二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
第186話 さよならルターニャ
とりあえず、金属環はジークフリート号の格納庫に突っ込んでおくことにした。
そしてそのまえに、ルターニャの広場にでーんとブルードラゴンの死体を広げる。
観衆がどよめいた。
そりゃね。いきなりドラゴンの死体が現れたらびっくりするよね。
いくら事前に説明を受けていても。
「母上は本当に持っているよな。探索初日でこの戦果とは」
帰り道でばったり会い、一緒に地上に戻ってきたシュクケイがなんともいえない表情を浮かべた。
いやあ、すごい戦果なのは俺も自覚してるって。
だからこそ、みんなにお裾分けしようって娘たちと話し合ったのさ。
俺たちは今後何度でも『ミノーシル迷宮』に潜ることができるからね。
ブルードラゴンの死体と、隠し部屋にあったマンゴーシュと金属環いがいのすべてのマジックアイテム。
「みんなで分けてくれ。もちろんタティアナたちもな」
「おいおい。本気かお母ちゃん。鱗の二、三枚だって小遣いというには多すぎる金額になるぞ」
あきれ顔のタティアナだ。
俺が加入した当時の『希望』だったら、こんな大盤振る舞いはできないさ。
でもいまは金に困っているわけじゃないし、金属環についての口止めだって必要なのだ。
「ショクケイどのにはこれを。今回の骨折りに対する感謝の証として」
そういって俺が手渡したのは、やはり隠し部屋で見つけた剣である。
サリエリが鑑定するところに拠れば、古代魔法王国時代の文字で『夫れ戦いは勇気なり』と彫ってあるそうだ。
なかなか気恥ずかしくなるくらい格好いい言葉である。
「勇気の剣といったところか。ありがたく頂戴しよう」
「コウギョクへのお土産にしてもいいよ!」
アスカが余計なことを言い、シュクケイが赤くなった。
セルリカの大将軍コウギョクは彼のことが好きだって話を娘たちからきいてはいたけど、案外、ショクケイの方でも憎からず思ってるんじゃないかな。
次に会ったときは結婚していたりして。
ともあれ、俺たちは急ぎマスルに向かわなくてはならない。
期せずして重要アイテムをトレジャーしてしまったから。
で、俺たちが動くってことは、ショクケイと随員のコウも一緒に来てもらうってこと。フロートトレインはジークフリート号一機しかないからね。
まさかこんな異境の地に置き去りにするわけにはいかないでしょ。
ライノスたち『固ゆで野郎』とナザルたち『葬儀屋』は、もう少し『ミノーシル迷宮』を楽しむって言ってたけどね。
こいつらは陸続きだから、最悪徒歩でもガイリアに帰ってこれるし。
ぶっちゃけ俺だって、もう少しダンジョンで遊びたかった。
まさか一日で引き上げることになるとは思わなかったよ。
しょんぼりさ。
都市国家ルターニャに別れを告げ、滑るようにジークフリート号は走り出した。
往路みたいに人目につかないように夜中に走る、という配慮はもう必要ない。
昼間も堂々と走ることができる。
ただ、街道を進んでしまうと歩いてる人や馬車をはねちゃうんで、走るのはもっぱら草原だ。
「結局、三ヶ月近くもルターニャにいたんだなぁ」
「名残惜しいですか? タティアナさんとの別れが」
車長の席で呟いた俺に、耳ざとくミリアリアが反応する。
名残惜しいというのとは、少し違うかな。
「良い戦友だった。またいつか、肩を並べて戦ってみたいもんだな」
一人一人が精強で、じつにまっすぐな兵士たちだった。
ダガンっていう脅威がなくなったから、三百人程度まで兵数を減らして生産力向上に努めるってタティアナが言っていたな。
「異性としてどうだったか、という趣旨の質問だったのですが、もういいです。母さんに色恋のことなんか判りませんよね」
はぁぁ、と、でっかいため息を吐くミリアリアだった。
「失礼だな。お前。俺だってルターニャにいる間、色っぽい出来事のひとつやふたつ……」
……なかった。
なーんにもなかったよ! こんちくしょう!
軍を指導するのと、山賊やダガン帝国との戦いしかしてないよ!
俺の三ヶ月、潤いなさ過ぎないか?
「母ちゃんだからね! 仕方ないね!」
「ネルママは仕方ないですわよね。わたくしの胸に顔をうずめて寝ますか?」
わけのわからん慰め方を、嬉しそうな顔でするんじゃありません。
まったく、俺がモテなかったことがなんで嬉しいんだか。
わいのわいのと騒ぎながら、フロートトレインは快調に駆けていく。
かつての敵国、ダガン帝国を突っ切って。
そして、六日ほどの走行ののち、マスル王国の王都リーサンサンが見えてきた。
相変わらず、惚れ惚れするような速さだよね。
で、途中経過をすべて省いて言うと、俺たちが献上した金属環について、魔王イングラルは非常に喜んだ。
そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「かわりにジークフリートをやる」
と。
うん。ちょっと落ち着こうか、魔王さま。
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