俺の幼馴染が勇者様だった件
第33話
11時過ぎ、反乱軍こと目論見通りテナード侯爵軍が現れた。その数は遠くまで見渡せないほどだ。本当に25万人いるのかも知れない。
実際、疑心暗鬼だった部分がある。こんないきなり25万人もの兵を集められるとは考えづらいからだ。これはもしかしたら普段から機会を伺っていたのかも知れないな。尋問するためにも、責任をきちんと取らせるためにも、テナード侯爵は必ず拘束しなければならない。
「まずは足止めからだな」
俺の仕掛けた魔法陣の上に全体が乗ったところで、まずは拘束魔法をかけるのだ。魔法自体は弱いものだが、一瞬でも25万もの兵が止められる事に驚き、足はちゃんと止まるはず。
「よし……いけ!」
俺は魔法陣に繋がる魔導線に魔力を流す。俺は魔力量を一切自重しなかったため、魔導線を伝って魔法陣が一瞬で浮かび上がり、25万人の足元を包み込んだ。
俺は予め考えていた通り、召喚魔法を使う。1メートルほどの鳥が何体か召喚され、空を反乱軍側に飛んでいった。俺は視線を鳥たちと同期する。感覚としてはマルチモニターを見ている感じだ。そのため俺の視界が遮られるということは無い。
視界を覗くと、紫色の光が昇り、兵士たちが歩みを止めていた。既に何人かは行進の勢いで倒れてしまったようだ。それに躓き倒れる兵士も現れ始めた。よし、掴みは順調だ。
「全体止まれ!   倒れたものの救助を!」
「何だこれは、敵の罠かっ!」
「落ち着け、弱い魔法だ」
指揮官が定間隔でいるらしく、それぞれに指示を出したりしている。中には無能な指揮官もいるようだ。
「何事だっ!」
前線の指揮官よりも中程にいる、少し豪華な鎧を着た指揮官らしき人物が、状況説明を求めている。遅いぞ?   あれはテナード侯爵では無いな。グアードから似顔絵を見せてもらったが、もっと顔からして歳をとっていたはずだ。
「はっ、大隊長!   前線の兵士が先の魔法陣に巻き込まれ、歩みを止めた模様!」
「何?   私も感じたが、弱い魔法だった。一瞬で効果は消えたはずだ。一体何をしているんだ。早く列を整えさせろ!」
「はっ!」
どうやらあの男は大隊長らしい。俺は高度を上げている鳥の視線に注目する。全体を俯瞰しているので軍の編成がわかるのだ。
数えたところ、軍は大きくは十のブロックに分かれていた。三列かける三行に、真ん中の列の最後尾のさらに後ろに一つ団体がくっついている編成となっている。言うなれば凸だ。大雑把に計算して一つのブロックに2万5000人程か。
その一つ一つの大ブロックは凸を前にした形みたいに真ん中の列で出っ張っているのが一つある、十の中ブロックに分かれている。これもザッと計算すれば2500人ずつという事になる。
更に、その一つ一つの中ブロックは5列に分かれている。一列に500人といったところか。王軍は500人で大隊長としていたので、さっきのは合わせて500ある列のリーダーの一人という事になる。大隊長が500人いるとか、正に大編成だ。その列も五行に分解されている。これはかなり整頓された軍だ。反乱の意志は本気らしい。
「ん?   一番後ろの中ブロックの真ん中の列、あそこだけやけにくっついているな?」
俺は鳥を一体その列に向かわせる。
「……こいつがテナード侯爵か。かなりうろたえているな。部下の方が落ち着いているなんて、無様な奴だ」
薄らハゲの白髪に無駄に蓄えたヒゲ、窪んだ目元にガリガリの顔。間違いなくテナード侯爵だ。こんなの似顔絵の方がまだマシだ。
「ちっ、固め方が異常だ。やはり足止めくらいで片付けることなんてできないか。よし、次の手だ!」
俺は再び魔法陣に向かって魔力を流し込む。
魔法陣は今度は黄色い光をあげる。
その瞬間、兵士たちが一斉に倒れこんだ。
「ぐあっ!」
「へぶっ!」
「たわしっ!」
兵士達は短く悲鳴をあげたかと思うと、直ぐに動かなくなった。もしかしたら何人か逝ってしまったかもしれない。魔法耐性は人それぞれなので、麻痺魔法が属する雷魔法に弱い兵士も勿論存在するだろう。こんな大人数を一気に制圧するには、俺の今の魔力ではこれが一番手っ取り早かったのだ。
「ふっふっふ、どうだ、麻痺魔法の味は!」
この魔法を使ったので、俺の魔力は既に半減している。あと一回設置した魔法が残っているだけだ。この魔法が決まってくれて良かったと思う。
「……おお、見事に気絶している。流石俺の魔力、余すところなく伝わっているな」
俺は様々な角度から反乱軍を観察する。大丈夫、今の所動いている奴はいないようだ。先程の大隊長や中隊長と思わしき兵士も皆共倒れだ。もはや指揮も何もないだろう。
「テナード侯爵は?」
俺はテナード侯爵を捉えている鳥の視線を見る。
「なっ!」
テナード侯爵は、何故か動いていた。しかも周りの兵士たちも無事な様子だ。一体何故?
「テナード侯爵、敵の姿を補足しました」
は?
「う、うむう。さっさとヤッてしまえ!」
「はっ!」
黒いローブを身にまとった数人の兵士が、杖を掲げた。え、これもしかして--
「「「「怒れる天よ、裁きのつぶてを!」」」」
兵士たちが叫んだ瞬間、俺は雷に打たれた--
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