アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

06.探し物は高所から

 ***


「――えーっとじゃあ、あらゆる探し物は高い所からが一番ですし。これで」


 捜すべき人がたくさんいる。メイヴィスはローブに片手を突っ込むと、黒くて薄い板を取り出した。騎士と学者の視線が集まる。


「それは?」
「私が広い範囲での探し物用に作った、上空から下界の様子を見る事が出来るマジック・アイテムです。原理はギルドの救援用アイテムと同じようなものですけれど」


 板に重なるように保管されていた黒い紙を1枚破り取る。それは手を放すと鳥の形に姿を変え、空へ飛び上がった。残された黒の板には鳥から見た視点での様子がはっきりと映っている。
 試しに鳥に向かって手を振ってみると、板に映るメイヴィス自身も手を振った。設置はバッチリ。かなり久しぶりに使用したので動かなかったらどうしようかと思った。


「今何か映らなかったか?」
「え?」


 イェオリの声で我に返る。慌てて板に視線を落とすが、それらしいものは映っていない。同時にこの発明品の欠点に気付いた。
 鳥は板から遠く離れた場所まで飛んで行く事は無いが、こちらでどの辺を重点的に見て欲しいという指示が出せない。戻って来い、行って来いの命令しか出せないのだ。とんだ欠陥品である。戻ったら早急に手直しが必要だ。


 四苦八苦していると、一緒に板を覗き込んでいたアロイスが意見を述べる。


「イェオリの言う通り、人のようなものが先程一瞬だけ映った。複数銘いたようだな、はぐれたギルドのメンバーかもしれない。早速向かおう」
「待ってアロイスさん、その人達がどの辺にいるのか分かるんですか!?」
「ああ。メヴィが飛ばした鳥があの辺を飛んでいた時の映像だったはずだ。ならば、その視界に入る範囲内にはいるんだろう?」
「は、ハイスペック……!!」


 前々から思っていたが彼は少々持っている能力が上等のようだ。たまに同じ人間なのか本気で確認したくなってくる。


「進行方向はこちらだったな。出来れば正面から鉢合わせして、移動距離を減らしたいものだ」
「もう彼に全部任せていいんじゃないかい? 僕要らないだろ、これ……」
「大丈夫ですよ、イェオリさん。私もぶっちゃけ役に立ってませんから」


 迷いの無い足取りで歩みを進めるアロイスの背を小走りで追いかける。あまりにも確固たる自信を持っているので、付いて行く身としても不安感が消えて良い。


 アロイスの先導通りに歩いて行くと、すぐに上空から確認出来た人物達と接触出来た。人数は3人。見覚えがあるような、無いような顔立ちの男性達だったがイェオリが安心したように息を吐き出したので知り合いなのだろう。


「イェオリさん、例のクエストメンバーですか?」
「ああ。何人か見えないが、一先ず3人は無事のようで良かった!」


 イェオリの反応とは裏腹に、ギルドのメンバー達はゲンナリした顔をしている。


「そっちも元気そうで何よりだ、イェオリ。……もしかして、救援の鳥を飛ばしたのもお前か?」
「そうだよ。近くにアロイス達が居て良かった」
「まあ、騎士連中はな……人外みたいな強さだし。だが残念な報せがある。今日のメンバーで生き残っているのは俺達3人だけだ」


 渋面のアロイスが不意にその会話に割って入った。


「つまり、お前達で今回のクエストメンバーは全員って事か? ならば、すぐに離脱しろ。あと、一つ聞きたいんだが……見るからに怪しそうな、ギルドのメンバーではない者、端的に言えば不審な人物はいなかっただろうか?」
「不審人物? つってもな、ギルドに所属してる奴は一杯居るし顔を知らない奴もたくさんいる。それでもいいか?」
「ああ、構わない」
「このクソ熱いのにフードを被った奴となら、あの神魔物と遭遇する前に擦れ違ったぜ。アホみたいに広い森林でよく擦れ違ったなとは思ったが」
「それは確かに……不審だな」


 この森林で打ち合わせもせず人と擦れ違うのは天文学的数値だ。こうやって接触しようとしているならともかく、偶然と言うより必然を疑いたくなるのは当然である。
 眉根を寄せたイェオリがそういえば、と首を振った。


「気が動転してすっかりそんな事忘れていたが、言われてみれば人がいたな。そうか、僕はあまり外に出ないから何とも思わなかったが、不自然な状況だったのか……。ただ、先程からアロイスが言っているように、神魔物収納可能な紙片? とやらを持っている人物であれば、まだ近くにいてもおかしくはないかもしれない」
「と言うと?」
「僕は学者だが、もし神魔物を自由に操る事が出来る紙片を手に入れたとして――まあ、その性能を試すのは学者の性というやつさ。近くにいて、どの程度の被害をもたらせるのか観察しているかもしれないな」


 その気持ちは分からなくも無い。メイヴィスは錬金術師だが、それでも新しく作ったマジック・アイテムの使用感は知りたいと思う訳だし。新しい発明品を試したがるのは作る側の習性と言って差し支えないだろう。



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