあるのだろう。
「えっ!? そ、それは……ええっと、まあ……」
「言ってみるのじゃ」
「そ、その、少しくらい多めに手伝ったら、後でヴァンさんに褒めてもらえるかなって思って」
「は? 何故あいつに褒めてもらうためにそんなめんどくさい事を?」
「そ、それは……まあいいじゃない! それに、お爺様も少しはお姉ちゃんのこと見直すかもしれないよ?」
「ううむ、納得いかんが、後半の話は確かに我もそろそろ汚名挽回するべきだと考えておったからの。いい加減一族の恥にならないうちに、きちんと一竜前のエンシェントドラゴン族として言われた通りのことをやるだけにはならんようにするべきかもなのじゃ」
というわけで。二匹とも、個人的な欲のために人間に少し手助けをしてやることに決めて。
艦隊の七割が陸・海・空からの攻撃によってダメージを受け、そのうち四割は沈没かそれに近い行動不能状態に。残りの三割も船を魔法で浮かすので精一杯なようで、ほとんど攻撃をしてこない。中には、沖に逃げ出そうとする船までいたので、それは流石に見逃せないと攻撃を加え無力化する。
それでも六割程度は利用価値があるので、二匹は乗っている敵兵ごと魔法や手掴みで陸に寄せたり、船丸ごとを平地に落としたりする。
……艦が浮いているということは当然、まだ船内に抵抗する意思のある者もいたが、殆どのポーソリアル兵は並の魔物の何百倍何千倍もの戦闘力を惜しげもなく披露した二体の竜の前に戦意を喪失しており、大したトラブルもなく目的を果たす。
--サファイアドラゴンの目論見通り、これらの船や兵士の武装などは、今後各国に振り分けられ持ち帰られて研究が為されることになるだろう。突然降って湧いた新技術をどう取り込むか、後は人間たちの手腕にお任せだ。
そして二匹は一度陸に戻り、雄叫びや勝利の喜びを全身を使って表す連合軍兵士達を横目に少し休憩。
「終わったね、お姉ちゃん」
「ああ。意外とあっさりしておったの。もっと時間がかかると思っておったのだが」
「うーん、多分だけど、ヴァンさんの魔法のおかげと。それに敵の旗艦が有効な指揮をできなかったのもあるんじゃないかな?」
「???」
「ええとつまり、私たちはどんな相手であっても結構個人個人で自由に動くよね? でも人間は上に立つ偉い人が、下っ端にあれこれ命令して沢山の駒を一度に動かすことで戦いを有利にしていく」
「それくらいは我にもわかるぞ」
「でも、今回は何故か、敵の旗艦。つまりあの一番大きな船がその司令塔だったんだけど、全く動く気配もなく、周りの船も次第に動揺していたよね?」
「そうじゃったのか? 全く気づかんかった。お主けっこういろんなところを見ているんだの」
なお旗艦はヴァンがまだ中にいるかもと言うことでサファドラが念話を送ってみたが、どうやら既に敵の大将は捕らえられたということで他の船と同じく陸の方に寄せてある。
「一応ね。それで、次第に烏合の衆と変わっていったポーソリアルの軍は、統制を失ったことと私たちや連合軍の搦手によって大混乱。見事、戦を手中に収められたわけ」
「ふーん、なるほどなのじゃ。イアも随分と賢くなったんじゃのう。姉として誇らしいのじゃ!」
「妹としては、もう少ししっかりしてほしいところだけどね」
サファドラは苦笑いをする。
「さて、これからどうするかの。ヴァンのもとに向かうか、それとも一旦里に帰るか。いつまでもここにいても仕方なかろう、今までのお主の話を鑑みると後は人間に任せるべきじゃろうし」
「そうだね。今回は戦自体への参戦は命じられたけど、その後のことまでは何も言われていないから。変に首を突っ込むのはやめておいたほうが良さそう。私たちエンシェントドラゴン族が人間の政治に関わるときっと楽なことは起きないと思うから」
「うむ」
サファドラの言う通り、彼女らは人間からはこの"世界"で一番の強者と捉えられている。空の王者というだけではなく、エンシェントドラゴンという存在は遥か昔からの歴史と共に生きてきた生き証人であると考えられているのだ。
そしてそれに連なる者も同じ。なので今回はあくまでも、ファストリア等特定の国に肩入れしているのではなく、ヴァン=ナイティスの知り合いとして参加したに過ぎないと二匹は各国の前で宣言している。
「それじゃあひとまずは人間形態に----」
----ザッパアアアアアンッ!
「「!?」」
サファドラがそう言いかけたところで。
沖合に突然、巨大な水柱が立ち上がり、白いナニカが水面を割るようにして出現する。
「な、なんじゃ!?」
「なに!? 敵の新兵器?」
だが、その予想はすぐに外れる。
「ヒュオオオオオン!!」
大きな波を作りながら現れたのは、真っ白い丸い物体に、幾つもの太く長い柔らかい棒がくっついた生き物。
それは、タコを巨大にしたような見た目だ。
目は中心にひとつだけあり、その瞳は濁った黄色で激しく血走っている。
「ま、魔物!?」
「大変っ、あんな大きな魔物が何故いきなりっ!
全く気づかなかった……!」
二匹が驚くうちに、ポーソリアル兵を処理していた兵士たちもワーワーと騒ぎ慌てふためきだす。
「ゴボボボボボッ! モクテキ、スイコウ、カイシ!」
そして魔物は目の下の部分に突然くぱぁとワームのように丸い穴状の口を開け、赤黒い光をため込む。
「お姉ちゃんっ!」
「アレはやばいのじゃ!」
急いで二匹が障壁を張ろうと前に飛び出した瞬間、タコの口元から野太い光線が発射された。
          
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