二度追放された冒険者、激レアスキル駆使して美少女軍団を育成中!

南野雪花

閑話 狼に墓標はいらない 3

「なんだよそれ。卑怯すぎだろ。三対一とか」

 失笑寸前の顔でルークが言った。
 一騎打ちが、いきなり三対一である。

 しかも魔法職がふたりでバックアップするなど、卑怯とかそういう次元の話ではなく、まるでモンスター退治だ。
 対人戦のやり方ではない。

「三対一じゃない! 四対一だよ!」

 いつの間にか死角に回り込んでいたアスカが、裂帛の気合いととともにルークに斬りかかった。
 なんとか受けたものの、手には痛いほどの痺れが残る。

 女性とはいえ、彼と同じ「英雄ヒーロー」で剣士ソードマンの一撃だ。
 軽いはずがない。

「くっ!」

 間合いを取って体勢を立て直そうとする。
 しかしそこにライオネルが斬り込んできた。

「んな!?」

 剣ではじくことができたのは、むしろ偶然である。
 苦し紛れに振ったロングソードが当たっただけだ。

 計算もなにもなく大きく後ろに跳んで距離を取る。
 ライオネルとアスカは追撃しなかった。
 ちらりと視線を交わし、左右からじっくりと間合いを計る。

「てめえら……」

 突如として四倍になってしまった敵に、ルークの頬を汗が伝った。





 相打ち覚悟で戦いに臨もうとしていたライオネルに対してアスカの言った言葉は、非常にあっさりとしたものだった。

「みんなで戦えば良いじゃん」

 男のロマンチシズムを全否定である。
 ライオネルは目をぱちくりとしばたかせた。

 おそらくルークは手下を引き連れているだろうから、三人娘には露払いを頼むつもりだったのである。
 その間に自分は一騎打ちを挑もうと。

「皆で手下を全滅させ、皆でルークを倒す。それでなにか不都合がありますか?」
「いや……まったくなにも問題ない」

 不思議そうな顔のミリアリアに、ライオネルは頭を掻いてみせた。
 どうして一騎打ちにこだわっていたのか。

 ルークは幼なじみで、一緒に『金糸蝶』を作り上げたかけがえのないない親友だった。
 しかしそんなものはライオネルの個人的な事情に過ぎない。

 今のルークはただの殺人犯だ。
 確実に捕縛するか、殺さなくてはならない。
 求められるのはそれだけである。

 獣やモンスターを狩るときと、まったくなにも変わらない。

「ネルママは考えすぎなのですわ。わたくしたちは仲間、四人で一つですわよ」

 えらそうに言って豊かな胸を反らすメイシャに苦笑しながら、ライオネルは三人娘に策を授ける。

 それは、ライオネルが一騎打ちにこだわっているように見せてルークの油断を誘い、タイミングを計って全員でやっつけてしまおうという、まさに身も蓋もない作戦であった。






 ライオネルとルークはほぼ互角。そしてアスカもまたルークに引けを取らないだけの強さを誇っていた。

 この二人を同時に相手にするだけでも骨が折れるのに、アスカが持っている剣は魔法の品物マジックアイテムだし、ライオネルの剣にもエンチャントがかかっている。
 受けているだけでルークの剣はボロボロになっていくのだ。

 あげく、運良く二人にダメージを与えても、メイシャが回復魔法で傷を癒やしてしまう。

「ったく。勝ち筋がねえじゃねえか……」

 呟いた瞬間、鋭く跳ね上げられたアスカの魔力剣が、ルークの右腕を肩口から切り飛ばした。

「っ!?」

 剣を持ったままの腕がどさりと床に落ち、一拍遅れて血が噴き出す。
 俺がフィーネにやってしまったことと同じだな、と、なぜか彼はそんなことを考えた。
 目前に迫ったライオネルの剣を、どこか他人事のように眺めながら。

 それは左の鎖骨を撃砕し、心臓に到達する。
 ごふり、と、血の塊がルークの口からこぼれた。

「……なあ……俺たちは……どこで間違ったんだろうな……」

 切れ切れの声が紡がれる。
 ライオネルは答えなかった。
 答えられなかった。

 正答の持ち合わせがなかったから。
 そんなものがあるのなら、彼が知りたいくらいだったから。

「……墓標にはなんと刻む? ルーク」

 だから、口にしたのは別のことである。
 血まみれの男の口が、笑みの形に歪んだ。

「……いらねえよ……墓なんか……」

 それ以上の会話を拒否するように膝から崩れ、ルークの身体は自らの血の中に倒れ込んだ。

 ライオネルは大きく息を吐き、天井を見上げる。
 なにかを求めるように。 
 あるいは、涙をこらえるように。

 ほとんど生まれたときから一緒に育ち、ともに夢を追いかけた無二の親友との、これが終焉だ。
 本当に、どこで間違えてしまったのだろう。

「なにやってんだろうな……俺は……」

 呟き。
 もちろん答えを期待してのものではない。
 しかし、彼の正面から近づいたアスカが、ぎゅっと力を込めて抱きしめてくれた。

「わたしがいるよ。ライオネル」

 愛称ではなしに呼びかける。
 さらに、とん、と背中から抱きしめられるのを感じた。

「私もいます。ライオネルさん」

 ミリアリアだ。
 そして、メイシャが手を握ってくれる。

「わたくしもおりますわ。ライオネルさま」

 と。
 なんともいえない表情を、ライオネルが浮かべた。
 表情の選択に困るというのは、こういうときのことをいうのだろう。

「あー、オレもいるス。いちおー」

 少し離れたところから、なぜかメグが申し出た。

『ぜんぜん関係ない人じゃん』

 三人娘の総ツッコミである。
 漫才のようなやりとりに、すこしだけライオネルが笑みを浮かべた。
 ほんのわずかに心を軽くしたように。




第一部 完

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