二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第223話 邪神ガタノトーア


 ニーニャをサイリウス司祭様に委ね、俺たちは走り出す。
 戦いやすい場所を目指して。
 
 中央市場かな。
 フォリスタの地理は完全に頭に入ってる。いやあ、メグが集めてくれた情報のおかげだね。
 とくに使い道はないと思っていたけど、世の中、何が幸いするか判らないな。
 
「人が少ないね! もうみんな避難したのかな!」
 
 大通りを駆けながらアスカが言う。
 
「それもあると思いますけど、そもそも外出禁止令が出てますしね」
 
 応えるのはミリアリアだ。
 そう。
 そこも、この際は良かった部分だよね。
 
 夕方の街並みなんて、普段だったら一番人の多い時間帯だ。そんな場所で悪魔が暴れたら、被害は万単位になってしまう。
 
「よし。こっちに誘導するぞ。なんか一発撃ち込んで注意を引こう」
「んーにゅ。最初っからこっちを狙ってるっぽいよぉ」
 
 俺の言葉にサリエリが首を振った。
 たしかにいわれてみけば、あのバケモノは蛇行しつつもこちらへと向かっているように見える 。
 なんでだろう?
 
「仲間の仇だからではないですか?」
 
 首をかしげた俺に、やはり首をかしげるユウギリ。
 当然のことじゃないか、と、顔に書いてある。
 
 そういえばランズフェロー王国には、仇討ちって風習があるっていってたな。主君とか親とか友人とかを殺した相手を、復讐として殺すってやつだ。
 これは殺人の罪には問われないらしい。
 なかなかユニークな制度だ。
 
 ゆーて俺たち冒険者も、必ず復讐をするけどね。
 何年何十年かかろうとも。本人が死んでいたとしたらその子供や孫に。
 親愛とか友誼の問題ではなく、必ず復讐するんだって評判は冒険者の命をある程度まで守ってくれるからである。
 
「悪魔にそういうウェットな感情はないスよ。ユウギリ」
 
 メグがシニカルな笑いを浮かべた。
 悪魔ってのはこの世界の文明をすべて滅ぼし、その後で自分も死のうっていう壮大な自殺志願者だからね。
 
 その過程で仲間がどれだけ死のうと気にしないし、犠牲者の中に自分が入っていたとしても気に止めない。
 そういう頭のおかしい連中なのだ。




 
 やがて、巨体が俺たちの陣取る中央市場へと近づいてくる。
 
 前衛はアスカとサリエリ。
 やや下がった位置に俺が入り、後衛のミリアリア、メイシャ、ユウギリの三人を守る。
 メグはいつも通り遊撃としてそのあたりに潜んでいるだろう。
 
「大淫婦バビロンを殺したのは貴様らだな」
 
 はるか頭上から声が響く。
 金属をこすり合わせるような、聞いているだけで不快になる声だ。
 
 象の鼻の下あたりに、びっしりと牙の並んだ口が見える。
 そこからしゅうしゅうと瘴気が漏れ出していて、気の弱い人なら見ただけで倒れてしまいそう。
 まさに生理的嫌悪を呼び起こす姿である。
 
「誰だそいつは」
 
 俺はふてぶてしく唇を歪めた。
 たぶんメテウスが食ったとかいう悪魔のことなんだろうけど確証はないし、そもそも予測を語ってやる理由も義理もない。
 正直に、知らないものは知らないと応えるだけだ。
 
「まあいい。貴様らがバビロンを殺していようがいまいが、どうでも良いことだ」
「だったら訊くなよ。悪魔野郎」
「なに。この邪神ガタノトーアが手ずから摘み取るに相応しい命か、確かめたかっただけのことよ」
 
 名乗った瞬間、ずんと頭から押さえ込まれるような感覚が襲う。
 
 崩れそうになる膝を叱りつけ、踏みとどまった。
 相変わらず、このクラスの相手は名前にすら言霊が乗る。神でも悪魔でも、格の違いで膝をついてしまうのだ。
 
 俺たちはもう慣れたものだし、ユウギリもスサノオと対峙した経験があるから、青ざめつつも佇立している。
 
「ほう……こらえるか。人間よ」
「神殺しも悪魔殺しも、慣れてるんでね」
 
「ほざきおる。このガタノトーアを他のていき」
「ホーリーフィールド!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 セリフの途中で発動した巨大な神域がカダノトーアを包み、清浄な光のなか邪神が絶叫をあげる。
 
「もしかしてお話の途中でしたかしら? ごめんあそばせですわ」
 
 メイシャが艶然と笑う。
 もう、咲き狂う毒花のように鮮やかに艶やかに。

 見事な先制攻撃だ。
 俺も続くとしますかね。
 
「秘剣! 皓月千里!」
 
 抜き放った月光から、白い光が飛ぶ。
 それを追うように走り込んだアスカとサリエリが、ガタノトーアの足元に縦横に剣を振るった。
 
「ごぁぁぁぁ!? き、貴様らぁぁ!」
 
 ぱりんと音を立てて、光が砕け散った。
 さすが邪神と自称するだけのことはあるね。力ずくで聖なる結界を打ち破ったか。
 けど、それでがっかりするような、そんな可愛げのある人間は『希望』にはいないんだ。
 
「スリーウェイアイシクルランス! クァドラル!!」
「疾っ!」
 
 十二本の氷の槍と十二本の矢が、同時に巨体に突き立つ。
 
「すべて同時に到達するように」
「計算して撃っておきました」
 
 俺の背後で、バンとハイタッチの音。
 見事な連携を決めたミリアリアとユウギリのものだ。
 
「き……きさまら……」
 
 身体の半分ほども氷漬けにされたガタノトーアが一歩二歩と後退する。
 そこが、いつものようにメグがせっせと作っていたマギビシ地帯なのも知らずに。
 もちろんマキビシたちには、しっかりとホーリーウェポンがかかっている。
 
「ぐおおおおおっ!?」
 
 またまた絶叫とともに、ガタノトーアが大きく後ろへと跳んだ。
 半町(五十メートル)ほども。
 まあ、仕切り直したいだろうね。
 
「人間の攻撃で下がるんだな。えらそうに邪神なんて名乗ってるくせに」
 
 すかさずせせら笑ってやる。
 
 

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