二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第184話 ブルードラゴン


 あまり寄り道をせずに下を目指す。
 というのも、ダンジョンというのは浅い階層に素晴らしい財宝があるというケースが少ないからだ。

 理由はわからない。
 深いほど良いものがある、というのが冒険者連中の常識である。

 それにまあ、浅い層のお宝は他の人に譲っても良いかなーという思いもあるのだ。

 俺たち以外にこの『ミノーシル迷宮』に潜ってるのは七チーム。
 シュクケイのチームはがんがん進むだろうけど、そこまで戦力が豊かじゃないチームだってある。

 そういう連中は第一層とか第二層を動き回るだろうからね。
 彼らの楽しみを、わざわざ奪う必要もない。

「七層でオーガ。ラクリスより強い感じですね。母さん」
「あっちじゃオーガの登場は十六層くらいからだからな」

 氷漬けにされたりハリネズミにされたりしている哀れな人食い鬼どもに視線を投げながらミリアリアが言った。
 オーガ六匹ていどだと、こちらはダメージを受けなくなったね。

 視認する前に、メグが存在を感知してくれる。
 そして接近する前にミリアリアの魔法とユウギリの弓矢が数を減らすのだ。

 内訳は、スリーウェイアイシクルランスで三匹、矢で一匹。
 ユウギリの弓矢は魔法ほどの威力はないけれど、とにかく連射が効くのが大きい。
 発射直前に狙いを変えるとか、そういう曲芸じみたこともできてしまうしね。

 で、残り二匹となったオーガは、アスカとサリエリが一匹ずつ倒した。
 危なげもなく。

 もう彼女たちは、オーガと一対一でおくれを取ることはない。

「わたくしやネルママは出番なしですわね」
「プリーストや軍師は出番なんかない方がいいさ」

 回復が必要ってのは互角だということだし、戦闘中に作戦を変更しなくてはいないのは追いつめられている証拠だ。
 誰も怪我をせず、作戦を変更することなく進めるというというのは順調な証拠だろう。

「そろそろ階段じゃなくて宝箱を探す?」
「まだいいだろ。十層を超えたら懐を潤していこう」
「りょーかい!」

 元気に応えるアスカだった。





「たぶんここ広間スね。構造的に、階段もこの先ス」

 野帳を見ながらメグが指をさす。
 えらく立派な扉が目の前に立ち塞がっていた。
 第十層である。

「ボス部屋かな?」

 冒険者連中がつかうスラングだ。
 うろうろせずに、どっかりと拠点に腰を落ち着けているモンスターがダンジョンにはいるのである。
 それが、ボスと呼ばれる存在だ。

「たぶんそうスね。やたらとでっけー気配を感じるスよ」
「ミリアリア。魔力反応はどうだ?」
「絞りきれません。扉の向こうからいくつもの魔力を感じます」

 人差し指を唇に当て、集中したままミリアリアがいった。
 やはり特別な何かがいると考えて間違いないだろう。

「いくか」
「もちろんスよ」

 にっと笑ったメグが、扉に鍵や罠がないかチェックする。
 左手を挙げ、仲間に下がるよう指示したのをみると、おそらく罠があるらしい。
 腰に巻き付けた鞄から七つ道具を取り出し、手早く解除作業に入る。

「警戒しないで入ったら、毒ガスに包まれるって寸法スね。陰険な罠ス」

 これからボス戦なのに毒に冒されてしまうというのは、かなり控えめにいっても最悪である。

「よし。これでいつでもいけるスよ」

 そう言って、メグの姿がすっと迷宮の空気に溶けていく。
 隠形したのだ。
 戦闘が始まってからするより、最初から消えていた方がずっとラクなのだと前に言っていた。

 俺は視線で仲間たちにいくぞと伝え、扉に手をかける。
 部屋の中は、無茶苦茶広かった。
 先が見えないほどだ。

「ウィスプたん~~ いっぱいきてぇ~」

 すかさずサリエリが光の精霊を呼び出す。
 その数二十体近く。
 大盤振る舞いだが、それを咎める気にはなれなかった。

 なんと、それだけの数の光でようやっと全景が確認できるほどの広さだったのである。
 具体的には半町(五十メートル)四方ほどだろうか。
 高さも三間(九メートル)は、ゆうにありそうだ。

 そして中央部に小山のようなものがうずくまっており、半目を開けて入ってきた俺たちを見つめている。

 青銀に輝く鱗、剣みたいに伸びた爪、頭から尻尾までの全長は四間(十二メートル)近くありそうな巨体だ。
 ブルードラゴンである。

「まじか。十層でドラゴンがでるとか」
「なんだろう。ヤマタノオロチを見たせいか、すっごく小さく見えるね!」

 とんでもないことを言うアスカだった。
 そりゃアレと比べたら、どんなモンスターだってちっちゃいでしょうよ。
 二町(二百メートル)を超える巨体と、ジークフリート号よりも長くて太い首を八本も持った怪獣ですよ。

「お前はなにを言ってるんだ」
「アレよりは弱いだろうって話だよ! 余裕だね!」

 ぱっちんとウインクを決める。
 その思考回路、すごく羨ましいです。

 最強の魔獣という異称をほしいままにするドラゴンを目の前にして、びびるどころか余裕ぶっこいてますよ。
 うちの娘ったら。

 お母さん、ちょっと育て方を間違ったかもしれないわ。

「サンダーブレスとサンダークローに警戒しろ」
『はい!』

 娘たちが元気一杯返事をする。
 よし。
 足がすくんで動けない、なんてやつはいないな。

 それじゃあ、いきますか。
 竜殺しドラゴンスレイヤーの称号をいただきに。

「戦闘開始だ!」
『了解!』

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