俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第27話



--王城、とある広場にて


ジリ………

互いに向き合い、剣を構える。

「「…………」」

「行きます!」

エメディアさんの声が聞こえる。俺は、合図が出されるのを静かに待つ。ジャステイズも、出された瞬間が決着だと言わんばかりの集中力だ。

「5.4.3.2.1.始め!」

その瞬間、光が走った--

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「は?   け、決闘?」

何を言っているんだ、こいつは。たった今、ベルの事を諦めたんじゃ無いのか?

「そうだ、これは男としてのけじめだ。勿論、勝ったからと言ってベルをどうこうするつもりは無い。唯、僕の気が収まらないんだよ」

な、なんだその理由は……自分勝手にも程があるぜ。

「嫌、意味が分からない。決闘なんかしたって、気が収まるもんじゃないだろう?」

「嫌、僕はこれで満足するさ、きっと」

「は、はあ」

うーん、俺には理解できない。

「ヴァン、どうするの?」

ベルが聞いてきた。

「どうするったって、なあ?」

俺はエメディアさんの事を見る。

「ヴァンさん、お願いします、決闘を受けてあげてください」

エメディアさんが今を下げながら言ってきた。

「エメディアさん?」

「ジャステイズは昔から最後はけじめが大事だ、と何事にも諦めませんでした。失敗しても、それを片付けて取り戻すまでが勝負だとも」

「はあ、そうですか。って、その言い方だとベルを奪うまでがけじめになってしまわないか?」

「い、いえ、違うと思います。ねえ、ジャステイズ?」

「ああ、そう言うわけでは無い。僕の中でカタをつけたら、この話は終わり、という意味でもある。負けても勝っても、ベルの心まで奪える訳じゃない。さっきは呪いのせいで色々と酷い事をしてしまったが、あんなのは俺のやり方じゃないからね」

先程の騒動は、一応記憶があったらしい。抗おうとしたが、黒い気みたいなものが邪魔をしてきたとのことだった。

「まあ、そういうなら……決闘なんてした事ないんだけどな。どうやって決着をつけるんだ?」

「剣だ」

「剣?」

「僕は剣士だからね。君が得意かは知らないが、今回は魔法を使わない純粋な剣の腕で勝負して欲しい。駄目かな?」

「……いいぞ、唯、本当に魔法はなしだからな?」

「ああ、約束する。そっちもだぞ?」

「当たり前だ。ベルの前で下手な嘘はつけないからな?」

「もう、ヴァンてば……本当にいいの?」

ベルはまたまた心配そうな顔で俺の事を見つめてくる。くっ、なぜこんなに俺の心をくすぐるんだ!

「ああ、任しておけ、必ず勝って、ベルの許に帰ってくるさ」

「……その言葉、信じるね?」

「おうよ!」

こういう所で男らしさを見せないとな!   4年間いなかった分、きっちりと俺に惚れてもらうぜ。

「ヴァンさん、本当にすみません、そしてありがとう」

エメディアさんが頭を下げる。この人は本当に謙虚で健気で誠実な人だ。ジャステイズめ、こんな良い人をなぜ放っておくんだ?   誰かに取られちまうぞ。勇者の仲間ってだけで、人気が出そうだしな。それにこの見た目だ、庇護欲を誘う雰囲気は危ないものがある。例え強くても、それを発揮できる性格がなければ意味が無いからな。

「いえ、折角ですので、俺も勇者の仲間の力を試してみたいと思います」

「流石に、それは上から目線すぎないか?」

ジャステイズが訝しげな顔をする。

「いや、挑発とかじゃ無いさ。俺もある程度の自信はあるんでね」

「さっき国軍の指導を任されていると言っていたな。まあ、本当ならそれなりに強いんだろうが……魔王軍は、人間とは桁が違ったぞ?」

「そんなのわかっているさ。それでも強がるのが男ってもんだろう?」

「あほは、ヴァン君とは良い友達になれそうだ。この決闘が終わったら、是非我が国に遊びに来てくれ」

「良いなそれ。新婚旅行で行ってやる」

「君は余程の自信家のようだね。まあ、怪我をして暫く寝たきりになることは覚悟してもらおう。そこまで言われたら、僕も本気で相手をしないとけじめにならなさそうだしね」

「おう、掛かって来いよ」

「その台詞は、決闘場でお願いするよ」

こうして俺たちは、純粋な勝負として、決闘をすることになった。そして冒頭にもどる--

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「なっ!」

気付いた時には、僕の剣が折れていた。

「何、名剣なのに……そんな筈は」

「どうした?   剣が無けりゃ勝負はできないんじゃないか?」

「くっ、嫌、まだ予備の剣がある」

僕はもう一つの剣を取り出す。こちらの方が本命だ。

「行くぞ!」

ヴァン君が先程何をしたのかはわからない。然し、この剣は特殊な剣だ、動きを読める訳がない!

「……刀、か」

「は?」

「ほいっ」

バキッ!

「え……」

「……おしまい?」

「そんな、そんな筈、そんな筈あるか……」

「俺まだ本気じゃないんだけど?」

ヴァン君は剣の先を指の間で挟んでぶらぶらとさせている。そう、斬りかかった瞬間、剣の先を真っ二つに折られたのだ。

「いやあ、まさか刀があるとは」

「何故、この剣の名前を?」

この剣は、我が帝国に伝わる刀と呼ばれる種類の剣だ。歯が片方にしか付いてなく、全体的に薄く細めで少し沿っているのが特徴だ。普通の剣とは違い、叩き斬ったり振り回したりするよりも、細かな動きや小さな動きで相手を切り裂く。更に突き刺しても刃こぼれしにくいことから、我が国では槍の先に同じ刀身をつけたりもしているのだ。

だが、幾らプリナンバーとはいえ、まともに情報を仕入れていない筈の東の大陸のことを知っているとは……この男、何者なんだ?

「じゃあ、俺の番ね」

ヴァン君はそういうと、剣を構えた。真剣ではなく訓練用の歯を潰した剣だ。持ってきたときは舐めているのかと怒りそうになったが、実際先程名剣デュラムダンも真っ二つに折られた。

「ま、待て、剣がないんだが--」

「言い訳無用!   戦は待ってはくれないぞ!」

ヴァン君は振りかぶり、僕に向かって剣を……

「そこまでぇーっ!」

エメディアの声が響く。同時に、ヴァンは動きを止めた。

「……ふう、宣言するのが遅いぜ」

僕は、腰が抜けて地面につくばってしまった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ふう、宣言するのが遅いぜ」

危うく本当に切るところだった。まあ、手加減はしたんだがな。

「しかし、これが勇者の仲間?」

俺は、地面に這いつくばるジャステイズを見ながら呟く。レベルが低すぎやしないか?   本当に今まで魔王軍を倒してきたんだろうな?

「なあ、ジャステイズ」

「な、なんだ」

「今のがお前の本気か?」

「……本気と言われれば、本気だ」

「それはどういう意味だ?」

「俺には特殊な能力がある。しかし、今回は俺の方から純粋な腕の勝負と宣言したからな、使わなかったのだ。それに、か、家宝の剣が……」

あー、これは申し訳ないことをしてしまったパターンだな……直してやるか。

「ちょっと貸せよ」

「え?」

「だから、剣と刀」

「何故だ?」

「直してやるからさ」

「はあ?   な、何を言っているんだ、ヴァン君?」

「ほら良いから、貸せって」

俺は渋るジャステイズにイラっとして、半ば無理やり剣と刀を奪った。

「おい!」

「まあ、見てろって」

俺はそれぞれに向かって、折れた部分に手を重ねる。

「……おし、いけ!」

俺は掌に意識を集中させ、魔法を使用した。

「……直ったぞ」

「は?」

俺はそれぞれを掲げてみせる。うん、大丈夫、元通りだ。

「そんな、まるで新品じゃないか?」

ジャステイズは直った剣と刀を見ながら驚く。ふふ、そうだろうそうだろう、修得するまで結構時間掛かったんだからな、これ。

「ヴァンさん、今のはもしかして、錬金術、ですか?」

エメディアさんが駆け寄ってきて、俺に問うてきた。

「あ、はい。そうですが」

「錬金術!   ありえない!」

「ありえない?」

「だ、だって、世界中の研究者が血眼になって研究している技術なのに……16かそこらの者が使える魔法じゃないんだぞ!?」

「だが、実際に使えた。お前の剣も、刀も、直っただろう?」

「……そ、そうだな……事実は受け止めないと……」

そうは言うが、ジャステイズは見てはいけないものを見たかのような顔をしている。さすがに少し傷つくな。

「ヴァン、おめでとう!」

ベルかも駆け寄ってきた。

「ベル!   俺、勝ったよ!」

「うん、ヴァン、かっこよかった!」

「ははは、そ、そうかなあ?」

「ヴァン、大好き!」

チュッ!

「ちょ、ベル!」

「あ……」

ジャステイズが情けない声を上げた。少し優越感に浸ってしまっているのは内緒だ。

「ジャステイズ……」

エメディアさんはそんなジャステイズをみて哀しそうな顔をする。何、この空気……

「……ま、まあ、これでカタは付いただろ?   ジャステイズも、けじめになっただろうし」

「……ああ、そうだな。……すまない、先に戻らせてもらう」

ジャステイズは剣と刀を手に取り、とぼとぼと場内に戻っていった。

「待って!」

エメディアさんが慌て追いかける。

「……ヴァン、ごめん」

ベルが謝ってきた。

「嫌、これで良かっただろ。少なくとも、もうベルの事は諦めるだろう?   それに、エメディアさんもこれからはベルに遠慮することなくなるだろう品 しな」

「ヴァン……そうかな?   そうだと、いいな」

ベルは何か思うところがあるのだろう。浮かない顔をする。

「取り敢えず、戻ろうか?」

「あ、うん。ヴァン、手を繋いでいい?」

「うん?   いいぞ、ほら」

俺は左手を差し出す。

「ありがとう」

ベルも右手を差し出し、俺の手を握った。

「行こうか」


俺たちも、王城に向けて帰って行ったのであった--

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