二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

第33話 ラクリスの迷宮

「ラクリス迷宮か。また厄介な場所を厄介なモンスターに陣取られたもんだな」
「もう五チーム目の失敗ですよ。上層部も頭を抱えています」

 ふうとジェニファがため息をついた。
 こいつは、そうとう上からも絞られてるな。可哀想に。

 地下百階層はあるんじゃないかって噂されるラクリス迷宮に、キマイラっていうものすごく強いモンスターが住み着いてしまったのは、半月ほど前のことらしい。

 地下十階の大広間に。
 たいへんによろしくない場所だ。

 というのも、今は二十五階の攻略が進行中だからである。
 これはどういうことかっていうと、迷宮攻略に挑んでいる最精鋭の冒険者クランと地上が分断されてしまったってこと。

 キマイラをなんとかしないと、彼らは帰還することもできない。
 かなりまずい状況のため緊急依頼が出されて、腕に覚えのある冒険者たちがキマイラ討伐に動いた。

 そしてことごとく失敗する。

 場所が悪いのだ。
 迷宮の中の大広間という中途半端に広い空間は、キマイラのような大型のモンスターが思う存分に暴れ回れる。
 けど、人間たちが大兵力を展開するには狭すぎる。

 あの広間だと、同時に戦闘できるのはせいぜい五、六人が限度かな。ようするに個人戦の延長みたいな格好でキマイラと戦えって話だ。
 そりゃさすがに無理筋すぎるだろ。

 あ、念のために説明しておくと、キマイラってのは、ドラゴン、ライオン、ヤギの首を持つ四つ足のモンスターだ。さらに尻尾は毒蛇である。

 ライオンの頭は咬みついてくるだけだけど、顎の力たるや人間の身体なんてぶちって真っ二つに咬みちぎってしまう。
 その上、ドラゴンの頭は炎の吐息ブレスを吐くし、山羊の頭は魔法を使ってくる。
 そして毒蛇には当たり前のように毒がある。しかも致死性のやつ。

 そんなやばいモンスターを、たったの五人か六人でやっつけないといけないわけだ。

「封鎖されて半月っていったよな」
「はい。そろそろ限界ですね」

 深刻そうにジェニファが頷く。

 攻略をおこなっているクランは、もちろん余裕をもって食料を携行している。迷宮内には水場もある。
 しかし、食料を節約するといって限度はあるのだ。

 地上に戻りたいという欲求だって、日に日に大きくなっているだろう。

「ライオネルさん。それでですね」
「判ってる。俺たちしかいないんだろ? もう」

 皆まで言わせず、俺はジェニファの肩を叩いてやった。
『希望』というのは、けっして有力なクランではない。まず全体の人数が少ないし、財政基盤なんかゼロに等しい。出資者スポンサーすらいない。

 しかし、五人を選抜して戦えって条件をつけたら、俺たちの強さはガイリアでも上から数えた方が早いだろう。

 メグの実力こそまだ未知数だけど、アスカ、ミリアリア、メイシャの成長はめざましいしね。
 それを俺が指揮するんだ。

 キマイラにだって勝てる、かもしれない。
 伸るか反るかはやってみないと判らない。十全の自信をもって戦える相手じゃないからな。

 けど、ジェニファが俺に話を持ってきたってことは、もう他に勝てそうなやつがいないってこと。
 ここまで挑んだ五チームだって、弱いわけがないのである。
 ギルドがゴーサインを出すレベルのチームなんだから。

「六チーム目になっても恨んでくれるなよ?」
「わりとマジで成功を祈ってます」





 期待していた以上にメグが良い。

 翌日、俺たちはさっそくラクリス迷宮に挑んでいた。
 街から迷宮まではギルドが馬車を仕立ててくれたため、移動も楽々である。

 おかげでほとんど疲労感なくアタックを開始することができたわけだが、「韋駄天ハイウェイスター」の斥候スカウトは、俺の想像を超えて大活躍だった。

 まず、モンスターに奇襲されないのね。
 ほぼ絶対に。

 すごい速さで偵察して状況を教えてくれるもんだから、むしろ俺たちが常に奇襲できるくらいなんだ。
 これがどのくらい有利な状況かってことは、一度でも剣を握った事がある人なら判ると思う。

 俺たち軍師は、どうやったら味方が先制できるかってのに頭を悩ませているわけだからね。
 それがナチュラルに毎回できちゃうんだから、使える作戦の幅だって段違いに広がるんだわ。

「ポイズンラットが二十匹いたス。気づいてなかったんで毒餌を転がしてきたス」
「上等」

 するすると音もなく前方から戻ってきたメグが報告してくれる。
 こういうこともできちゃう人なんです。

 俺とアスカは頷き合い、巨大ネズミがいるという小部屋の前まで歩を進めた。
 近づくにつれ、苦悶の鳴き声が大きくなる。
 毒餌に引っかかったな。

 ちょいちょいと後方に向かって人差し指を動かし、ミリアリアを呼ぶ。
 ちなみに同じ状況で中指を動かした場合には、メイシャを呼んでるんだ。手のひら全体だったら二人ともね。

「マジックミサイルを部屋全体に頼む。狙いは付けなくて良い」
「判りました」
「一拍おいて、俺とアスカで突入な」
「りょーかい」

 すーっと入口のところまで杖の先を伸ばし、ミリアリアが魔法を発動させた。
 部屋の中を数十の魔力弾が飛び回る。
 まさに縦横無尽に。

 毒を喰らって苦悶しているところに、荒れ狂う魔法攻撃だ。
 これはたまらんだろう。

「いくぞ!」
「うん!」

 嵐の静まった室内に俺とアスカが飛び込む。
 まあそんなに勇ましいものじゃないけどね。瀕死のポイズンラットどもにとどめを刺していくだけの簡単なお仕事だ。

 第七層までクリアして、俺たちなんとノーダメージである。

 

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