二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第144話 交渉gdgd


「くっ!」

 引き起こされたメグが舌を出し、思いきり噛み切ろうとする。
 足手まといになるくらいなら自ら死を選ぼうと。

 俺が止める暇もなかった。
 しかし、彼女が噛んだのは自分の舌ではなく咄嗟に差し出された男の腕だ。

「いてて。おやめなさい。お嬢さん。舌なんか噛み切っても痛いだけで死ねないから」

 優しげな声。
 甲冑をまとわず、黒っぽい服を着た男だった。
 年齢は俺より少し上くらいか。

 男の腕に噛みついたまま、メグがふぐーふぐーと叫んでいる。
 ていうか、そこから口を離さないと喋れないんじゃないか?

「君が軍神ライオネルだな」
「そうだ。降参するからその子を離してくれ」
「それはできない相談だ。なにしろ俺たちは盗賊団だからな。安全が確保されるまでの人質になってもらう」

 こんなに強い盗賊団がいるかよ、と思ったが、俺はなにも言わなかった。
 それ以上に大切な交渉の最中である。

 アスカとサリエリも剣を鞘に収め、地面に置く。
 一つ頷いた敵の女剣士が、首領らしき男のそばへと寄っていった。

 その隙を突いて、ミリアリアが小さく小さく魔法を使う。
 といっても敵に対してではない。
 そんなことをしたらメグの命が危ないから。彼女が使ったのは『地獄耳』の魔法。周囲の音を拾うだけのしょうもない魔法である。

 だが交渉の場に置いて、相手の内緒話を聞き取れるというのは非常に有利に働く。
 そこまで読んでの魔法選択だ。

 ミリアリアはまだ諦めていない。必ず勝てと背中を押してくれる。

「どうすれば解放してもらえる?」
「俺たちはこの土地から退去する。無事に行かせると保証してもらおう」

 妥当な条件ではあるが、保証なんかしようがない。
 ここで口約束を交わしたところで意味がないのだ。

『もっと悪辣な条件出して。金を出せとか財宝をよこせとか』
『それはちょっとやばいだろう。強盗みたいじゃないか』
『あたしたちは盗賊団でしょ。悪いことをするのが仕事なの』
『そ、そうだった』

 すごく小さい声でぼそぼそと喋ってるけど丸聞こえだ。

 うん。
 もう交渉の必要なくない?
 この人たち、メグを殺す気はなさそうだよ。

「なんだ! はっきり言ってくれ! 金か! いくら払えば良い!」

 ぼそぼそ喋らせておいても仕方ないので、こちらから水を向けてやる。

「お、おう。金だ。金を出せ!」
「いくらだ!」
「金貨五百枚くらい!」

 首領っぽいのが叫ぶ。
 そしたらまた女剣士が耳打ちですよ。

『バカなの? ケイ。そんな枚数の金貨を持ち歩いてるわけないでしょ』
『しまった。そうだった』

 ごほん、と咳払いして、ケイと呼ばれた男が訂正する。

「三十枚だ!」

 値下げ率がおかしいだろ。それ。
 なんでいきなり九割以上も引くんだよ。

 あとな。
 メグの価値はそんなもんじゃねえからな。あんまり安い値段を付けるなよ?
 ようするに、べつに金なんかいらないってことなんだろうけどさ。

 どうすっかな。
 なんか空気がぐだぐだになってきてるぞ。
 俺の後ろからは困惑の気配が伝わってるし、捕まってるメグすら微妙な顔だし。

「わかった! 三十枚だな!」
「あと追撃はするなよ! 村から半日離れたら女は解放する!」

 ようやく交渉がまとまりかける。
 あきらかに茶番くさい交渉はもういいいから、とっとと逃げてくれって気持ちが、俺の中にいっぱいだ。

『もっと悪いこと言って』
『ええぇ……』

 そしてまた女剣士が余計なアドバイスをする。
 もうええっちゅうねん。

『追撃できないように服を脱げとか』
『ギョクさん? 趣味はいってない? それ』
『脱がないんだったらこの女を剥くとか言えば、きっと脱ぐから』
『むしろ軍神ライオネルの裸なんか、まったく見たくないんだけど?』

 やばい。
 話がおかしな方向に行ってる。

 みんなの前で脱ぐのは嫌だが、メグを脱がせるわけにはもっといかない。
 やむを得ないか……。

「もういい! やめてくれシュクケイさま! 俺たちのためにあなたが泥をかぶる必要なんてないんだ!」

 そのとき、どやどやっと青年団連中が広場になだれ込んできた。
 あ、なんか救いの神っぽい。




「サジン。でてくるなって言ったのに」

 ふうとシュクケイが息を吐いた。
 しょーもない小芝居を続けなくて良くなったことに安堵したのか、計画が崩れてしまったことに落胆したのかは判らない。

 とにもかくにも、ここで青年団が出てきて盗賊団の首領っぽい人の名前を呼んでしまったら、すべて終わりだ。

 シュクケイがちらりと目配せすれば、メグを拘束していた女がその手を離した。

「メグ!」
「旦那ぁっ! すまんス!」

 駆け寄ってきた栗毛の女性を抱き留める。
 謝るのはこっちだよ。
 軽く頭を撫で、俺はシュクケイに向き直った。

「茶番はもう終わりでいいんだな? 盗賊団さん」
「ああ。改めて、シュクケイだ。軍神ライオネル」
「普通にライオネルと呼んで欲しいかな」

 にやりと笑ったシュクケイに俺は苦笑を返す。見事に負けてしまったからね。
 軍神なんていうご大層な称号は返上ですよ。

「こころみに訊くんですけど、メグを見捨てた場合、勝ち目ってあったんですか?」
「ない。隠形できる斥候が敵に二人。アスカとサリエリは動けないし、距離があったからミリアリアとの合体魔法も使えない。後ろからメイシャとミリアリアが刺されて終わりかな」

 ミリアリアの質問に肩をすくめてみせる。
 メグと敵の斥候との戦いが始まったとき、俺は敵も同じ布陣だと思ってしまった。そしてメグへの支援を怠った。

 これがすべてである。
 まさに読み負け。完敗だったのだ。

 

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