俺の幼馴染が勇者様だった件
第111話
「!!!! これはこれは、主神様ともあろうお方がこのような所まで一体何のようですかな?」
「やあ、調律神。元気?」
「ええ、それはもう、貴方様が求める限りはワシはまだまだくたばったりしませんとて。安心して下され」
「うんうん、何事も元気が一番だしね。それでこの娘を頼みたいんだけど……」
「ふむ、その娘は確か、ドルガが懇意にしておった人間では? 確かに『グチワロス』のもとへ預けるとは申しておりましたが、何故今ここに運ばれたので?」
「『 今はその時では無い』と、カオスにもそう伝えたし、君たちにもそう伝えたよね?」
「ええ、まあ……しかし、こうなってしまった以上はワシらも抵抗するほかなく、大変申し訳なく思っております」
「ああ、気にしないで、怒っているわけじゃ無いんだ。ただ、何の罪もない人間を巻き込むのは違うよね? って話。それはあちらの少年も含めてだけど」
「ええと、ヴァン、じゃったかな? あの子も『中』に返すんですかい?」
「僕たちの問題は僕たちで解決すべきだ。正直、巻き込んだ女神ドルガドルゲリアスには失望したよ。まあ、"僕の中のグチワロス"のせいでもあるから一概に彼女だけのせいとは言えないんだけど」
「……このようなことを申し上げるのは気が引けますのじゃが、そろそろ御身を取り出されては如何なのです?」
「かなあ。でもやはり今はまだ、そういうわけにもいかないんだよねえ。諫言痛み入るよ。何せ"長老"である君がそう思っているのだから、きっと他にも思っている者はいるのだろうね。『我らのトップはどこに逃げたんだ』って」
「まさか! 逃げるなどとは、神々は皆主神様のことを敬い申しております。そのご意志は神界の意志そのもの。貴方様がゾウだとすれば、我々は足元を歩く蟻に過ぎません」
「あはは、面白い例えをするものだ。ともかく、この娘とあの少年のことを頼むよ」
「は、はい、おっと……ではこれから貴方様はどちらに?」
「取り敢えず、少年を回収して、それから二人の戦いを見守るとするかな」
「ほう!!!! 遂に、彼奴らを呼び出したのですか」
「うん。そうしないと今の状況が片付かないことは間違い無いし。お人形遊びもほどほどにってね」
「左様で。カオスは、コトを焦りましたな。幾ら暴れたところで何も変わらないというのに」
「だが、その言葉ももう直ぐ意味をなさなく成るよ」
「はは、でしたな。闇の門から出でし神『アデス』、そして光の柱を伝いし神『オーディジアス』。人間の言葉を借りれば、二柱による『決闘』というところですかな」
「次元を渡りし神『デーウス=エークス=マキーナ』は参戦なさらないのかな?」
「かっかっか! これはご冗談を。ワシなぞただの老人。あやつらとなぞとてもとても戦えたものではありませんゆえ。ご勘弁を」
「ふふ、いつかまた、見たいものだね。君の全力を」
「その為には五千歳ほど若返りたいものですな」
「なかなか面白い冗談を言うじゃないか」
「これはありがとうございます。口ばかり達者なのもある意味年の功ですかな?」
「今からは口だけじゃなく、少しだけ手も動かしてもらうわけだけどね。それじゃあ、よろしく頼むよ」
「ははあ、お任せを……」
★
「アデス? 聞いたことのない名です。貴方は神なのでしょうか?」
「無論。我は神の人柱、闇の門よりいでし者。知らないのは当たり前であると慰めの言葉をかける所存」
「は、はあ、よくわかりませんが……慰めはともかく、指揮権を譲渡しろとはどう言うことなのでしょうか? 変革派は私が借り受けていた組織でも何でもなく、間違いなく私自身がリーダー的存在としてその行動をコントロールしていますが?」
当たり前であるが、先ほど起きたばかりのドルガ様は突然の欲求に憮然とした表情だ。
「実はこの人……この神は先ほど、ヘラキュロスを細切れにしてしまったあと、ラグナローなる組織の指導者だと名乗っていましたよ。変革派の本来の名称のような言い振りだったのですが……ドルガ様もご存じないとなると、本当かどうかは怪しくなるな」
あまりにも自然な態度と、敵意を感じないことに少し安堵してしまっていたが、一定の地位を持つ女神が名前すら知らないとなるとその素性は一気に怪しくなった。
そもそも見た目からして明らかに普通じゃないのに、俺は何を根拠に味方と判断していたんだ?
「ヘラキュロス様を? えっ、これヘラキュロス様なんですか!? なんという……いえ、非常に残念ではありますが、今は敵が一人減ったことは素直に喜ぶべきでしょう。哀悼の意を捧げます……しかし、だからと言ってこの神が我々変革派の味方だという理屈にはなりませんよね?」
「失敬、まさか女神が何も知らされていないとは無知蒙昧を反省。あのお方もなかなか自由奔放と承知」
「おや、別に僕はそこまで適当なわけじゃないよ〜。ただ、知らせるべき情報と知らせないでいるべき情報を分けているだけさ」
「!! え、グチワロスっ!? それに……ベルも! なんでここに、ベルを見守ってくれるって話じゃなかったのか!」
「グチワロス、どうしてここへ! 確かに頼んだはずですよ!」
突然、俺から見て左手前方、アデスなる神と俺たちを結んだ中間地点の空間がグニャリと歪な形に歪むと、そこから今では見慣れた白いフィギュアのような神が現れた。
「やあやあ、ヴァンくん戦闘お疲れ様。それにドルガさんも。もうそろそろ休憩したいよね? というわけで二人は『ドルガ』に帰ってもらうから」
「は?」
「はい?」
いきなり何を……ん、あれは誰だ?
グチワロスによる突然の意味不明な宣言に困惑していると、その彼の後ろから、また一人神らしき者が現れる。
「あらあら、大変! せっかくの景色が台無しですわ!」
歪みから出現したそれは、まさに女神であった。
ドルガ様のお召し物を三段階ぐらいアップグレードさせた純白のドレスに、天女の羽衣のような羽織りを腕と首に巻きつくように通し、頭の付近には四方八方にまちまちな長さの細長い棒が突き出したいわゆる後光を具現化したような光り輝く"光の輪"が縦向けでふわふわと浮いている。
プラチナゴールドと言うんだったか、殆ど白に見える金髪はたおやかに波打ち、その美貌には慈悲の笑みという表現しかないと断言できる優しい微笑みをたたえている。
「死死死死死死死死死」
「え? ちょっ--」
そしてその女神の姿を確認した瞬間、アデスが大量の漆黒の槍を今の俺でも目で追うのもやっとなほどの超高速で飛ばし攻撃した!
「あらら、不躾なコト。主サマの御前だと言いますのに無礼千万にも程がありますわ!」
「失笑。知彼知己者百戰不殆、貴様に対しては発見し次第即座の対処を己に厳命!」
だが、女神もそれを障壁を張ったのか、自らの体に届く前に手をさっと払う一呼吸で跳ね除けてしまう。
「それはつまり、ワタクシに負け越していることの負け惜しみ、というところでしょうか? 『彼を知り己を知れば百戦危うからず』。確かにその通りではありますが、アナタの場合はいくらワタクシのコトを研究し、己の研鑽を高めようとも勝てない運命だといい加減理解するべきではありませんか? ふふっ」
「何を余裕綽綽! ここで会ったが百年目、嫌五千年目! 今度という今度こそ決着決闘大決戦! 死死死死死死!」
「いやいや、待って待って」
「死死死死ごほっ……!?」
が、次なる攻撃は、女神ではなくグチワロスによって塞がれてしまう。
グチワロスはその指のない丸い腕をアデスに向けると、漆黒の神は全身から血、というか煤のような黒い粒子を吹き出し俺とヘラキュロスの戦闘によってボロボロになった床に倒れ伏してしまったのだ。
一体何がどうなっているのか、全く理解出来ないうちに次々と新キャラが現れ、その度に状況が目まぐるしく変化していき頭の中は大混乱だ。というか、こいつどうもグチワロスじゃなさそうだぞ?
雰囲気というか、いつも纏っているゆるキャラ風なモノではなく、一言で表すと『無』だ。そこに確かにいるはずなのに、いないような、認識がぼやけているような。しかし俺は今確かにグチワロスの形をした何かを目にしているはずなのだが……一体全体どうなっているんだ神界というところは!
「グチワロス、何をしに来たんだ! というかその女神は一体?」
「そ、そうです。私も見たことのない神ですが……説明してくださいますか?」
「うんうん、そうしたいのは山々なんだけど……ともかくヴァンくんは一旦ここからご退場願いたいんだよね」
「退場ってったって、まだカオスの暴走を食い止め----っ!」
グチワロスの見た目をした人物の言葉を否定し、この場に留まることを主張しようとした俺は----全く気がつかない内にこちらの後ろに回ったその白い神によって一切の痛みを感じる間も無く気絶させられた。
          
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