俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第121話


「やられたな」

「ええ……」

まさか、事態が特に困窮しているわけでもないはずだろうに、反抗作戦のしょっぱなから焦土作戦を受けるとは……ブービートラップならまだしも、さっきまで戦っていた死体が爆発するなんて普通考えるかよ!

それにあの手榴弾のような武器、切り刻んでも爆発するなんてどうなってるんだ? 捕虜を捕まえて早いこと武器の性能を確かめさせないと、下手に街の奪還をしようとしても焼け野原に変えられてしまっては全くの無意味だ。兵のみならず逃げ延びた街の人々や周りの国々の士気にも関わる。
また、あの輸送艦。偽装していることを確かめられなかった偵察部隊の責も重いだろうが、今はとにかく他の街にある同型艦をただのお荷物ではなく敵の重要な戦力だと改めて全軍に認識させなければ。



ミレの街に関しては、ポーソリアルによる最初の侵攻地点ということで、殆どの住人が逃げる間も無く殺されてしまった。しかし他の街では事前・戦闘中に避難できたり、また敵にも思惑があるのか丸ごと捕虜となっている場所もある。そこら辺の被害をどう抑えつつ戦うのかという難題もクリアしなければならない。

土地を取り返したところでそこを復興する人々がいなければ、ナイティスの村の二の舞、一から入植をするか土地を放棄するか。人的資源はどこの国も無限なわけがないのだから、各都市からの急激な市民の分散流出は結果的に国力の低下を招くことは必至だ。

「ベル、体調は大丈夫か?」

生き残った兵士達に指示を出しながら、彼女の不調を心配する。

「いえ、あまり……気分が悪いわけでもないのに、何故か力が出せないの。まるでいきなりおもちゃを取り上げられた子供の気分だわ」

「ならもう一回幼児教育を受け直さなきゃな」

とふざけたように言いつつ植物の葉のようにやれやれと肩をすくめ両手を上に向ける。

「うふ、ヴァンは赤ちゃんプレイが好みなのかしら? 自分がするんじゃなくて私に赤ちゃんになれだなんて、なかなかマニアックね」

「な、そんなこと言ってないだろう!」

「冗談よ、でもありがとう。とにかくまずは報告しなくちゃ」

「ああ、そうだな。転移は出きそうなのか?」

「うん、どうだろう。取り敢えずファストリアまでできるかやってみるね? …………駄目だわ、飛べない」

彼女からは魔力の高まりを感じはしたが、それが発動する気配は確かにない。これは、単純な肉体能力だけではなく、魔力量もなんらかの原因で大幅に減少してしまっていると考えた方がよさそうだ。

「じゃあ、俺が連れて行くよ。そこの士官、指揮を任せる! 俺たちは一足先に"中央"に報告に向かうから、残党へ警戒しつつ生存者の救出、資源の回収を急げ!」

「はっ!」

生き残った中で一番上位と思われる士官に命令を出し、場の収集を任せる。そしてベルを伴って、一先ずファストリアへ、詳しい状況報告へ向かうこととした。















----三ヶ月後、王国北部エイティア男爵領にて。



「ええい、まだ状況は改善できんのか、中央の無能どもめ!!!」

「お、お父様?」

「くそっ、兵站もままならない。このままだと二正面どころか共倒れだっ!!」

「…………お父様……」

執務室で書類を散らばらせ頭を掻き回す我が父ドミトリンを前に、私は佇む。

「ん、来たか、ベル。よしよし、いい子だ」

「や、やめてください、もう一七なのですよ?」

「ははっ、親にとって子供はいつまでも子供だ。少しくらいいいじゃないか」

百八十度態度を軟化させたように、私の頭を優しく撫でる。しかし、その顔には明らかな焦燥が見て取れた。

私は、自然と胸元のペンダントを握る。未だ大事にしている、お母様の形見だ。




あのポーソリアル共和国の侵攻は、一時はこちらが押し返しはしたものの、やはりここぞという時に焦土作戦が決行されたため、あえなく戦線膠着状態となってしまった。
敵も何が狙いなのか、南大陸の左半分を手中に収めたところで橋頭堡を築き、その土地は我々の国土だというのにまるで元から敵のものであったかのように管理下に置かれてしまっている。

あの戦艦と呼ぶべき鋼鉄の船団はヴァン達ならまだしも一般敗では相手にならない。さらに、ただの輸送船と思われていたあのビーム砲を撃つ船はヴァンの障壁でも耐えるのが精一杯なほどだ。それが何十隻もあるのだから、幾らヴァンが急に強くなったからと言っても限度がある。

下手にこちらから反撃すればすぐさま街は火の海となるし、住民を引き上げさせはしたがそれらの保護もいい加減限度がある。『流れ者』と元の住民の間にも亀裂が生じているし、正直全体的な状況を俯瞰すれば明らかに我ら連合軍が劣勢だろう。




それだけではない。



残党狩りから逃げ延びていた魔族達が、ある日急に北大陸にある元魔族領に集結し始めたのだ。各地の観測地点から一斉に魔物や魔族が消え失せたという情報が流され、そのすぐ後に魔王城を拠点に新たな組織の編成が見られている。

そしてその新生魔族軍とでも呼ぼうか、彼らは再びここ中央大陸に侵攻を始め、"人類"は他地域の人間と魔族との二正面作戦を取らざるを得なくなった。

ここエイティアは以前の対魔戦争の前線の一つであったが、新生魔族軍侵攻を受けて今回も同じように人類を守る盾となった。

しかしそこで前とは違う大きな問題が発生している。既にポーソリアルとの防衛戦争で資源を逐次投入する羽目になっている各国は、魔王亡き今魔族はそれほどの脅威ではないとして、対魔戦線への資源投入を渋っているのだ。
当然、私たち北部前線は限りある戦力と共に資源を節約しながら魔族や魔物を押し返す羽目になっている。



更にまたそこに面倒臭い事情が絡んでいる。



それは、いわゆる権力闘争と、軍部の肥大化だ。
魔族に向けられていた軍事力は、一応は私たち勇者パーティがその旗頭となって人類皆共闘の形をとれていた。

しかし、ポーソリアルとのいわゆる『人間対人間』という本来軍に求められている役割を果たせるとして、ここぞとばかりに各国の軍部が嬉々として躍動。結果的に各国内での発言力を増している。

押さえ込まれていた分が爆発したのか、最初は強調をとれていた各国は、次第に我ぞ我ぞとばかりに各自足並みを揃えぬまま対共和国戦争に突入。一部の国では国力に差がありすぎるとしてポーソリアルに下るべきだなどという意見まで出て内紛を起こす始末。

唯一の救いは、南部大陸を最前線として共和国軍の方も防衛に徹しているということか。これで反撃を理由に戦域拡大などとなれば、今度こそ"人類"は滅ぼされていたかも知れない。不幸中の幸いであった。

ともかくそのような理由から、人も含めた資源を南部に持って行かれ、こちら北部はカツカツなのだ。以前の協調がとれていた人類はどこへやら。魔族という"得体の知れない強者"という存在ではなく、人間というある意味で"身分の判明している強者"たるポーソリアルを目の前にして、もしかしたらという欲が出てしまったのだろう。

この世界も地球と同様であるが、軍の中には癒着等で『戦いが起こった方が嬉しい』者もいる。そういう者がまた余計と戦線を勝手に作って無駄に資源を消費している。勝とうが負けようが私腹を肥やせればいいという者はどうやっても排除しきれないし、首を切ったところでまた別のところに膿が生まれ出るだけだ。

正にあちらを立てばこちらが立たず。しかもその"あちら"を握っているのは今や木っ端貴族などよりもはるかに優位な立場にある各国軍中枢なのだから尚更だ。



「お父様、どうなされるおつもりなのですか? これ以上は、流石に」

「わかっている。わかっているよ、ベル。だが、もうどうしようもないところまで来てしまっているのだ! 引けば臆病者という評価と共に人々に見捨てられ、耐えていれば凌ぐ間も無く次々と削られていく。もはや四面楚歌どころではないのだ!」

「ならば、今こそ各国に協調を呼びかけ一大作戦を提案すべきでは!」

「なに?」

お父様はギロリと私のことを睨む。

「苦しいのは北部のどこも同じ。ならばこそ、後戻りできない状況になる前に、例え僅かな光明であったとしても賭けに出るしかないではありませんか。各個撃破という最悪の状況はまだ塞がれています。今、今この一瞬一瞬においても、仲間が血を流して大地の糧となっているのですよ? 嘆いていても仕方がありません、私にできることがあればなんでもしま----」



「お前になにができる!!!」



「----す……え?」

「勇者、勇者といわれ気分はさぞ良かろうっっ! だが、本当に魔族と血を流し合っていたのは我ら北部の民なのだぞ! 人々は縋りやすい偶像を崇め奉る。しかしその光の影に描かれて人知れず斃れ伏していく者たちがどれほどたくさんいたか! しかし今の勇者はその求心力さえ失っている。ただの子供が知ったような口を聞くんじゃない!!!」

「お、おとう、さま?」

「そもそも勇者などと呼ばれていたのは、その奇跡ともいえる力を有していたからではないか! 今のただの小娘であるお前の言うことなぞ誰も耳を傾けん。ましてや軍の奴らがなんの旨味もないのに首を縦に振るわけなかろう! 少しは考えてものをいうのだ、この落ちこぼれめ!」

「ひっ」

灰皿を投げつけられ、ガシャン! と大きな音を立て砕け散る。私は慌てて頭を押さえて蹲ってしまった。

「でていけ、でていけー! 私の前に姿を現すな、今すぐにこの屋敷から出ていくのだ! ああああ、軍服を着た豚どもめ、皮算用ばかりしよって、敵の目の前で剣の一振りでもにぎってみろ!!! くそっくそっくそっ--」

私は、様々なショックを抱えながら、体を震えさせつつ屋敷を飛び出した。


          

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