俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第100話突破!!!記念&ホワイトデー❤︎特別編(カクヨムオンリー)


それは異世界転生をする前、まだ俺が地球で生きていた頃。

十五歳の俺は、最後の中学校生活も数日後に迫り。
三年間の思い出とお別れする寂しい気持ちと、約一ヶ月後の新しい生活への不安と期待の入り混じった気持ちを教えつつ、幼馴染のりんと今日も今日とて俺ん家で遊んでいた。

「じゃじゃーん! 見て見て! どう? 可愛いっ?」

「ああ、可愛いぞ」

「もう、もっと真剣に見てよね!」

「はいはい見てるから」

何度目になるだろう、先日届いた新しい制服に身を包む幼馴染は、毎日のように己のブレザーとスカート姿を隣家に住まう男友達に見せびらかしていた。

濃い紅色のブレザーを羽織り、その下には白に薄くピンク色のチェック柄が入った長袖のワイシャツ。胸元には第一学年を示す、赤の下地に横一直線の黄色いラインが入った蝶ネクタイに見えるリボンをつけている。因みに学年が上がるごとに横線が増えていくらしい。

スカートはいわゆるタータン柄で、黄土色を基調に赤と青を合わせた太い線が十字に通っている。

そして紺色のハイソックスに、まだ外に出ていないからと室内でローファーを履くその姿は、目の前に立つ小さい頃からの知り合いも、もう高校生になるのだということを印象づけていた。

「んでねんでね、今度の日曜日、デートしようよ? 思い出作りたいじゃん?」

「デート? なに恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言ってるんだ、それに思い出と言ってもいつも一緒にいるじゃないか」

「え、なにそれ? 告白ですかっ!? お前と一緒にいる時間が常に人生の思い出だよ! 的なやつですか!?」

「は、ばっか! そんなんじゃねーよ! 改まってするようなことかって話だ」

目をキラキラさせ、両腕をガッツポーズのように握って両膝を立てる幼馴染を少し熱くなった顔で横目で見る。

凛のやつは、こうやってすぐに調子に乗ったことを言い出すんだ。俺は冗談だってわかっているが、変なやつに同じようなこと言って勘違いされても知らないぞ?

「それに思い出ってなんのだよ」

「だって今度の日曜日、中学最後のホワイトデーじゃない? ハジメちゃん、バレンタインデーのお返しはいっつもそこら辺のお店で買ってきたお菓子ばっかだし……」

「ああ、そうだな。確かに最後って響きは色々と特別な感じがするのは確かだが」

今年も凛からはバレンタインデーチョコを貰った。
毎年手作りのチョコを貰っているため、俺も手作りで何かをあげるべきなのかもしれないが、生憎と家事スキルはあまり持ち合わせていないため抱き合わせのもので済ましてしまっていたのだ。

因みに今日は水曜日だ。金曜日には本当は今日にでも彼女のいう通り、お返しのギフトを探しにいくつもりだったのだが、こうして暇さえあれば制服姿を見せびらかしに来るものだから予定が狂ってしまった。

「だ・か・ら! ここ十五年間を振り返ってわたしも考えたわけですよ! やっぱり、物理的なものじゃなくて、記憶に残るお返しも欲しいって!」

「そういうものなのか?」

「そういうものなのですっ」

とは言うが、思い返して見ても俺の記憶の中では大体いつも凛がセットになっている。
家が隣同士というのもあるし、何より俺に妙に懐いているようで、昔からベタベタとくっついてきていたのだ。

今日もそうだが一応は俺も男だというにもかかわらず当たり前のように自室に居座っているし、流石にもう高校生になるというのにいつまでも貞操観念が薄いままだというのは少し心配だ。

「んー……仕方ないなぁ、じゃあホワイトデーのお返しはデート--じゃなくてお出かけっていうことでいいか?」

だが俺もそんな彼女のことをどうも悪くいえなく、こうして要望を受け入れてしまうのだった。
俺の曖昧な態度も凛の甘え癖(?)を加速させているような気もするので、やはり高校生になるのだからいい加減大人としての態度を身に付かせるべきであろう。
まあ、今回のところはホワイトデーというのもあって言うことを聞いてやることにしたのだが。

「はーい! ありがとーハジメちゃん! 流石だねっ」

「お、おいっ」

すると凛は喜んだ様子で花咲く笑顔を見せながら抱きついてきた。
ムギュギュ、とその胸がブレザー越しに押しつぶされるのがわかってしまう。
だからこういう所をだなあ……

「凛、はなせって」

「え〜〜〜、いや〜〜〜」

今度はさらに俺の頬に頬擦りをしてくる。すべすべの肌と女の子特有の良い匂いが直に感じられて内心ドギマギとしてしまう。

「なんでだよっ」

少し強めに押してやるが、イヤイヤと離そうとはしない。

「あーもうまったく、めんどくさい奴だなあ……」

遂に根負けした俺は好きにさせることにした。やはりこいつの純粋さには敵わないな……










そうして日曜日。卒業式も終わり、本当に中学生が終わったんだなあと感慨深げなものを身に込めながら凛と待ち合わせをしている。
"お出かけ"の場所は結局近所にあるデパートとなった。
商店街もあるのだが、今回は大人な雰囲気がいいとよくわからないことを言われたのでそっちにしたのだ。
幼馴染だし家も隣なのだから一緒に行けば良いじゃんとは言ったのだが、『これはデートだからそんなんじゃだめっ!』と結構な剣幕で怒られてしまったので従うことにしたのだ。

デパート一階にある待ち合わせスポットとなっている泉の前で待つことかれこれ三十分は経つだろうか、休日ということもあり、家族連れの人も多く見受けられるし、他にもリア充……じゃなかった、カップルらしき男女の組み合わせもチラホラと確認できる。
確かにここの雰囲気的には、そこら辺のお店に入るよりかは背伸びしたように感じられるであろう。

なので俺も一応ではあるが、髪の毛も整え服装も俺的にキマっているものを選んだ。一張羅というわけではないが、お気に入りのジャケットにスラックスを身に纏っている。

「ご、ごめん、お待たせ!」

「ん? 凛、なのか?」

「え? そうだよハジメちゃんっ、遅くなっちゃった」

「い、いや、別にそれは良いんだが……」

声と歩き方でわかったが、小走りでやってきた幼馴染はいつもとだいぶ雰囲気が違い、大人びている。

基本結んでいる髪の毛は流してパーマがかけられており、いつもはあまりしていない化粧もバッチリと決まっている。
黒のタイトなニットセーターに紺の上着、下はクリーム色のフレアスカートにパンプスだ。腕にはこいつそんなもの持っていたのかと少し驚くブランド物のバッグを下げている。

「ど、どうかな?」

モジモジとして様子で上目遣いを向けてくる。

「あ、ああ……正直いうと、見惚れたよ。凛ってそんな雰囲気も出せるんだな」

「えー、なによそれ、いつもの私はどうなの?」

「えっとそれは……さあいこうか」

言わぬが花、というやつだろう。せっかく本人も準備に気合を入れてきたようだし、いつもの彼女を指摘するのは野暮というものだ。

「ええっ!? なんでよハジメちゃん、まったくもうっ」

と言いつつも、凛は俺の横にピッタリとくっついて共に歩み始める。

「それで、どこにいくんだ?」

「うん、えっとね、まずはこうしようよっ」

「おおっ!?」

すると、俺の腕に自らの腕を絡めてくる。当然、その強調された胸も押し付けられて、柔らかい感触が俺の右半身を襲った。

「り、凛?」

「言ったでしょ、これはハジメちゃんからのホワイトデーのプレゼント、『デート』なんだからね? 今日一日、ハジメちゃんには恋人のフリをしてもらいます!」

笑顔で俺の顔を見てくる。パンプスを履いているため、いつも少し下にある彼女の顔が間近に迫り、己の心臓の鼓動が早くなる音が感じられる。

こいつ、こんなに可愛かったっけ……?

「ま、まじか」

どうやら、俺は市販の菓子の代わりに大変なものをプレゼントさせられるようであった。


          

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