二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第200話 刀匠タンドル


「もしよろしければなのですが、試していただきたい剣がございます」

 そういって主人が持ってきたのは、箱の中に安置された長剣だった。
 魔法の品物ではないようである。

「スペンシルに居を構えます刀匠、タンドルの手になる一振りです」
「握ってみてもいい?」

 主人が頷くのを待って、アスカが手に取る。

「良い剣だね! わたしが最初に使ってたやつに負けないくらい良い剣!」

 軽く振って確かめながらの言葉だ。
 そういえばこいつ、メアリー夫人から金を借りてすごい良い剣を買ったんだよな。

 結果としてそれが良い方に働いた。
 メアリー夫人には大感謝だよ。
 そうでなかったら、俺と出会うより前に死んでいたかもしれん。

「試し切りをしていただけますか?」

 店の奥に設置された打ち込み台へと案内される。
 獣皮を何重にもぐるぐる巻きにしており、ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないだろう。

「んー! 思いっきりやったら打ち込み台ごと斬っちゃいそう!」

 そして異常な発言をするアスカだった。
 斬れないから。
 無理だから。

「はっはっはっ。大丈夫ですよ、アスカ様。中には太い鉄芯が入っておりますから」
「そお? それじゃあ」

 自然体からすっと剣を構える。
 昔はこの動作も無駄だらけだったんだけど、いまじゃ見惚れるくらいに美しい。

「せいっ!」

 そして一閃。

 きんと甲高い音。
 どさりと打ち込み台が床に落ちる。
 何重にも巻かれた獣皮も、木製の柱も、中の鉄芯すら一刀両断されて。

 主人も他の客たちも、彫像のように固まってしまった。

「ごめん! 斬っちゃった! あと刃こぼれもしちゃった!」

 ぺこんと頭をさげるアスカ。
 一瞬の時差を置いて、拍手とどよめきが広がっていく。

 つーか、一回でダメになっちゃうか。
 やっぱり魔法の品物がほしいなぁ。

「ごめんね! おじさん!」
「いえ。いえ。かまいません。この打ち込み台と剣は、このまま店に飾っておきます」

 剣と切り口を交互に眺めながら、主人がほうとため息をもらした。
 まあ、見事な切り口だけどね。

 でも! 俺の月光だってそのくらいできるもんね!




 主人がしたためた紹介状をもって訊ねたのは、刀匠タンドルの工房だ。
 店にはなくても、工房ならアスカの技や速度に耐えられる剣があるかもしれないから、と。

「そのカタナ。エルフの作じゃな」

 そしてタンドルに睨まれている俺である。
 意味不明だろ?

 このドワーフ職人は、アスカよりむしろ俺に興味を持った。より正確には俺が装備している月光に。

「よく判るな。ランズフェローの……」
「クンネチュプアイの作じゃろ。相変わらずお上品で嫌味くさい術式を組み込んでおるわ」

 悪意のない口調で皮肉を飛ばしながら無骨な手のひらをこちらに向ける。
 ひとつ頷いた俺はベルトから月光を抜いて手渡した。

「……ふん」

 じろじろと、本当に舐めるようにじろじろ観察したあと、ぐっと突き返された。

「なになに? なんか気に入らないのー?」
「気に入らんな。これを超える剣を打てるものなら打ってみろと語っているような、完璧な仕事ぶりじゃ。相変わらず鼻につく」

 苦虫を噛み潰したような口調のタンドルだが、迫力はゼロである。
 だって目が笑ってるんだもん。

 旧友に再会したようなって表現すれば判りやすいかな。口ではなんだかんだと文句を言いながら、嬉しくて仕方がないって感じ。

「でね! この月光くらいの剣が欲しいんだ! できるかな! 親方!」

 元気一杯にアスカが言う。
 そうだな。それくらいでないとアスカが使う剣としては役者不足だ。

 もし無理なら月光をアスカ用に調整してもらう手かな。
 俺の武器がなくなってしまうけど、チームとして考えた場合、アスカの戦力を落とすわけにはいかないからね。

「できるか、じゃと?」

 じろっとタンドルがアスカを睨む。
 なかなかの迫力で、おもわず首をすくめるアスカだった。

「小娘はドワーフの職人への質問の仕方もわからんか。できるかではない。いつ完成するかと訊くもんじゃ」
「え? じゃあ!」
「それとな? 高慢ちきなエルフ女と同程度など、失礼にもほどがあるわい」

 ぶっとい指をアスカに突きつける。
 炎を瞳に宿して。
 なんかタンドルの闘争心に火をつけちゃったみたいだ。
 もう、メラッメラですよ。

「五日じゃ。五日で仕上げてやるぞい」
「ありがとう! 親方!」

 キャッキャと喜ぶアスカを、採寸するからと工房の奥へと引っ張っていく。
 すぐに製作に入るってことかい。

 ていうか、他の仕事とか良いんだろうか。
 全部すっ飛ばしてアスカの剣を打ってくれるなんて申し訳ないなぁ。

「親方も気合いが入ってるんですよ。同門のライバルの作品を見ちゃいましたからね」

 お茶を運んできたお弟子さんが、椅子を勧めながら解説してくれる。
 クンネチュプアイとタンドルって同じ師匠について修行をしていたんだそうだ。何百年も昔の話らしいけどね。

「それに、闘神アスカが無手ってわけにもいかんでしょう。グリンウッドとの戦いの最中に」

 たしかにそれは事実だ。

 前哨戦が痛み分けだったから、グリンウッドは慎重になる。おそらく、すぐすぐ再戦ってことにはならないと思うけど、これで諦めて撤退するとはそれ以上に思えない。

 より勝算を高めて、また寄せてくるだろう。
 それまでにアスカの武器が完成しないと、こっちの戦力はがた落ちだ。

 だからタンドルは他に優先してやってくれるということらしい。

「言ってくれれば良いのに」
「そういうことを口に出せる性格じゃないんですよ」

 お弟子さんがからからと笑った。
 

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