俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第72話


--ズオオオオォォォォンン!!

「!! なに!?」

夜寝ていると、突然地鳴りが鳴り響く。私は慌てて飛び起き、周囲を確認する。

「なんですか?」

「どうしたの、この音?」

一緒に寝ていたミュリー、エメディアも同様に、辺りを警戒しながら装備を整える。

「あれ、ルビちゃんは?」

すると、エメディアと一緒に横になっていたはずのルビちゃんの姿が見当たらないことに気がつく。

「誰かに拐われたのかも?!」

「いや、エメディア。あの娘がそんな簡単に誰かに良いようにされるわけ……ああ、あったね……」

何せクッキー数枚で奴隷にされてしまうような娘だ。また同じように興味本位で誰かにトコトコとついて行ってもおかしくはない。

「二人とも、あれを見てください!」

だが、ミュリーが窓の外を指差し叫ぶ。

「えっ、ルビちゃん……いや、ルビードラゴン!」

そこにはドラゴン形態となった彼女が暴れているのが見えた。

「急いでいきましょう、何かあったのかも知れないわ」

「だわね」

この後見張りもする予定だったので装備はある程度着込んだまま寝ていた。なので三人揃ってすぐに外に出る。

「ルビちゃん、どうしたの!」

すぐ外では、ルビードラゴンが尻尾を振り回し村人を薙ぎ払っていた。

「なにしてるの!? 罪もない人たちを攻撃するなんて!!」

エメディアが慌てて杖を構えて魔法を唱えようとする?

「<待つのじゃ! こいつらはもう死んでいる。村人ではない!>」

「な、なにを」

「<死体を誰かに使役されているのじゃ。最初からこやつらは、こやつらではなかったのじゃ!>」

ルビードラゴンは念話でそのようなことを伝えて来ながら戦闘を続行する。

「なにを根拠にっ」

「<見ればわかる、とにかく加勢するのじゃ!>」

「で、でも」

私も昔から見知った人たちだ。いきなりやっつけろと言われてもルビちゃんの話に根拠がない限り手を出すことはできない。

「ミュリー、回復魔法を使えば? 死者に回復魔法は効かないはず!」

「そ、そうですね」

と言い、ミュリーが村人の一人に回復魔法を行使する。すると村人の身体が光り、傷が塞がっていく。

「ルビちゃん、やっぱり普通の人たちだわ! 今すぐ攻撃をやめなさい!」

「<そ、そんなはずはないっ。こやつらからは生者の気が感じられん! どうなっておるのじゃ!?>」

生者の気が感じられない?
でも目の前の人たちは確かに死んではいないようだ。回復魔法は天に力を借りる魔法、聖魔法に属するものであり、普通の魔法とは違い別の理屈により働いている力だ。
その回復魔法が正常に機能しているということは、村人たちが死者というのは誤りだということ。

だがルビードラゴンの気の巡りを感じる力も、ドラゴン族に備わっている本能的な能力である。こちらも何千年と保持し続けて来た疑いようのない能力なのだ。

「ど、どちらを信じるのですか?」

「くっ……わかった、ひとまずは村人を昏倒させましょう」

どちらにせよ、見る限りではルビードラゴンが自分勝手に暴れているようではなさそうだ。何か誤解があれば後から話し合えばいいし、ここは彼女に助太刀することとする。

「わかったわ」

「はい!」

そして村人たちに攻撃を仕掛けるが。

「ベル、チャン、アブナイヨ〜」

「イイコ、ハ、ネルジカンダゾォ〜」

「オトウサン、タチモ、シンパイシテイル、デショ〜」

彼らはやけに片言な話し方をし、同時に人外の動きを見せる。腕がありえない方向に曲がりバキバキと嫌な音を立てるが、それでも何事もないかのような表情で不自然な挙動をとる剣を振り下ろしてくる。

「なっ!」

慌てて攻撃を防ぐが、反対側の村人から矢が飛ばされる。

「しまっ--」

「<フンッ!!>」

が、そのタイミングでルビードラゴンの尻尾が村人を弾き飛ばし、家屋へと衝突した。

だがその村人は、あれだけの勢いで攻撃をくらったにもかかわらず、血を流しながらも平気で立ち上がる。確かに、回復魔法が通用しなければ私たちもアンデッド扱いしていただろう。

「あ、ありがとうルビちゃん」

「<かまわん、それよりもどうなっておるのじゃ! 死者じゃないにせよ、この身体の動かし方と言い、普通の人間じゃありえんぞ!>」

村人たちは関節を完全に無視した攻撃や防御を繰り広げ、足の筋肉がブチブチと引きちぎられる音を立てながら武術や魔法を躱すため十メートル近くもジャンプをしたりする。

かと思えば、首の後ろから剣を突き出しこちらの間合いなど完全に無視した特攻を仕掛けてくる。正直、厄介だ。

一体どうなっているのか見当もつかないが、普通の人間相手での戦闘スタイルはとても通用しないだろう。まるでイカやタコのような軟体生物・・・・だ。

「ベル様、ここは一旦引きましょう!」

「でもっ」

「数が多すぎます。周りの村の人々もここに集められているのですよ、不殺傷は無理です!」

「<いっそのこと我が炎で村ごと燃やしても構わんが?>」

「何言ってるの、そんなことできるわけないじゃない!!! ここは私のふるさとでもあり、何よりヴァンにとってとても大切な土地なのよ! 何か他の方法を考えるべきだわ」

いつもならこんな叫んだりしないのに、私は冷静でいられない自分に余計とイライラしながらも撤退を支持する。

「<むう>」

「ルビちゃん、ここはベルの言う通り一旦引きましょう? ヴァンたちと合流した方がいいわ」

周りを取り囲む村人たちを牽制しながら、エメディアはルビードラゴンをなだめる。

「ですね、ドルーヨ様たちの様子も気になりますし……」

「ここにいますよ、大丈夫ですか皆さん!」

と、ミュリーが呟くといつのまにかこちらへと来ていたドルーヨが話しかけてくる。

「ドルーヨ! ジャステイズも!」

「ベル、どうなってるんだこれは! 村人たちを切り伏せる訳にもいかないし、こちらは防戦一方だっ」

ジャステイズはどうやらその正義感からか村人に攻撃するのを躊躇っていたようだ。その証拠にあちこち傷がついている。

「ともかくベル、転移魔法を使えるか? ヴァン達のところにひとまずは行こう」

「だわね、それから作戦を考えましょう」

「<わかったのじゃ。だがその前に。お主ら耳を塞ぐのじゃ!>」

「え?」

と、ルビードラゴンは口を大きく開き息を吸い込むと、頭が割れそうなほどの大音量で咆哮をした。

「いいいいいっ」

「くううぅっ」

「あ、頭がっ」

「ふえぇ〜」

流石にこれは様子のおかしな村人たちも効いたみたいで、皆一様に蹲っている。だがこちらにも影響大だ。ミュリーがあをてて範囲回復魔法をかけ、皆の耳を治療する。

そして私たち六人は、人間形態へと成ったルビちゃんを伴いヴァンが見張りをしている場所へと転移した。






「ヴァン!」

村の近くにある森付近へ飛ぶと、そこには三人の人影があった。

一人はヴァン、そしてもう一人は一緒に見張りをしていたデンネル。ふたりとも既に戦闘をした後なのか、あたりの地面は所々に穴が開いており、私たちが間に合わなかったせいで地面に倒れ伏してしまっている。最後は……女の子?

だが、女の子は手や足から触手のようなものを生やしている。
まさか、魔物……いや、魔族!

「皆んな、戦闘体形!」

私が言い終わる前に皆も気づいたのか、ジャステイズと私が前衛、ドルーヨが中衛、エメディアとミュリーが後衛。そしてルビちゃんは忙しないが再びルビードラゴンとなりそんな私たちの横へと移動する。

「あらァ、皆さんこんばんわァ〜! 勇者様ご一行ではありませんか! どうも初めましてェー!」

少女は手足を元に戻し、お辞儀をしてくる。

「貴方、誰っ?」

「私、魔族の元老院の『末席』であるスラミューイと申しますゥ〜。どうぞよろしくそして死ね!!!」

スラミューイと名乗る少女は、両手を太いトゲのようなランスの形状にして私たちに攻撃して来た----


          

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