二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第196話 前哨戦(前編)


「ふむ……」

 進軍してきたグリンウッド王国軍を遠望して、俺は腕を組んだ。

 ディーシア平原に布陣するスペンシル侯爵軍は二千。対するグリンウッド軍は二千五百といったところ。
 数の上ではほぼ拮抗しているが、どちらの国も総兵力ではない。

 まずは前哨戦で相手の実力を見極めるといった感じであるが……。

「とうしました? ネル母さん」

 声をかけられて視線を転じると横に立ったミリアリアが、心配そうに見上げている。

「なんでもないぞ」

 にかっと笑って見せるが、小柄な魔法使いの瞳は曇ったままだ。
 まいったな。

「母さん。なにか気になることでもあるんですか?」

 韜晦を許さない口調である。
 俺はぽりぽりと頭を掻く。

「敵の数が少なすぎるのが気になってな」
「少ない、ですか?」

 ミリアリアはもう一度戦場となるべき平原へと視線を戻す。

 グリンウッド軍は二千五百で、こちらより兵数が多い。
 しかも前哨戦。
 全力で殴り合う局面じゃない。

「べつにおかしなところがあるようには思えませんが? リントライトとの戦いも、最初はこんな感じでしたよね」
「ああ」

 あのとき王国軍は三千の兵力で進軍してきた。
 俺は奇策を用いてやっつけて、ガイリア軍の士気を上げたのである。

 緒戦に勝つってことを軽んじる人もいるけど、じつは心理効果としてはすっごく大きい。
 最初の敗戦をずるずると引きずって最終的に負けてしまうなんて事例は枚挙に暇がないのだ。

 最後に勝てば良いなんて、まあだいたいは敗戦続きの言い訳だね。
 負け続けから一発逆転なんて、そんな美味い話はそうそう転がっていない。
 つまり、「負けても良い戦い」などではないとということだ。

「二万ちょっとしか遠征軍を用意できなかったリントライトが三千を出した。七万兵力を擁するグリンウッドが二千五百しか出していない。これはどういうことかと思ってな」

 俺が敵の司令官だったら、ここは一万を押し出す。
 圧倒的な多数で叩きのめすわけだから、味方の損害なんかほとんど出ないしね。

 スペンシルの兵が一人で五人以上を倒せるようなバケモノ揃いじゃない限り、細々とした戦術も必要ない。数で押せば良いだけ。
 指揮官にとって、こんなにらくな戦いは存在しないだろう。

「どうもこうも、兵力を出し惜しんでるだけじゃないです? 二千に対して二千五百とか、セコさの極致だと思いますけど」
「だよな」

 あっさりとしたミリアリアの見解に俺も頷いた。

 そう考えれば、たしかに筋が通る。
 数で互角以上。負けない戦いをするには充分だ。

 理屈では判るのだが、どうにも自分を納得させられない。

「今は目の前の敵に集中しよう。予想より少ないとはいえ、それでもこちらよりは多いんだからな」

 俺はひとつ頭を振り、戦場を注視した。





 当初はゆっくりとした動きで前進しつつ、両軍ともに相手の出方をうかがう。
 スペンシル軍は一般的な凸形陣なのに対し、グリンウッド軍は密集隊形を取っているようにみえる。

「防御陣形みたいにみえるねぃ。数で勝ってるのに消極的っぽい~」

 副将役を務めてくれているサリエリが、いつもどおりのへーっと眠そうな声で言った。

「なんでそんな消極的なんだ? 向こうから攻めてきてるくせに」

 意味が判らない。
 しかし、向こうが守りに徹してくれるなら話は簡単である。

 俺がさっと指揮棒がわりの月光を振り上げると、左翼のハサール隊六百名および右翼のザッシマ隊六百名が展開していく。

 どちらの部隊もスペンシル侯爵直参の騎士が指揮している。
 騎士としても指揮官としてもまず立派な男たちで、俺の作戦案にも高レベルで応えてくれる。

「ネルネルの鶴翼はぁ、いつ見てもきれいだねぃ。本当に鳥が翼を広げるみたいに広がっていくのん~」
「お褒めに預かり恐縮恐縮。まあ、侯爵軍の練度が高いってのが一番の理由だけどな」

 サリエリの言葉に笑って応えた。

 これで俺の手元に残る兵力は前衛のアスカ隊が四百と本隊の四百だ。本隊の戦術行動はサリエリが指揮してくれるため、俺は全体を見渡しながら指示を出す感じである。

 そして本隊にはミリアリアやメイシャをはじめとした魔法部隊と、ユウギリを中心とした弓箭兵部隊が含まれる。

 メグは他の斥候たちともに俺の飛耳長目となるため、すでに戦場各所に散っているため、近くにはいない。

 こちらの動きに呼応するようにグリンウッド軍も陣形を変えはじめた。
 遠望するといくつもの集団に分かれようとしてしているように見える。

「魚鱗陣形? こんな平原で?」

 おもわず首をかしげてしまった。

 指揮官にあるまじき行為だ。
 どんな事態に陥っても、指揮を執る人間は自信なさげな姿を見せてはいけないから。

 しかし、そのくらい意外な敵の行動だったのである。

 魚鱗陣形とは、文字通り魚の鱗みたいな密集した小集団をいくつも形成し、全体としては敵の方に頂点を向けた三角形をかたちづくる陣形だ。

 けっこう突破力のある陣形だけど広い平原で使うと、遊兵っていって戦闘に参加しない兵が多くなってしまうし、包囲されたり後方を突かれたりしやすいっていう欠点もある。
 とくに横撃とかくらったら、混乱しちゃって大変なことになるんだよな。

 正直に言って、これはかなりの愚策だ。

 敵の失策とみたハサール隊もザッシマ隊も、より大きくまわるように軌道を変えてグリンウッド軍に迫る。

 そのときである。

「ネルネル! あれ魚鱗じゃないよう!」
偃月えんげつ陣だ!」

 俺とサリエリが同時に気がついた。
 敵は防御すると見せかけて、一点突破の機会を狙っていたわけか。

 やられた。
 一杯くわされたぞ。

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