二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第170話 それはダメだ!


 数の上では六対六。
 しかし、こちらには魔方陣力があるから総合力でははるかに勝る。

 簡単にいってしまうと、俺たち前衛はミリアリアの詠唱が終わるまでの数秒を稼ぐだけで、ものすごく有利になるのだ。

 スリーウェイのアイシクルランスなんか、同時に三人を倒すことができる。
 あるいは一回キャストしてダブルで放てば、敵はいきなり全滅だ。

 さらに、仮に負傷してもメイシャの遠距離回復ロングヒールが飛んでくる。
 軍師でなくたってこの有利さが判るだろう。

 だから敵としては、まずスペルキャスターを潰そうとする。
 メイジを狙うかプリーストを狙うかは状況次第だけど、一般的な戦術ではまずプリーストを狙えっていわれてるね。
 回復魔法と支援魔法を延々と使われるってのは、かなり面白くないから。

 単純に攻撃力をダウンさせようと図るなら、メイジを潰すってのも手だ。攻撃魔法を封じてしまえば、最終的に数の差で押し切れるからね。

 とにかく、敵としては魔法戦力を潰したい。味方としては魔法戦力は絶対に守り抜かなくてはならない。
 だからこそ、メイシャとミリアリアには必ず護衛がつくのである。

 普段は俺。
 でも、いまは俺は前戦に出てしまっているから、メグが代わりを務めてくれている。
 フォーメーションに不安があるとすれば、その部分だけだ。

 スカウトのメグは本来、遊撃に使ってこそ活きる戦力なのである。
 やはり俺が下がるべきか。
 アスカとサリエリなら三人を引き受けて押し負けることはないだろうし。

 ほんの一瞬だけ、俺は判断に迷った。
 もちろん長時間じゃないよ。本当に一瞬だけ。

 けどその一瞬のせいで対応がわずかに遅れてしまった。
 敵の奇策に対して。

「露骨に俺狙いっ!?」

 砂時計から落ちる砂粒が数えられるほどの時間だけど、後衛に視線を投げたのが災いする。
 俺が視線を戻したときには、柿色装束の四人が俺に向かって突進していた。

 アスカとサリエリには一人ずつだ。
 たぶんそっち方面は勝つ気はない。足止めで充分だと考えてるんだろう。

 前衛の位置にいる三人のうち、まず最も戦闘力の低い俺を倒そうとしているのだ。そして同時に、指示を出している頭を潰そうと。




 次々と繰り出される斬撃を月光で受け、あるいは回避する。

 無理!
 とても全部はさばけない!

 喰らったらまずそうなものだけ対処しているけど、俺の身体にはどんどん傷が刻まれていく。

 ミリアリアの魔法は……まだ完成しないか。
 あー、こいつはダメかもわからん。

 一対一で戦っても勝てるかどうか判らない相手が四人。そいつらに囲まれて切り刻まれてるんだ。

 と、俺の身体が淡い光に包まれた。
 傷の痛みが溶けるように消えていく。メイシャのロングヒールだ。
 ありがたいけど、焼け石に水かな。

「失敗しましたわ。神の衣ホーリーアーマーにすればよかったですわ」

 舌打ち混じりの声が聞こえる。
 その通り。この局面でダメージを回復させても意味がない。むしろこれ以上の傷を負わないように防御魔法をかけるのが正解だ。

 けど、ダメだぞメイシャ。
 そういうのは声にも表情にも出さないようにしないと。
 俺が死んだら、お前が新しいリーダーなんだからな。

 ごく間近に死神の吐息を感じながら、俺は埒もないことを考えていた。

 回復はしてもらったものの、それは死ぬのを数秒遅らせる効果しかない。
 柿色装束四人の攻勢は凄まじく、もう俺の命は風前の灯火だ。

 アスカとサリエリが向かってきた敵を倒して駆け付けても、対面するのは俺の死体だろう。

 ミリアリアの魔法も間に合わない。
 俺が死んだ直後くらいに敵に降り注ぐ感じだ。

 ようするに、『希望』としては勝つけど俺は死ぬって結果だな。

 けどまあ、俺にしては上出来だろう。
 娘たちが死んで俺が生き残るなんて、絶対にダメだからね。

 四方から迫り来る致命的な攻撃を見据える。
 敵もどうやら勝負に出たな。この一撃で決めるつもりだ。

 すべてはかわせない。どうやっても、ここで終わりらしい。

 せめて一人は道連れにしてやる。
 そう思い定めたときだ。

 どん、と、突き飛ばされる。
 どこから? と、考える余裕はなかった。

 俺を突き飛ばし、そのポジションを奪ったアスカが切り刻まれるのが視界に入った。

 左腕を切り飛ばされ、腹を刺されながら、柿色装束の一人を切り伏せる。
 吹き上がった鮮血が、月の光に照らされて青く染まった。

「アスカ!?」
「母ちゃんは……わたしが守るんだ……」

 切れ切れの言葉。
 どちゃりと、自らが作った血だまりに倒れる。

 うそだろ……?
 そんなばかな……。

「ダメだアスカ!! それはダメだ!!」

 絶叫が、夜の庭に響き渡る。


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