二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

閑話 風雲急を告げる!

 カイトスから事情を聞き、ドロス伯爵は大きく嘆息した。

「バカだバカだと思っていたが、王都の連中がここまでバカだとはな」

 右手で眉間のあたりをおさえる。
 老顔に刻み込まれた皺が彼の苦悩を表しているかのようだった。

 魔族は不倶戴天の敵だ、とか勇ましいことを叫んでいる馬鹿どもは、この国の経済がどれほど魔族との密貿易に依存しているか判っているのだろうか。
 まあ、判っていないからこそ、お気楽に戦争ごっこを楽しめるのだろうが。

「密貿易のことは秘密だから判らないのは無理もないがの。国力差くらいは考えて欲しいものだて」

 カイトスもまた苦笑を浮かべた。

 彼らは同志である。
 年齢や立場は異なるが、マスル王国と争ってはいけないという共通認識で結ばれた。

 当代の魔王、イングラルの登極後、マスルは融和路線を打ち出してきた。国境の小競り合いなどは起きているが、これはほとんどすべてがリントライト王国から仕掛けたものである。

 それがあったからこそカイトスはイングラルと知己になれたのであるが、マスルと戦うべきではないという思いを、最も強く抱いている一人がカイトスであることもまた事実だ。
 理由は単純で、勝てないからだ。

 百回戦ったら百回負ける。
 そのくらい実力差があるのである。明敏な武人である彼は戦うべきではないと判断した。

 ドロス伯爵は少し異なっていて、政治家として経済的な見地からマスルとの敵対を忌避している。
 王都の連中は認めたくないことだろうが、生産力や資本力などは、ざっと試算で十対一の劣位にあるのだ。

 マスルが本気で経済戦争を仕掛けてきたら、リントライトなど三年を待たずに国家が破産するだろう。

「そうならないのは、魔王イングラルが隣人として、友人として我らを尊重してくれているからだとなぜ判らんのか……」
「なぜかと問われれば、バカだからと答えるしかないな。某はほとほと呆れ果てたよ」

 互角の条件での和平を切り出したカイトスを、国王と重臣は売国奴と呼んだのである。
 たぶん国王の頭の中では、マスル王国は容易に蹴散らせる相手なのだろう。

「そもそもどうやって戦争をするつもりなのだ。物資は? 糧食は? 反乱軍と戦うときですらガイリアが供出してやっているというのに」

 政府が準備できないからだ。
 気前良くドロス伯爵は融通してやっているし、べつに返済を要求してはいないが、べつにプレゼントしているわけではない。
 もらったつもりでいるのは、王国政府の自由というものだが。

「一つだけよろしいですか? 伯爵閣下」

 控えめな声があがる。
 将軍と伯爵の会談に同席を許された唯一の民間人、『希望』クランのライオネルだ。
 魔王イングラルとの面識もあり、カイトス将軍が秘蔵っ子と公言してはばからない人物のため、ドロス伯爵も会ってみたくなったのである。

「リントライト王国の狙いは、たぶんガイリアだと思いますよ。マスル王国ではなくて」

 そのライオネルが穏やかな顔で投げ込んだのは、言葉の爆弾だった。






 驚く将軍と伯爵の前に、在野の軍師が自説を開陳してみせる。

 王都を脱出してから、彼はずっと考えていたのだ。
 王国軍の手際の悪さについて。

 拘束されていた王城の地下牢からの脱出、これは味方の手際が良すぎたということで説明がつく。

 問題はその後だ。追撃する部隊をおそらく四方八方に走らせている。
 これがまずおかしい。
 軍師キリルがおこなった流言工作があるとしてもだ。

 マスル王国との通謀疑惑かけられたカイトス将軍が逃げる先である。マスルしかないではないか。
 ならはガイリアを通るのは必然。
 全軍を差し向けるとまでは行かなくとも、一個大隊五千名くらい投入しても良かったのだ。

 カイトス家の精鋭が百人くらいなのに対して、百二十とか百五十くらいの兵を小出しにしてぶつけるのは不合理がすぎる。
 もうちょっと俗な言い方をすれば、セコすぎる。

「そう考えれば、王国政府の目的が見えてきますよね。お二人を会わせたかったわけですよ」

 マスル王国と内通しているカイトスが王国軍に追われて頼った相手がドロス。つまり彼もまた反逆者だ。
 という論法で、ガイリアへ侵攻する大義名分が立つ。

「しかしな、若いの。追撃部隊は必死で某たちを倒そうとしていたではないか」
「そうです。俺の考えのネックもそこにありました」

 カイトスの言葉にライオネルが頷いた。
 将軍と伯爵を接触させるのが目的なら、もっとずっとおざなりな追撃で良いはずなのである。

「けど考え直しました。あれはあの隊長の独断でしょう。近隣の部隊を糾合するなど、やることがちぐはぐすぎますんで」

 ようするに功を焦って無理をしてしまった。さらに、上層部の意図を教えられるほどの重鎮でもなかったのだろう。

「ともあれ、これで形式は整いました。じきに攻めてくるでしょう。マスルと戦うためではなくて、ガイリアの富を根こそぎ奪うために」
「……なるほどな。カイトスどのが自慢したくなるのも判る。在野に置いておくには惜しすぎる知謀だ」

 ほうとドロス伯爵がため息をついた。
 長年にわたって、ガイリアという広大な土地を治めてきた男である。
 この土地の価値はよく知っていた。

「王国全土の二割を占める土地、一割に達する人口、三割を超える生産力、おそらく蓄財は国庫の半分には達しよう。そりゃあ欲しがるわけだな」
「はい。喉からどころか、胃からでも腸からでも手を出して」

 ドロスの言葉にライオネルが頷く。

「ついに、自分の足を食わねば生きられんところまできてしまったのだな。リントライト王国は」

 カイトスがやれやれと首を振った。
 末期症状ではないか、と。

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