俺の幼馴染が勇者様だった件

ラムダックス

第24話



--コンコン


「は、はい!」

俺とベルがいちゃいちゃしていると、部屋のドアが叩かれた。それに反応し、ベルが慌てて返事をする。

「お仲間の皆様方が、まだかと尋ねられています。もう少しお待ちした方がよろしいでしょうか?」

声や言葉遣いから察するに、メイドだろう。

「ヴァン、どうしよう?」

「良いんじゃないか?   俺と会うために一人にしてもらっていたのだろう?」

「……えーと、その、本当は考え事をしたいからって……旅の途中ではたまにだけど、一人きりで作戦を練ったり、人々の要望を解決しようとしていたから……」

「そうなのか?   俺に会ったら何か拙い事があるのか?」

「うーん……ヴァンのせいじゃないと思うんだけど……その、仲間の中に、あからさまな人がいて」

「ん?   それはもしかして、ベルのことを好きな奴がいる、ということか?」

「え、ええ、そう。だから、今鉢合わせるとちょっと」

「大丈夫だ」

「え?」

「だから、大丈夫だ。俺とベルの仲はそんな容易く崩れるものなのか?   例えそいつが何か言ってきたとしても、無視すれば良いじゃないか?」

「それはそうなんだけど……」

「歯切れが悪いなあ。何か隠しているのか?」

はっきりこの場で俺と結婚するって言って仕舞えば、例え魔王討伐の旅の仲間だろうと諦めてくれると思うんだが。

「こんなこと言うのは駄目かもしれないけど、盲目なのよ……恋に」

「は?」

「だから、全然諦めてくれないの。無理やり襲ってきたり、私に言い寄る他の人を排除したり、とかは無いんだけど、あまりにも真っ直ぐすぎて……」

「幾ら断っても、今まで諦めてくれなかったと」

「そういうことよ」

……成る程、しつこいタイプのやつか。うし、ここは俺がビシッと決めてやるか!

「ベル、心配するな。どんな奴だろうと、俺がベルを護ってみせるし、追い払ってやる!」

「ヴァン……」

ベルが気難しそうな顔を少し崩し、俺の名前を呟いた。うん、もうすぐ夫になるのだから、愛する妻のために出来ることをしようではないかっ!

「ベル、そういう訳だから、連れて来てもらおう」

「……わかった。連れて来てもらって結構です」

ベルは意を決して扉に向かってそう言った。

「畏まりました」

扉の前のメイドは一言そう答えると、どこかへ去っていったようだった。

「ベル、そいつはどんな奴なんだ?」

「えっと、一言で言うと--」


バン!


ベルが答えようとした矢先、部屋の扉が唐突に勢いよく開かれた。

「ベル!」

誰かが叫び、部屋まで入ってくる。

「えっ、ジャステイズ?   もう来たの?」

「当たり前だ、ベルが来て良いと言ったんだから、来るに決まっているだろう?」

その人物はカツカツとベルの許まで歩み寄って来た。茶髪のセミショートな髪をした、超絶イケメンだ。そこら辺の俳優なら隣に立つことすら出来ないであろうという位の格好良さだ。

「え、ええ、そうね?」

「うん、そうだ。だから、そろそろ付き合ってくれないか?   魔王も倒したし、魔物の数も減ってきている。お金もあるんだ。褒賞で家を貰ったら、もう何も心配することは無いだろ?」

「ジャ、ジャステイズ、ちょっと待って」

「良いや、今までずっと我慢してきたんだ。僕達、2年間ずっと共にいたじゃ無いか?   何か僕に問題が?」

「お、落ち着いて、ジャステイズ……腕が痛いわ」

「えっ?   あっ……ご、ごめん。つい興奮してしまって……」

その男は慌ててベルの腕から手を離し、頭を下げて謝ってきた。

「う、ううん。良いのよ?」

「そ、そう?   あはは」

男は顔を上げ、”いやぁ〜、申し訳ない”とか言い出しそうな笑顔をした。

「ベル、こいつがその男か?」

俺はベルに尋ねる。

「え?   そう。ヴァン、紹介するわ。彼が私の旅の仲間、剣士のジャステイズ=ヒロイカ=フォトス。西大陸にある最大国家、フォトス帝国の皇子よ」

「へ?」

「ん?   ベル、その男性は?」

ジャステイズとやらは、俺のことを怪訝な顔で見てくる。

「ジャステイズ、私の幼馴染の、ヴァンよ」

「幼馴染?   どうしてそんな奴が王城に?」

何だこいつ、ベルの話と違うぞ?   言葉遣いが横暴だ。

「駄目だったかしら?」

「い、いや、ベルが呼んだのかい?」

「そうよ」

「へえ、そうなのか。幼馴染くん、君はもう退室した方が良いんじゃ無いのか?」

「はあ?」

何言ってんだ?

「幼馴染だか何だか知らないが、世界を救った勇者に容易く近づくのは拙いだろ?   ベルも、もう少し考えようよ。危ないよ?」

「危ないって、ヴァンはそんなんじゃ」

ベルは困った顔をしている。

「何なんだお前」

「あ?」

俺はそんなベルを見て、そろそろ止めに入らなければと思い、口を挟んだ。

「ベルが俺にここにいて良いと言ったんだ。お前に文句を言われる筋合いは無いはずだが?」

それに、ベルはさっき、この男は無理やり追い払うようなタチでは無いとも言っていた。

「君の方こそ、部屋に入ってきたら当たり前のようにいたじゃ無いか?   あり得ないとは思わないのか?」

しかしこの男は明らかに上から目線だ。勇者の仲間がそんなに偉いのか?

「あり得ない?」

「ベルに言い寄るだなんて、不敬にもほどがあるって、ことさ!--」


その瞬間、俺は壁に吹き飛ばされた--

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