二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!
第99話 軍師VS軍師(前編)
ダガン帝国軍は、まっすぐにマスル王国軍の本隊を目指して突進する。
ようするに鶴翼の陣のど真ん中に攻撃を仕掛けようとしているわけだ。
普通に考えたら愚策の極致。囲まれて袋叩きにされるだけである。
しかし味方の犠牲を気にしなくて良いとしたら、これが最適解だったりするのだ。
そこだけ抜き出して考えたら六万対一万の戦いになるから。
数で劣るマスル本隊は、いずれ突破されてしまうだろう。
もちろんそれまでに、左右両翼に挟まれたダガン軍は大変な損害を出すだろうが。
「鶴翼の陣っては、比較的中央突破されやすい陣形なんですよね。どうしても左右に薄くのばすような格好になるんで」
「それを判っていて、この陣形にするのがお母さんの怖ろしいところだな」
鞍上で魔王イングラルが笑う。
彼の周囲を固めるのがライオネル隊だ。
親衛隊みたいな役割だと考えてもらえば判りやすいだろう。
「向こうさんには、いい気になって攻めてもらいたいですからね」
視線の先、もうまもなく本隊の前衛部隊が接敵するだろう。
鶴翼の陣というのはそれなりに軍略の知識がないと出てこない発想だ。相手を包囲殲滅するのに最も適した戦法だと。
つまり俺としては、敵の軍師に対してこちらにも軍略が判るものがいるぞ、とアピールしたのだ。
敵はそれを見て、唯一の正解である中央突破を敢行している。
というのが現在の状況だ。
徐々に徐々に、剣戟の音が近づいてくる。
一万の軍で六万を押しとどめようとしても簡単な話ではない。
ぐいぐい押し込まれているのだ。
「よし。敵の攻撃が集中するポイントの道を空けろ」
俺の指示が飛び、本隊が左右に分かれる。
中央突破されるのではなく、突破させてやるのだ。
あまりにも簡単に崩れるマスル軍本隊に疑問を抱くダガン兵もいただろうが、加速を始めた軍を止めることはできない。
まして左右からグラント魔将軍とサムエル魔将軍、アバンチ魔将軍とドズル魔将軍が猛然と攻めかかっているのだ。
生クリームが絞り出されるように前に進むしかない。
小半刻(十五分)ほどの戦闘で、マスル王国軍はすっかり突破を許してしまった。
ダガン帝国軍は、勝った、と思っただろうか。
だが、思ったにせよ喜んだにせよ、それは極短命の寿命しかもたなかった。
突破したはずのマスル軍が、なんとダガン軍の後背に食らいついたからである。
さらに、なぜか左右両側にもマスル軍が現れて攻撃を仕掛けてくる。
なにが起きているか判らず、ダガン軍は混乱の淵にたたき落とされた。
「種を明かせば、べつに難しい話でもなんでもないんだけどな」
愛刀の焔断を振って指揮を執りながら、俺は嘯いた。
俺たち本隊は全力疾走で左右に分かれてダガン軍を通しただけ。そして、左から攻めていたサムエル魔将軍とドズル魔将軍の部隊は、そのまますれ違って、それぞれダガン軍の左右に回り込んだだけだ。
やっぱり全力疾走でね。
すみません。みんなで走り回る作戦で。
もちろんグラント魔将軍とアバンチ魔将軍の部隊もすれ違い、今頃はすごい走ってダガン軍の左右に出ようとしているだろう。
「イングラル陛下。これにて後方からの半包囲体勢、完成です。あとはご随意にお暴れくださいませ」
わざとらしい恭しさで、俺は魔王に一礼してみせた。
「お前が味方で良かったよ! ライオネル!」
そう言ったイングラルが愛馬に拍車をくれ、勇躍して戦場に躍り込んでいく。
もちろん周囲の者たちも、遅れてはならじと続いた。
後ろから襲いかかられたらたまらない。
それは人間だろうとモンスターだろうと同じだ。
とって返して戦う者などおらず、まるで草でも刈るようにマスル軍は敵を打ち倒していく。
「こんな見事にハマるなんてな!」
俺の横に馬を寄せたナザルが、大声で話しかけてきた。
「弱点を知っているってのは怖いものさ。ついついそこを突こうと考えてしまう」
鶴翼の陣の弱点を敵の軍師は知っていた。だから、中央突破で一気に勝負を付けてやろうと考えてしまったのである。
自軍の損害を気にしなくても良いって前提条件もあったしね。
もし兵力を惜しむのであれば、いっそ俺たちに先制させて左右のいずれかに回り込んで各個撃破という手だって使えたんだ。
一気にこっちの頭を潰そうとしなくたってね。
「まあ、そうなったらなったで、十個ほど対処法があるんだけどな」
「おそろしやおそろしや!」
笑いながらナザルが馬を加速させ、敵陣へと躍り込む。
魔王や魔将軍にも言ったことだが、この戦いに勝つだけならそう難しくないのだ。
なにしろ敵は味方の兵を切り捨てるつもりで戦うから。
問題はその過程でマスル軍に蔓延してしまうだろう厭戦気分だ。
かなり陰性で後味の悪い戦いになってしまうからね。
そうならないために一気に幕を引く。
ダガン軍に壊滅的な大打撃を与えて敗走させるのだ。敗戦の記憶がトラウマとして残るくらいのね。
もうマスル王国には関わりたくないって思ってしまうくらいに。
ようするに完全に国交を断絶することになるけど良いか、と、という覚悟を、俺は魔王に尋ねたのである。
その答えが諒だったため、この作戦を実行した。
軍師ライオネル、一世一代の大包囲殲滅戦である。
「母ちゃん! 危ない!」
アスカの声が響いてはっとしたとき、もうすでに目の前に敵がいた。
馬が激しく衝突し、もんどり打って俺は地上に落ちる。
なんとか不完全ながら受け身をとり、一挙動で起き上がれば、またまた目の前に剣が迫っていた。
かろうじて焔断ではじく。
「貴様がライオネルだな! ヘボ軍師めが!」
怒りの声とともに、矢継ぎ早に繰り出される剣を受け、かわす。
なんなの?
こいつ。
ようするに鶴翼の陣のど真ん中に攻撃を仕掛けようとしているわけだ。
普通に考えたら愚策の極致。囲まれて袋叩きにされるだけである。
しかし味方の犠牲を気にしなくて良いとしたら、これが最適解だったりするのだ。
そこだけ抜き出して考えたら六万対一万の戦いになるから。
数で劣るマスル本隊は、いずれ突破されてしまうだろう。
もちろんそれまでに、左右両翼に挟まれたダガン軍は大変な損害を出すだろうが。
「鶴翼の陣っては、比較的中央突破されやすい陣形なんですよね。どうしても左右に薄くのばすような格好になるんで」
「それを判っていて、この陣形にするのがお母さんの怖ろしいところだな」
鞍上で魔王イングラルが笑う。
彼の周囲を固めるのがライオネル隊だ。
親衛隊みたいな役割だと考えてもらえば判りやすいだろう。
「向こうさんには、いい気になって攻めてもらいたいですからね」
視線の先、もうまもなく本隊の前衛部隊が接敵するだろう。
鶴翼の陣というのはそれなりに軍略の知識がないと出てこない発想だ。相手を包囲殲滅するのに最も適した戦法だと。
つまり俺としては、敵の軍師に対してこちらにも軍略が判るものがいるぞ、とアピールしたのだ。
敵はそれを見て、唯一の正解である中央突破を敢行している。
というのが現在の状況だ。
徐々に徐々に、剣戟の音が近づいてくる。
一万の軍で六万を押しとどめようとしても簡単な話ではない。
ぐいぐい押し込まれているのだ。
「よし。敵の攻撃が集中するポイントの道を空けろ」
俺の指示が飛び、本隊が左右に分かれる。
中央突破されるのではなく、突破させてやるのだ。
あまりにも簡単に崩れるマスル軍本隊に疑問を抱くダガン兵もいただろうが、加速を始めた軍を止めることはできない。
まして左右からグラント魔将軍とサムエル魔将軍、アバンチ魔将軍とドズル魔将軍が猛然と攻めかかっているのだ。
生クリームが絞り出されるように前に進むしかない。
小半刻(十五分)ほどの戦闘で、マスル王国軍はすっかり突破を許してしまった。
ダガン帝国軍は、勝った、と思っただろうか。
だが、思ったにせよ喜んだにせよ、それは極短命の寿命しかもたなかった。
突破したはずのマスル軍が、なんとダガン軍の後背に食らいついたからである。
さらに、なぜか左右両側にもマスル軍が現れて攻撃を仕掛けてくる。
なにが起きているか判らず、ダガン軍は混乱の淵にたたき落とされた。
「種を明かせば、べつに難しい話でもなんでもないんだけどな」
愛刀の焔断を振って指揮を執りながら、俺は嘯いた。
俺たち本隊は全力疾走で左右に分かれてダガン軍を通しただけ。そして、左から攻めていたサムエル魔将軍とドズル魔将軍の部隊は、そのまますれ違って、それぞれダガン軍の左右に回り込んだだけだ。
やっぱり全力疾走でね。
すみません。みんなで走り回る作戦で。
もちろんグラント魔将軍とアバンチ魔将軍の部隊もすれ違い、今頃はすごい走ってダガン軍の左右に出ようとしているだろう。
「イングラル陛下。これにて後方からの半包囲体勢、完成です。あとはご随意にお暴れくださいませ」
わざとらしい恭しさで、俺は魔王に一礼してみせた。
「お前が味方で良かったよ! ライオネル!」
そう言ったイングラルが愛馬に拍車をくれ、勇躍して戦場に躍り込んでいく。
もちろん周囲の者たちも、遅れてはならじと続いた。
後ろから襲いかかられたらたまらない。
それは人間だろうとモンスターだろうと同じだ。
とって返して戦う者などおらず、まるで草でも刈るようにマスル軍は敵を打ち倒していく。
「こんな見事にハマるなんてな!」
俺の横に馬を寄せたナザルが、大声で話しかけてきた。
「弱点を知っているってのは怖いものさ。ついついそこを突こうと考えてしまう」
鶴翼の陣の弱点を敵の軍師は知っていた。だから、中央突破で一気に勝負を付けてやろうと考えてしまったのである。
自軍の損害を気にしなくても良いって前提条件もあったしね。
もし兵力を惜しむのであれば、いっそ俺たちに先制させて左右のいずれかに回り込んで各個撃破という手だって使えたんだ。
一気にこっちの頭を潰そうとしなくたってね。
「まあ、そうなったらなったで、十個ほど対処法があるんだけどな」
「おそろしやおそろしや!」
笑いながらナザルが馬を加速させ、敵陣へと躍り込む。
魔王や魔将軍にも言ったことだが、この戦いに勝つだけならそう難しくないのだ。
なにしろ敵は味方の兵を切り捨てるつもりで戦うから。
問題はその過程でマスル軍に蔓延してしまうだろう厭戦気分だ。
かなり陰性で後味の悪い戦いになってしまうからね。
そうならないために一気に幕を引く。
ダガン軍に壊滅的な大打撃を与えて敗走させるのだ。敗戦の記憶がトラウマとして残るくらいのね。
もうマスル王国には関わりたくないって思ってしまうくらいに。
ようするに完全に国交を断絶することになるけど良いか、と、という覚悟を、俺は魔王に尋ねたのである。
その答えが諒だったため、この作戦を実行した。
軍師ライオネル、一世一代の大包囲殲滅戦である。
「母ちゃん! 危ない!」
アスカの声が響いてはっとしたとき、もうすでに目の前に敵がいた。
馬が激しく衝突し、もんどり打って俺は地上に落ちる。
なんとか不完全ながら受け身をとり、一挙動で起き上がれば、またまた目の前に剣が迫っていた。
かろうじて焔断ではじく。
「貴様がライオネルだな! ヘボ軍師めが!」
怒りの声とともに、矢継ぎ早に繰り出される剣を受け、かわす。
なんなの?
こいつ。
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