二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第100話 軍師VS軍師(後編)

 強!
 こいつ強!

 防戦一方に追い込まれてしまう。
 なんかどこを攻撃しようとしている、どうやって守ろうとしているか読まれてる感じだ。

 この戦い方、すごく知ってる。
 まるで俺じゃん。

「そうか! お前がダガンの軍師か!」
「リチューだ! 死ぬまでの短い間、憶えておけ!」

 黒い髪は乱れ、あちこち軽傷も負っているようだが、太刀筋は鋭く剣勢は強い。

「いまさら一騎打ちなんかに何の意味がある!」
「貴様さえいなければ!」

 しのぎを削り合う。
 戦いにくい相手だ。
 なにしろ鏡に映った自分と戦ってるようなものだから。

 出してくる手が読める。互いに。
 だから致命傷を与えられないし、同時に読みを外したら終わりだっていう焦燥が心を蝕んでいく。

「速戦を忌避して無意味な交渉に入った上層部も! わけのわからん小細工で糧食を焼いた貴様も!」

 鬼気迫る剣を回避しながら、なんとか距離を取ろうと試みる。

 ていうかバレていたのか。
 いや、バレるか。軍師が相手だもんな。

 フロートトレインまではたどり着かなくても、なんらかの小細工をしてるんだってことくらいは読むだろう。
 集積所になっている町や村ばっかり襲われてるんだから。

 で、ダガンだって密偵くらい放ってるだろうからね。俺の名前まで探り当てたってことかな。
 優秀だな。
 だけど、味方を犠牲にしてまで勝とうっていう優秀さは、俺は好かないよ。

「降伏しろ。リチュー。もはやダガンに勝ち筋がないことくらいは判るだろう」
「だまれ! 貴様も道連れだライオネル!」

 だめだー!
 聞く耳もってないー!

 後ろへ後ろへと下がりながら剣を振る。
 ていうか体中痛いんですけど。こちとら落馬したばっかりなんだからさ。

「こっのぉ! 母ちゃんをいじめんな!」

 突如としてアスカが降ってきた。
 ものすごい音を立て、オラシオンとリチューの剣がぶつかる。

「アスカ!?」

 戻ってきたのか。

 ていうかどうやって戻ったんだ?
 俺は落馬しちゃってる間に、馬に乗っている味方はどんどん先に進んでいる。
 逆走なんて、簡単にできることじゃない。

「馬から馬へ跳んできたよ! 母ちゃんを助けるために!」
「お、おう」

 軽業師かよ。
 そこまで心配されているとは、嬉しいやら情けないやら。

「小娘に助けられるとは! 見下げ果てた男だな!」

 激昂して、今度はアスカに斬りかかっていくリチューだったが、さすがにそれは無茶というものだ。

 二、三合ほど打ち合っただけで、ばっさり袈裟懸けにされてしまう。
 盛り上がりもなにもなく。

 闘神なんて称号をもらったアスカに、あまり前衛職とはいえない軍師が勝てるはずもない。
 いくら先読みがあったとしても、その読みすら超える速度で攻撃が繰り出されるんだから。

「こいつなんなの? 母ちゃん」
「敵の軍師さ。アスカが来てくれなかったら負けてた。助かったよ」
「にゃははは! って母ちゃん腕!?」

 笑ったアスカが血相を変えて駆け寄ってきた。

 腕?
 腕がどうしたって視線を下げたら、左腕がぷらぷらしていた。
 完全に折れてるな。こりゃ。

「いててててて……」

 認識したら激痛が襲ってきた。
 さっきまでは生きるか死ぬかの瀬戸際だってんで、負傷に気づく余裕もなかった。

 ていうか俺、左腕をこんなぷらぷらさせて降伏勧告とかしてたんだな。
 そりゃ受け入れられるわけがないよ。
 かっこ悪っ。






 アスカに支えてもらいながら歩く。

 軍師リチューは倒したけど、敵はまだまだ残ってるし、決着がつくまではまだしばらくの時間がかかるだろう。
 こんな状態の俺はもう戦えないので、救護班のいる本営の天幕へと撤退だ。

「ていうかアスカまで一緒にこなくて良いんだぞ? 武勲を立てるチャンスを逃しちゃっていいのか?」

 大勢的にマスル軍の優位は動かないから、徐々に掃討戦へと移行していくだろう。
 大将首とかを獲るチャンスだってあるはずだ。

「はぁ!? なにいってんの!? 武勲なんかよりネル母ちゃんの身体の方が大事に決まってるっしょ!」

 怒られた。
 ありがたいけど、男としては複雑な心境です。

「ネルママ!? 大丈夫ですの!?」

 天幕に近づくと、血相を変えたメイシャが飛び出してきた。
 そして両側から支えられてしまう。

 ちょっとやめてよ。ふたりとも。
 重傷の人みたいじゃないの。

「骨折が重傷じゃなかったら、この世に重傷なんて言葉は必要ありませんわ!」

 謎理論で怒られつつ、天幕の中に設置された簡易ベッドに寝かされてしまった。
 いつもの回復魔法でちゃちゃーっと直してくれれば良いだけなのに。

「これたぶん肋も折れてますわね。なにがあったのですか? アスカ」
「敵が突っ込んできて馬から落とされたんだよ」
「ほう? そしてその敵は?」

 すうっとメイシャの目が細まった。
 へたに美人だけに、ものすごい迫力である。

「わたしが殺したよ。敵の軍師だったみたい。母ちゃんに負けたのが悔しくて道連れにしようとしたんだって」

 適当な説明をするアスカだった。
 俺が教えたのは、もうちょっとおとなしめのストーリーだと思うぞ。
 そんな嫉妬の鬼みたいに言っちゃったら、リチューも浮かばれないだろう。

「そもそもネルママに勝てるつもりだったのですか? おこがましいにもほどがありますわね」

 ふんと憤慨しながら、メイシャが俺のブレストプレートを外したり血まみれの服を脱がせたりする。
 そして、それをアスカが心配そうに見守っている。
 大げさだなぁ。

「母さん!」
「ネルダンさん!」
「ネルネルぅっ!」

 なんと、ミリアリア、メグ、サリエリまで天幕にきちゃったよ。
 あんたたち、自分の仕事はどうしたのさ。

 
 

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