アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

08.注意事項

 ***


「メヴィ、素材は足りるだろうか?」


 所変わって地下工房にて。何故か一緒に付いてきたアロイスが、メイヴィスに訊ねる。自主的に手伝ってくれるのは大変嬉しいのと同時、手を煩わせていると億劫になるのだがどうすればよいだろうか。


「ストックもあるので、ちょっと作るだけです。素材なら足りるかと……恐らくですけど」
「そうか。入り用になれば言ってくれ。待機組と一緒に素材の買い出しくらいなら行こう。あまり俺では役に立たないかもしれないが」


 ――滅相も無い! と心中で首を横に振る。アロイスは最早隣にいてくれるだけで大助かりである。あらゆる活力が湧いてくるというか、元気を分けて貰っているのだと思う。
 錬金釜を用意しながら騎士サマに話し掛ける。ヴァレンディアへ出張してからと言うもの、彼へ話し掛けるのにあまり気後れしなくなってきた。


「アロイスさんは、現場でどう立ち回るんですか? 私、丁度この間言ってた魔法武器が完成したので少しくらいなら役に立てるかも……」
「そうだったな。お前をあまり前線へは出したく無いが、万が一の場合は頼らせて貰おう」
「はーい。ところで、私のマジック・アイテムの使い方って皆さん分かるんでしょうか?」
「俺は何となく把握しているが、ヘルフリートやナターリアあたりは説明しなければ分からないだろう。すまないが、使い方の指南もしてやってくれ」
「了解です」


 ヘルフリートは見た目かなり器用そうなので、それとなくアイテムの使い方が分かりそうなものだが。逆にナターリアは魔法との相性が頗る悪い。彼女の為にも、簡単に使用出来るアイテムに今のうちから改造しておいた方が良いだろう。


 今後の予定を脳内で組み立てながら、釜に満ちた素材液に視線を落とす。錬金術の時間だ。時間を浪費している暇は無いので手早くオーダーを作ってしまうとしよう。


 ***


 準備が完了したので、再度集まる事となった。というのも、相手がウタカタという事で念には念を。作戦内容を事前に確認してから現地へ赴く事となったのだ。当然と言えば当然である。基本的にギルドというのは行き当たりばったりなところがあるが、騎士が3人も揃っていれば手堅くクエストを遂行してくれる。


「じゃあ、私達で話し合った作戦の概要を説明しますね」
「命に関わるからしっかり聞いてくれ! 理解出来ないようであれば、対策を考えるから恥ずかしがらずに伝えて欲しい」


 プレゼン担当はヒルデガルトとヘルフリート。その間にアロイスは納品したアイテムの個数を確認するようだ。役割分担がしっかりし過ぎている。


 作戦の概要は簡単だ。村周辺に入った瞬間からアイテムを使用。振って来る雨粒を氷に変えながら走り抜ける。冷気持続アイテムを作らされたので、それなりの時間は活動が可能だろう。
 プロバカティオについてはどこに潜んでいるのか現段階で全くの謎。当然、炎で焼き払えば代償として氷系統のマジック・アイテムの威力が無に帰すので要注意。最悪、ウタカタを倒してから戻ってくればいいので逃げるのも可。


「作戦っていうか、対策って言うんだよね! こういうの!」


 ナターリアがコロコロと笑う。ヒルデガルトが気まずそうな笑みを溢した。しっかりミーティングはしてくれるが、作戦内容は騎士の戦闘能力を基本とした作戦になってしまうようだ。


「ああ、それと。雨に当たったと思ったら安全を確認出来るまで急激な動きは控えて下さい。一粒当たっただけで身体が弾け跳ぶ可能性がありますからね」
「こっわ。ギルドってこんな危険な仕事する場所だったっけ?」


 思わず素を見せたナターリアは眉根を寄せている。しかし、ここコゼットで一番大きな国営ギルドだ。騎士団が動くに動けない依頼が巡ってくるのは必然とも言える。
 まあまあ、とナターリアを宥めていたヘルフリートがもう一つ注意事項を付け足す。


「みんな優秀だから無いとは思うが、万が一大怪我をした時には仲間と一緒に速やかにその場から離れてくれ。一人で行動しないようにな! ウタカタは自発的に攻撃してこないけれど、プロバカティオの養分になるかもしれない」
「こう、珍獣大戦みたいになってますね。今回のクエスト。いや、クエストって言うより何らかの任務みたいな様相を見せてますけど……」


 生きて明日を迎えられるのだろうか。メイヴィスは虚ろな目で天井を仰いだ。



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