俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第95話


「魂を分割……するだって?」

「そう。神界には、勇者の『器』側の魂を保管する施設があって、そこに魂がある限り、こちらで死んでもいくらでも生き返ることができるシステムなのよ。でもその分、力も一緒に分割してしまっているため本来得られるべき力が手に入らない。だから、勇者の器に本来持つべき力、つまり先ほど言った『水』を注ぐ魂を用意しなければならないの。『水差し』側の魂は勿論そのまま転生するから、異世界転生することによって本来得られる力をそのまま得ることができるわ」

「じゃあ俺は、ベルに力を分け与えるためにこの世界に転生したというわけか?」

彼女の魂の幾分かは、神界のどこかに保存されていて。その穴を埋めるために"異世界(つまりここ)と共感することのできる凛の魂と共感し合っていた俺の魂"が転生させられたというわけか。

「そういうことになるわ。でも……」

「でも?」

ベルは何かを言い澱むように口をパクパクとさせている。

「ならば、そこは私が説明してやろう」

「!」

途中から黙りこくっていたカオスが口を開く。




「この世界に本来転生するべきだった人間は、勇者ベル。貴様一人だけなのだろう?」




「っ!」

「なに?」

「だが、神界の上層部から横槍が入った。この世界ではない、そう、お前たちの魂が元いた地球という世界の神であるグチワロスに対してな。あいつは、我々の協力者であるのだ」

「……は? グチワロスが、カオスの協力者だと?」

そんな馬鹿な、曲がりなりにも神であるのに、その自分たちの世界神界をどうにかしようとしている奴らに賛同しているというのか?

「グチワロスは、地球という"魂の倉庫"の管理人なのだ。『地球』は、異世界に適合する魂が生まれやすいように調整されている所でな。そこを我々カオスは倉庫と呼んでいるのだ。奴は要請された他の世界で必要となる魂を持つ人間を殺し、その神のもとへ飛ばす役割を担っている。もう一方の、受け入れ先である世界の神である女神ドルガドルゲリアスは、この『異世界ドルガ』という我々曰く"養殖場"の管理人。その魂を出迎え魔王を倒せるように調整する役割を持っている」

「……倉庫に、養殖場、だと?」

異世界転生に全く関係なさそうな単語が出てき、さらに驚きを大きくする。

「まあ慌てるな。そもそも地球自体、他の世界のバランスを整えるための魂を保管するために作られた世界。先程の説明の通り、二人一組で肉体を殺し"器と水差しのセット"としてそれぞれの異世界へと配分する。そして、この『世界ドルガ』は、そんな数ある転移先の世界の中でもより速いペースで安定して魔王が生まれる世界であるのだ」

「魔王が生まれやすい、つまりは定期的に正の魂を投入し続けなければならないというわけか」

「少しずつわかってきたようだな。ただ一つ補足しておくと、別に"地球からこの世界に来る魂が多い"わけではない。あくまでも"地球で自然発生する魂が他の世界と適合しやすいように設定されている"という話だ」

カオスは生徒に授業を行う教師のように指を一本立てる。

「そもそも魂というのはその世界でも他の世界でも適合しないものがほとんどだ。そのうえで時たま、"そっちの世界にこちらならばうまく活用できる魂が生まれているようだから渡してくれ"とそれぞれの世界を管理している神同士のやり取りがなされる。この『ドルガ』においても、地球ではない"基"となる世界からここへ来る魂の方が圧倒的に多い。今回は、お前たちの魂がたまたまこのドルガという世界に適合していた、それだけだ」

じゃあ、地球には今までもこれからも、俺たち以外にも異世界を救うために殺され、飛ばされる人たちがたくさんいるというのか? そしてそれは他の倉庫となっている世界でもそうで。
逆に、地球でも魔王みたいなのが定期的に発生していて、人知れず戦いが行われていたと?

「割合としては、倉庫となる世界が一あるとすると、その受け入れ先となる養殖場は千存在すると思ってくれたらいい。なに、多すぎると思うか? だがしかし、何も一気に千人が死ぬわけではない。世界により魔王の生まれるタイミングもバラバラであるし、そもそも今の地球の人口から考えると千人程度そこまで多くはないだろう?」

「そ、そういう問題じゃないと思うが」

「--というのが神々の言い訳だ。その通り、貴様の中で今浮かび上がっている感情が本来ならば正しいはずだ。幾ら他の世界を救うためとはいえ、その世界にいた元々の存在は強制的に殺されてしまうのだからな。"異世界を救うために今の肉体を捨てて死んでくれ"と言われて一体どれほどの人が納得するのか? 中には喜んで転生するような者もいるかもしれないが、大多数は自分がそんな目に会いたくないと思うのが当たり前だ」

そこはカオスの言う通りだろう。元の世界に遺された者たちだって魂を持った生ける物なのだ。どんな理由であれ家族や友人、恋人など親しい人が死ぬところを見るのは悲しいし辛い。
それに本人もその世界で成し遂げたいこと、人間関係、喜怒哀楽あらゆるものを持ち合わせていたはず。それは俺や"凛"も同じだ。

「だが、神々はその世界に干渉する力を持つ。なので自然に思えるように肉体を殺害し、魂を抜き取って他の世界へと斡旋する。そうして功績を貯めていき、昇進していく。我々人がいくら抗おうともその法則には逆らえない。いくらシステムを暴こうとも、神という存在自体はそう簡単にひっくり返せるような奴らではない。超常の存在なのだ」

カオスはどこか悔しそうだ。もしかすると以前反乱を起こし失敗した経験でもあるのかも知れない。

「……そして肝心のところだが。そもそもなぜそんなことをするのか? こんなシステムが存在する理由はなんなのか? それは、神の世界は人の命を取引に使う市場であるからだ。殆どの神にとってはそれが当たり前であるし、なんの感情も起こさない。あいつらにとっては人間なぞ資源や商品程度の存在としか認識していないのだ」

神界の神たちにとっては、俺たちの命を殺して他の世界に"売る"のがごく当たり前の日常業務というわけか……俺はその説明に憤りさえ覚えてくる。

「そしてもう一つ、大きな要素なのが、我々が養殖場と呼んでいる世界だ。まず前提となる話をしなければならない。魔王を討伐するために転生させられた魂。その勇者の魂を神々は最終的にどうすると思う?」

「え?」

どうする、とは? そのまま残しておくんじゃないのか? 異世界に転生してその世界を救いました。その後(今俺たちがやっているように)残党を討伐した後、死ぬまでその世界で平和で暮らしました。それ以上はないんじゃなかろうか?

「魔王を討伐できた勇者、つまりは正の魂は、倒した魔王の魂、負の魂を取り込むのだ。取り込んだ魂は正と負の両方の性質を併せ持つこととなり、より大きな安定した魂となる。その魂は神界においては普通の魂よりも価値が高まるのだ。その『価値が高まった魂』はどう扱われるのか?」

「それは……えっと」

「オークションにかけられるのだ。そしてそのオークションの行く末は?」

「オークション? ……保管する、とか?」

「だったらまだマシだ。神たちは----それを他の神に見せびらかすように食べるのだっ。魂を菓子のように喰らい、そしてまた何事もなかったかのように仕事を続ける。いわば神界の作ったシステムは菓子を作る工場の工程なのだ!」

「魂を食べる、だって?」

神といえば、普通は魂を救済したり、選ばれた魂を同じ世界に消化させる存在だと思っていた。それも実際に二人の神を目にして、特にドルガ様と出会ったときはこんなにも素晴らしく崇めたくなる存在がいるのかと心から感動したものだ。
そんなあの人たちが、魂を食べて喜ぶような人たちだというのか。

「神曰く、勇者の魂は美味なのだそうだ。珍味扱いなのだ。だからオークションにかけ、値段を釣り上げ見せ物とする。その価値がより高まるようにな。貴族が高級品を集めるのと同じ、ゴブリンが野生動物を火に炙って取り囲むのと同じ。勇者とは、自分たちの持つ価値観によって一から十まで作り上げた、身内で盛り上がるためのオブジェでしかないのだ!」

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