俺の幼馴染が勇者様だった件
第28話(勇者パーティ紹介)
「改めて紹介するね。左から、剣士のジャステイズ=ヒロイカ=フォトス」
ベルが手のひらでジャステイズを指す。俺は今一度違先程の控え室とは違う部屋を用意して貰い、そこで勇者の仲間を紹介してもらっていた。
ジャステイズの”剣士”は剣術を扱う者の一番初めの呼び名だ。スタートラインに立つ、というやつだな。剣士から始まり、剣聖まで呼び名がある。
「さっきはすまなかったな。改めてよろしく」
ジャステイズは笑顔で接してきた。俺も水に流そう。悪い奴じゃないし、それにベルのことはちゃんと諦めてくれるみたいだしな。
「ああ」
俺は挨拶代わりに軽く会釈を返しておいた。
「次、魔法使いのエメディア」
次にベルは、ジャステイズの俺から見て右隣に立っているエメディアさんを指した。
「よろしく、ヴァン君」
エメディアさんは先程の決闘の際に見せた、哀しそうな顔とは打って変わって晴れやかな笑顔だ。うん、エメディアさんはこちらの方が似合っている。他意は無いぞ、他意は。
「こちらこそ!」
俺は元気よく挨拶を返す。うん、挨拶は大事だもんな!
エメディアさんの魔法使いも、魔法を使って戦う職のスタートラインだ。魔法使いから、大魔導師まで存在する。この王城にも、エメディアさんの父親のように宮廷魔導師が存在し、その宮廷魔導師は大魔導師の位を授かっている。
「次は、賢者のミュリー=バリエン。前は東大陸にあるバリエン王国の神殿の筆頭巫女を務めているのよ」
「は、初めましてっ!   ミュ、ミュリーですっ!   よ、よろしくお願いします!」
「あ、はい、よろしく……」
ミュリーさんは全体的にほんわかした女性だ。髪は茶髪のロング。恐らく20代前半だろう、特にその豊かな胸がぼよんと震えるところが良い……冗談だ、だからそんなムッとした顔で牽制しないでくれ、ベル。
神殿、とは、この世界で一番の勢力を持つ宗教、神聖会の持つ建物で、各国の教会を束ねる処だ。その筆頭巫女、ということはバリエン王国神聖会支部トップという事にもなる。中々お目にかかることが出来ない肩書きだ。
「……こほん、こっちが、格闘家のデンネルね」
「我輩がデンネルである。よろしく頼もうぞ」
「こちらこそ」
デンネルさんはムキムキのおっさんだ。スキンヘッドに吊り目の見た目からは似ても似つかない渋く低い声だ。着ている服は道着?   みたいな物で、紺色に黒帯を締めている。刀と言い、この世界にも、日本に似た文化があるのかも知れないな。フォトス帝国について調べたら少しはわかるかも知れない。
格闘家、というのはそのまま拳や脚を使って闘う職だ。特に位は無い。
「で、最後に、商人のドルーヨ=イエン。イエン商会のトップよ」
「どうも、お初にお目にかかります、ドルーヨ=イエンと申します。ヴァン殿におかれましては」
「ああ、それいいから」
ベルがドルーヨさんの自己紹介を遮った。
「……ベル殿は手厳しいなあ」
ドルーヨさんは好青年といった趣の男性で、爽やかな笑顔に、黒髪のショートヘアだ。ジャステイズとはまた違った格好よさがあるな。商人とはいわずもがな商売をする人々のことだ。店を構えたり、出店を主に出していたり、中には旅商人として各地を放浪する者もいる。イエンさんは商会の人間だから、だから、そこそこの数かもしくは規模の店を構えているはず……うん?   イエン商会って……えっ!   イエン商会!?
「なっ、イエン商会の……トップ?」
「あはは、そんなに驚かれなくても宜しいのでは?」
「誰でも驚くと思いますが……」
イエン商会は一言で言えば、泣く子も黙る、いや寧ろ世界中の商会がその存在に泣いている、今ノリに乗っている商会だ。王城にも、何回も出向きの商会幹部が訪れていた。また、品揃えも豊富で、庶民目線の商品が多数あることから、幅広い客層を担っている。
イエン商会が台頭し始めたのは、約5年前。ということはつまり、実質3年で世界を支配せんとする勢いを作り上げたというわけか。これは相当のやり手だぞ。
「以上が私達、勇者とその仲間よ」
ベルが手を後ろに組み、ニコニコとそう言った。嫌、言い切った。
「……ベル、俺の勘違いじゃなきゃ良いんだが」
「なに?」
「俺が2年前、王城で勇者をバルコニーで見たときには、仲間は7人いたと思うんだが。でも今は5人しかいない。答え辛いかもしれないが、他の仲間は、その、何処に行ったんだ?   気になってな」
確か、後は男と女が一人ずつ居たはずだ。
「…………」
ベルは笑顔のまま固まっている。
「べ、ベル?」
「うん?   何、ヴァン」
「あの、だから」
「いないよ?」
「え?」
「この他に”仲間”は、いないよ?」
ベルは何とも無いような調子で言った。
「あ、あれ、そうだったか?」
うーん、見間違えたのか?   でも、あんな色々な意味で衝撃的な勇者の壮行会で変な記憶違いをするとこも思えないのだが……
「ベル……」
ジャステイズが渋い顔をしてベルのことを見ている。何だ、まだ何か未練でもあるのか?   もう一度ボコってやってもいいんだぜ。
「なに、ジャステイズ」
ベルは後ろを振り向き、ジャステイズの名前を平坦な口調で読んだ。俺の位置では、後ろを向いたベルの顔は見ることができない。
「嫌、何でも無い……」
ジャステイズはベルの顔を見た途端、キョロキョロと挙動不審になった。さっきから何なんだ?
「みんなも、何もないよね?」
ベルは他の4人も見渡す。チラッと見えた横顔は笑顔だった。別におかしい所は何もない。ジャステイズの奴は何に怯えているんだ。
「う、うん」
「ひゃいっ!」
「うむ……」
「あ、あはは」
エメディアさんは視線を横に逸らしながら答え、ミュリーさんはあわあわとした様子で答える。デンネルさんは静かに相槌を打ち、ドルーヨさんは引きつった笑顔で曖昧な返事をした。ジャステイズだけじゃなく、皆おかしいぞ?
「うんうん、という訳で、ヴァン、積もる話もあるから、一回座ろうか?」
ベルはこちらに向き直り、ソファに座れと促してきた。
「ああ……そうだな、立ち話も何だし」
俺は近くにある部屋の入り口から見て右側の4人掛けになっているソファの、左端から二つ目のスペースに座った。
「皆も座ろう?」
ベルは首だけ後ろに振り返り、皆にも促す。
「「「「はい」」」」
5人が一斉に答えた。ここは国軍の演習場か?
5人は俺とは対岸の6人掛けになっている左側のソファに、左端から順番に座って行った。ジャステイズの横にエメディアさん、エメディアさんから一つ開けた横にミュリーさん、その横にデンネルさんとドルーヨさんといった並びだ。俺から見たら、ジャステイズ&エメディアさんペアとミュリーさん&デンネルさん&ドルーヨさんグループ、といった感じだ。
これはもしかして、ジャステイズとエメディアさんに配慮したのか?   二人がくっつきやすいように、という事なのだろう。まあ、主にエメディアさんに対する配慮だとは思うが。
でも、ベルが間に座ったらあまり意味が無い気もする。
「じゃあ、私も」
ベルはそう言い、何と仲間達の側ではなく俺の皮のソファに座ってきた。しかも俺の右隣にピッタリとくっついて。さらにベルは、俺の腕にさりげなく自らの両手を添えてきた。まるでそういう店にいるみたいだ。5人も俺たちの(正確にはベルの、であるが)そんな様子を見て驚愕の表情を浮かべている。何だこの雰囲気は……?
「あれ?   皆どうしたの?」
「な、何でも無い」
ジャステイズはハッと気づいたような顔をした後、真顔でそう答えた。4人とも咳払いをしたりもぞもぞと座り直したりしている。まるで面接をするかのようだ。
「じゃあ、旅の話でもしましょう?」
ベルがそう言い、王都を出た所から話を始めた。
こうして、奇妙な時間が始まったのであった。
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